ー戦乱の章56- 感状をもらえるのは名誉なことだ
信長の軍は昨日の野戦の勝利を得てから、一路、清州の城を目指して進軍してきたわけだが、しっかし、改めて見ると、こんなの落とせるのかよと思わせる城である。
この当時の城は、俺の予想と反して、熊本城や姫路城のように雄大な石垣の上に立っているわけでもなく、ただ、ちょっとした山の上に簡単な造りの土塁って言った感じの上に城がおっ立っている。
まあ、要は何が言いたいかといったら、天然の城塞と言ったところなのである。ここを今から、俺たちは攻め込まなければならないわけだが、どうにもとっかかりがないような気がしてならないわけだ。
「なあ、田中。ここまでやってきたは良いんだけど、実際、どうやって攻めるんだ?城なんて」
「まあ、二通りあるぶひいねえ。ひとつは正門をぶち抜いて中に侵入する方法ぶひいねえ。もうひとつはハシゴを塀に立てかけて、登って中に侵入する方法ぶひいねえ」
「まあ、どっちの方法を選ぶにしろ、危険であることは変わり、ません。普通は、城を囲んでしまって、相手を兵糧攻めにするか何かで士気を落とさせて、降伏勧告するのが一番なん、ですが」
「それが今回、できないのが難点デスネ。南の那古野城の情勢も不確かですし、一番は東の末森城の信勝さまの存在が厄介なのデスヨ」
「信勝ってのは、信長の弟だっけ?そういや、そいつはなんで今回の戦には、信長の手助けをしないんだ?兄弟なら、助け合ってなんぼだろ?」
俺は当然と言えば当然の質問を弥助にする。
「信長さまと信勝さまは仲が悪いのデスヨ。未だに信長さまの家臣の中では、信秀さまの跡継ぎを信勝さまにと画策しているひとたちが居るのデス。ですから、悠長に清州の城を囲んでいる時間はないのデスヨ」
弥助の言いを、俺はふーんと言った感じで聞くのであった。まあ、仲たがいしているのなら、何かのきっかけで仲直りするもんだと、俺はこの時、思っていたのだが、それは甘い幻想であることを後で思い知ることになるのだがな。
「おーーーーい!一番槍を取ってくる奴はいないかでござる。我が隊から1番槍が出てくるのは大変、名誉なことでござる。我こそはと思うものは、名乗りでるが良いのでござる」
あ、塙直政さまだ。田中が言っていた通り、敵の城門に辿り着くためのレースが始まるわけだな?
「へへっだぶひい。ついに、僕の名前を尾張の国中に知らしめる時が来たんだぶひい。おい、彦助、ちょっくら、僕の打飼袋を持っていろだぶひい。身軽にならなきゃ、一番槍を取り損ねてしまうんだぶひい」
「ええ?俺も1番槍を取ってやろうと思ってたのになあ。まあ、ここは田中先輩にいいところを譲りますか」
「意外と素直だぶひいねえ?今日は城から矢の雨でも降ってくるんじゃないぶひいか?」
「ハハハッ。田中さん、ナイスジョークデスネ!城から矢が飛んでこなかったら、一体、何が飛んでくると言うのデスカ」
「熱した油が飛んでくるときもあるんやで?あれは、ほんまシャレにならないから気をつけたほうがいいんやで!」
「まじで?そんなの、殺す気まんまんじゃねえと、人間、できっこねえだろ!俺たちの敵はもしかして、人間を辞めているのか?」
「城を攻められているって言うのに、殺す気まんまんじゃない敵を見てみたいものだぶひい。まあ、野戦と違って、怪我だけ負わせて済ませようとは、さすがに双方とも思ってないんだぶひい。だからこそ、城攻めでの一番槍は褒賞がでかいんだぶひい」
「褒賞ってどれくらいもらえるもんなんだ?額によっちゃあ、俺も参加してみたい気分だぜ」
「大体、1貫と言ったところではないので、しょうか?ちょっとした名のある者を討ち取ったくらいの褒賞をもらえるはす、ですよ?」
1貫と言えば10万円かー。うーん、悩ましいとこだなあ。月に2貫もらっている身分としては、その半分なんだよなあ。でも、こまごまとしたものを買ったりなんだりしてたら、あんまり貯金ができるわけでもない。
「お金だけの問題じゃないんだぶひい。一番槍は名誉ある手柄なんだぶひい。見事、達成すれば、信長さま直々に感状をもらえる可能性だってあるんだぶひい!」
「感状?感状ってなんだ?」
「感状って言うのは、お殿さまが戦で特に武功を上げた者に贈られる感謝状なんやで。これひとつもらえるだけでも、仲間内からは尊敬の的になるでやんす」
「へええ?ってか、信長直筆の感謝状ってなるわけ?って、ただの紙じゃねえか!そんなのもらっても腹の足しにならねえよ」
「こいつは何を言っているんだぶひい?感状をもらえるのは、そうそうないんだぶひい。しかも、下級兵士ごときで感状をもらったひとなんて、ごくわずかなんだぶひい。それほどの名誉なんだぶひいよ?」
「まあ、彦助殿は、私たちと感性がずれています、からね。金に汚いのは心も汚いって言いますし、彦助殿には何を言っても無駄な気が、します」
「彦助さん。心が汚いのはいけないことなのデス。おっぱいを見るときも、いやらしい気持ちで見るのではなく、感謝の念を込めながら見るといいのデス」
「ああ、弥助の言い方ならわかる。やはり、おっきいおっぱいを見ているときは、いやらしい気持ちよりも、感謝の気持ちのほうが大きくなるもんな。揉むっていう実利よりも、拝ませてもらっていると言う気持ちのほうが大切なわけだな!」
「なんか、やっぱり彦助くんの感性は、ひととはずれているんやで?」