ー戦乱の章49- 明日は明日の風が吹く
晴れ渡る夜空を見ながら、俺は星々を眺めていた。天幕の下では、ひでよし、田中、弥助、四さんが就寝の準備をしている。たき火の炎は段々と消えかけており、中々の風情を感じる。
「なあ、ひでよし、明日って、晴れるの?雨が降るの?」
ひでよしが俺の問いかけを聞き、天幕の下から出てきて、空を眺める。
「明日ですか?うーん、きっと晴れると思い、ますよ?ほら、お月さまがきれいに見える、でしょ?お月さまがきれいに見える夜の次の日は大体、晴れるって言われて、います」
「へー、そうなのかあ。そう言えば月がかさをかぶってなかったら、晴れだって言うなあ。しっかし、今夜の月はきれいだぜ」
俺は夜空の月を見ながらそう呟く。月は半月からやや欠けた状態である。
「彦助、そろそろ寝るんだぶひい。朝は早いんだぶひい。さっさと寝て、体力を回復させておくんだぶひい」
なんか、田中がお母さんポジになっているのは気のせいだろうか?
「はいはい、わかりましたよ。でも、よくお前ら、こんな、はらっぱのど真ん中で寝れるよな。俺、とてもじゃないが、上手く寝れる自信がないぜ」
「慣れたら、即、寝れるもんやで?わいは宿を取る金がなかった時なんかは、寺とか神社のすみっこをよく借りたりしたもんやで」
四さんはさすがだなあ。さすが年季が入っていると言って過言ではない。
「私も、よく野宿はしま、したね。行商をやってたころは、関所でお金を取られてしまうので、宿に泊まるお金なんてなかったです、から」
「ひでよしくんとはよく、一緒に野宿したもんやったなあ。あの頃が懐かしいんやで」
「そう、ですね。四さんが、私のお尻を撫でまわしてくるので、なかなか寝つけません、でしたけど」
四さんは、ひでよしの尻まで狙ってたのかあ。こりゃあ、今夜は安心して眠れる気がしないぞ?
「わいかて、合戦やってる時に尻を掘る気はないんやで?平時にゆっくり口説いて、尻を掘るやで!」
俺とひでよしは、じと目で四さんを睨め付ける。そして、俺とひでよしがゆっくりと立ち上がり、手荷物をごそごそとしだし、縄を取り出す。
「困りました、ね。この長さでは、四さんを縛り上げるには足りま、せんね」
「うーん、昼間、捕虜を縛り上げるのにつかっちまったからなあ。四さん、喜べ。今夜はすまきは無しだ」
「何を喜べと言うでやんすか!大体、すまきにされる理由が思いつかないやで」
俺とひでよしは、再び、じと目で四さんを睨め付ける。
「おーい、田中。縄、あまってないか?四さんをすまきにしたいんだけど?」
「んー?僕も縄は天幕の固定に使っちゃったから、余りは、ないぶひいよ?弥助、お前は縄の余りを持っているぶひいか?」
「弥助も天幕の固定に使っちゃいマシタヨ。彦助さん、あきらめて、寝てクダサイ」
「ああ、野獣を野放しにして眠るしかないのかあ。四さん、頼むから、寝てるときに尻を撫でまわしてくるのは勘弁な!」
「だから、言ってるじゃないでやんすか。わいは戦の最中に尻を狙う気はないって。なんでわかってくれないでやんすかねえ」
「それは四さんの日頃の行いが悪いと思うの、ですが。手癖の悪いことろから直すべき、ですよ?」
ひでよしがすごく真っ当な意見を四さんにぶつけている。
ああ、今夜は月がきれいだぜ。四さんの性根もこれくらいきれいだったら、いいのになあ。
「ところで、田中さん。昼間に受けた槍の傷の具合はどうなんデスカ?」
「うーん。彦助に縫ってもらったところがうずくんだぶひい。いっそ、糸を引っこ抜きたい気分なんだぶひい」
田中が傷の部分がこそばゆいのか、包帯の上から、傷口をさすっている。あんまり、そういうことはしないほうが良いと思うんだけどなあと思いつつ、田中の仕草を眺めていると弥助が
「やはり、馬の糞を持ってきまショウカ?弥助としては心配なのデス」
「やめとくんだぶひい。また、彦助が何か言ってくるかもしれないんだぶひい。おとなしく彦助に従っておくんだぶひい」
「そうだぞ、そうだぞ。俺の言うことを聞いとけ。早く治したいならな」
「しっかし、暑いんだぶひい。何か涼しく寝る方法はないんだぶひいか?」
「俺たちが寝るまで、弥助が団扇を仰いでくれればいいんじゃないのか?」
「それだと、皆が寝るまで、弥助が寝れなくなってしまうんデスガ。彦助さんは馬鹿なのデスカ?」
「質問に対して質問で返すんじゃねえ!先生に習わなかったのか?」
「あのお。彦助さんも質問で返して、いますよ?」
ひでよし、わかってないな?俺はセーフなんだよ!
「とにかく寝るでやんすよ。明日はもっと暑くなるでやんすから、ちゃんと寝て、体力を回復させるやで?」
「よっし、寝るぞ、皆!明日も戦だぜ」
「最初から、大人しく寝とけばよかったんじゃないぶひいか?」
「おっと、そういうツッコミは無しだ。明日は明日の風が吹くんだ。細かいことはいちいち気にするな!」