ー戦乱の章50- 兵は拙速を尊ぶって何だ?
ちゅんちゅんちゅん。こけっこっこおおおおおおお!
ふわああああああ。良く寝たなあ。今日の朝メシは何かなあ。食パンとコーヒーと目玉焼きとウインナーがいいなあ。
俺は眠い目をこすりながら、上半身だけ起こし、周りを見る。ああ、そうだった。俺は戦国時代に飛ばされてきたんだった。ココナッシュのぺろぺろ攻撃もなく、母さんの起きなさい!の声も無いんだったな。当然、食パンとコーヒーも準備されているわけでもない。
「あ、彦助殿、起きました?今、炊事の火を起こすので、その間に皆さんを起こしてもらえますか?」
ひでよしが俺よりも早起きしていたようで、さっそく、火を起こしている。俺はねぼけまなこで、田中、弥助、四さんを見る。
田中は毛布をはね飛ばし、腹を出して鼻ちょうちんを大きくしたり、小さくしたりしている。田中の股間の上に弥助の右足が乗っかっている。さらには、その弥助の顔は、四さんの尻にうずくまっており、さながら、朝から地獄の様相である。
「うーん、くさい、くさいのデス。まるでうんこのような匂いがするのデス。むにゃむにゃ」
弥助、よくもまあ、四さんの尻に頭をつっこみながら寝てられるなあ。俺なら、即、殺意の覇道に目覚めて、四さんを川に放り投げてくる自信がある。
まあ、弥助も四さんと同じでバイだからなあ。男の尻に耐性を持っている可能性がある。
「ふひひ。風花さん、そこを握っちゃダメなんだぶひい。清楚な風花さんが汚れちゃうだぶひい。むにゃむにゃ」
田中め。風花さんとの夢を見ているのか。まあ、お前のいちもつをいじっているのは、弥助の右足だけどな。弥助の足でいじられてると知ったら、田中はどんな反応を見せるのだろうか?やめておこう。せっかく、夢の中でいい気分に浸っているんだ。その夢を壊すこともなかろう。
俺は、弥助の足を田中の股間からずらしてやり、せめて、無残な現実を朝から体験しないように考慮する。
「おい、四さん、弥助、田中、起きろ。朝だぞ」
俺は田中と弥助と四さんを両手を使って、揺らす。
「うーん?朝ぶひいか?もうちょっと寝ていたいんだぶひい」
「まだ日が昇ったばかりじゃないデスカ。起こすの早すぎまセンカ?」
「ふわああああ。よく寝たやで。なんか、お尻に硬くて大きいものが当たっているやで」
「うわああああああ!なんで四さんのお尻が、弥助の目の前にあるんデスカ!なんか、うんこのような匂いがすると思ったら、四さんのお尻の匂いだったんデスカ」
「なんや。固くて大きいものは、弥助くんの顔だったやんすか。そんなの入らないって夢を見てもうたやないか!」
「オウノウ。朝から、顔が穢れてしまったのデス。顔を洗ってくるのデス」
「弥助は朝から災難ぶひいねえ。僕は良い夢を見れたんだぶひい」
すまない田中。お前の股間をいじっていたのは、弥助の足だ。残酷すぎて、俺は真実を言うことはできん。
「彦助、何、泣きそうな顔をしているんだぶひい?ああ、夢の中で、椿にでも殴られたぶひいか?お前は夢の中でも椿には頭があがらないぶひいねえ」
くそっ。そうじゃないんだ。そうじゃないんだ。田中、お前が不憫すぎて、泣きそうなんだ。
「皆さん、起きました?私は朝ごはんの準備をします、ので、皆さんは天幕を畳んでもらえ、ますか?」
「わかったんだぶひい。しっかし7月でも、こんな早朝だと、少し肌寒いぶひいねえ。もう少し、毛布にくるまっていたい気分なんだぶひい」
「せやかて、あと1時間もすれば、暑くなるやで?さっさと天幕をしまうやで?」
四さんはそう言うと、てきぱきと天幕を畳む作業に移っている。俺も四さんの手伝いを買って出ることにする。ひでよしが鍋に味噌をいれたのか、良い匂いがぷうんと辺りを漂っていく。
その匂いに釣られたのか、他の天幕で寝ていた奴らも起き上がっていく。やはり、朝の味噌をお湯に溶かした匂いは反則だよなあ。
天幕をしまい終えた俺と田中と四さんは、布と棒をはらっぱのど真ん中に置きに行く。あとは工作部隊がまとめて運んでくれるそうだ。
「なあ、田中。工作部隊って小荷駄隊とはまた別なの?」
俺は頭によぎったふとした疑問を田中に聞いてみる。
「うーん、後方援護と言う意味では同じぶひいけど、仕事としては違うぶひいねえ。でも完全に違うとは言いがたいんだぶひい。ところによっては、小荷駄隊が工作部隊を兼ねる場合もあるんだぶひい」
「うーん?よくわからないんだけど。信長のとこだけ違うってこと?」
「そうぶひいねえ。信長さまの軍は、行軍速度を上げるために、兵士たちに最初の3日分の食料を持参させているぶひいよね?小荷駄隊はあとでくるから、別で工作部隊は先に来ているんだぶひい。だから、信長さまのとこは別扱いなんだぶひい」
「なるほどなあ。元は小荷駄隊がやる仕事だけど、進軍速度の関係で工作部隊が独立しているわけか。信長は色々なことを考えているなあ」
「信長さまのお父上、信秀さまの時代は、小荷駄隊が全部していたわけやで。なにやら、兵は拙速を尊ぶって話らしいけど、わいにはよくわからん話やで」
なんだっけ?孫子の兵法か何かだったような?第一、拙速ってのは、字づらからして、速さがつたないだから、遅いってことか?兵は遅いのを尊ぶって意味になるのだろうか?