ー裸族の章 4- 銭湯に行こう その4
衝立1枚向こうから菜々と風花は、男湯を覗き込み、俺たち4人に質問を投げかけてくる。
「で、きみたち4人のなかで1番出世しそうなのは誰なの?」
そう言い出したのは菜々さんだ。菜々さんはセミロングの髪型で肩にかかるかかからないかの長さの髪だ。
「当然、僕なんだぶひい」
「そういって、きみ、信長さまの軍に入隊して2年だけど、一向に出世してないじゃない」
「そ、それは戦がないからだぶひい。戦が起きれば活躍して出世してやるんだぶひい」
「え、軍に入ってるのに戦に行ってないって、どういうことだよ」
俺は疑問に思い、田中たちに聞く。
「彦助さん。あなた、どこの田舎ものなんですか。ここらを支配していた信長さまの父君、信秀さまが前年亡くなられたばかりなのですよ」
俺の疑問に対してロングヘアーの風花が応える。
「あ、ああ、そうなの。俺、部屋住みだったから外界の情報には疎くてさ。つい、この前、逃げ出してきたばかりなんだ」
苦しい言い訳をしながら、俺は話の続きを促す
「で、信長の親父が亡くなったからといって、戦が起きないのはなんでなんだ?」
「起きないわけではないのですよ。いまは、信秀さまの跡目争いが表面化していないだけです。裏では何かしらやっているとは思います。ただ」
「ただ、どうしたんだ?」
「熱田の巫女といえども、軍事機密になるような情報は中々はいってきません。噂程度のものまでしか」
「ふうん。忍者とかいないの。忍者。敵が動いたら逐一、報告してくれるような」
俺はロールプレイングゲーム脳、全開な発言をする。すっとんきょうな質問に、風花は丁寧にこたえてくれる。
「忍者ですか。一種の伝説みたいな話ですね。彼らは確かに諜報活動に長けているという噂ですが、実際にそれだとわかるひとはいないと思います」
「そらそうだぶひい。忍者が伝説通りの忍者の恰好なんかしてたら、ひそんでないんだぶひい」
「はははっ、弥助もそう思いマス。忍者って、普段、何してるんですかネ」
「意外と情報が行きかう銭湯なんかに入り浸っているかもね」
そういうのは、椿だ。
「やべえ。忍者と言えば、暗殺者だろ。俺ら、こんな会話してていいのかよ」
そう思い、風呂場なのに寒気を感じてしまう。
「はははっ、彦助は馬鹿なんだぶひい。ひそんで情報集めなきゃならないのに、衆目を集める殺しなんてやるわけがないんだぶひい」
「ちょっと、きみ、おもしろすぎるよ。おとぎ話の世界からやってきたの?」
「ふふっ、あんまり笑っては殿方に対して失礼ですよ、菜々さん」
「そういう風花だって、笑ってるじゃない」
銭湯は爆笑の渦に包まれる。くっそ、忍者、もっとしっかりしやがれ、俺、笑われちまったじゃねえかよ。忍者のふがいなさに憤慨しながら、俺は皆を無視するように、ごしごしと身体を洗う。なんか視線を感じるんだよな。
「えへへ、眼福、眼福」
「まあ、菜々さん、はしたない。殿方の身体をじろじろと見るものではありませんよ」
「そういう風花だって見てるじゃない。あたしのせいだけにしないでよお」
「おい、あんたたち、いい加減にしときな。ほかのお客さんに迷惑だろ」
「なに、椿、真面目ぶってるのよ、きみも見ればいいじゃない」
「ちょ、ちょっと、何言ってるのよ。見るわけないでしょ、気持ち悪い」
俺は気持ち悪いのか。はいそうですか。椿の言葉に軽くショックを受けながら、俺はふとももをごしごしと洗う。
「しっかし、猿メンくんは、がっしりとした体形だね。お姉さん、そそられちゃうよ」
「さ、猿メンではありま、せん。ひでよし、です!」
ひでよしは公然と抗議する。気にするのは、身体をみられてるところじゃなくて、顔のことかよと思う。なんで、この時代は裸を見られることに抵抗がないんだろうな。もしかして、日本人は裸族だったりするのか?日本史の教科書でもそういや、ふんどし一丁のおっさんの絵とかおおいもんなあ。
おれは、日本人の神秘について考えながら、足の裏も丁寧に洗っていく。
「彦助くんの惜しむべきところは、普通ってところかなあ」
「ふふっ。そうですね、至って普通ですね」
「普通ってなんだよ、普通って」
「そりゃ、いちもつの話にきまってるんだぶひい。男が女性の胸が好きなのと同じで、こいつら2人はさっきから、俺らのを見比べてるぶひい」
俺は、ぶふうと口に含んだお湯を吹きだす。
「なにやってんだ、お前ら!」
「弥助は見られて恥ずかしいわけではありませんが、あそこまでジロジロ見られてはさすがに、困るのデス」
「なに恥ずかしがってんのよ。あ、そうだ、きみたちの見てるんだし、私たちの胸も代わりに見る?」
「えっえっ」
俺は女性の生おっぱいなど見たこともない。そんな発言についどきどきしてしまう。
「もう、菜々さん。彦助さんをいじめすぎですよ」
「えへへ。そうかなあ。ごめんね、彦助くん。残念ながら見せられないよ」
男湯全員がため息をするのがわかる。なんだよ、お前ら、こっそり聞き耳立ててんのかよ。俺は心の中で銭湯に来てる男連中全員に総突っ込みをいれる。
「だけど、彦助さんは面白い方ですね」
「え、おれのどこが?」
「元気になったり、しおれたりするところです」
風花に言われ、俺は慌てて、手ぬぐいで自分のいちもつを隠すのであった。うふふっと風花は笑う。ほんとおっとりしてるように見えて、油断もすきもない女性だ。




