ー戦乱の章47- 戦国のロマン・夜襲ってないんだなあ
酒もひっかけたし、メシも喰ったし、段々、眠くなってきたなあ、ふわあああ。
「そう言えば、今夜って、このまま寝ていいんだっけ?」
「夜の警護の当番は、今夜は入ってないぶひいねえ。だから、安心して眠れるんだぶひい」
「でもよお。夜って奇襲するにはもってこいじゃん?俺、不安で寝つけないかも」
「彦助殿。夜襲なんて、ほとんどありま、せんよ?ちょうど、日も沈んだので、実演してみせま、しょうか?」
ひでよしがそう言うと、たき火から、一本、火のついた薪を拾って、てくてくと歩き、俺たちから離れていく。夜の暗闇の中で、ひでよしの持った薪の火だけが煌々と光ってる。
そして、ひでよしは、またゆっくりと、俺たちの元へと帰ってくる。
「これでわかってもらえたと思い、ますが、こういう理由で、夜襲はほとんどないん、ですよ」
「へ?どういうこと?何もわからなかったんだけど」
俺の言いに、ひでよし、田中、弥助、四さんがはあああああと長いため息をつく。
おい、なんだよ、その馬鹿な男を憐れむような視線はよ!
「もう一度、やってみるんだぶひい。今度は、彦助以外で薪を持って、暗がりに行くんだぶひい」
田中がそう言うと、よっこらしょっと、ひでよし、田中、弥助、四さんが、たき火の薪を手に、暗がりに消えていく。さすがに4人も明かりを手に持ってたら、目立ってしょうがないなあって、ああ、そうか、やっとわかったぜ!
「わかった、わかった!俺にもやっと夜襲がないって意味がわかったぜ」
「やっと、ですか。本当、彦助殿は、察しが悪い、ですね。これで、安心して寝れる、でしょ?」
「ああ、ひでよしのおかげだぜ!夜襲なんて、できるわけないし、そもそも成功するわけがないんだな。周りが真っ暗なのに、松明持って歩いてくる軍隊なんて、自分がここに居ますって宣伝しているようなもんだぜ」
「まあ、2度もやれば、馬鹿な彦助でもわかるぶひいよね?そもそも、夜に明かりを手にしているやつなんて、怪しさ満点なんだぶひい。そこで、奇襲なんて成功するわけがないんだぶひい」
「あと、満月の日でもない限り、辺りは真っ暗でやんすからね。夜襲を気を付けるとしたら、満月の日で、さらに雲が月を隠してないっていう条件が必要でやんす。そんな条件に合わせて、夜襲なんて、できないでやんすからね」
俺はなるほどなあと思う。基本、この戦国時代なんて、月明かりに頼るしか、町以外での明かりなんて存在しない。しかも、明かりを手に持ったまま、戦えるわけがない。ましてや、敵がどこにいるのかすら、満足にはわからないだろう。
現代の人間にもわかりやすく言えば、部屋を真っ暗にして、100円ライターの火で、物を探すようなことをしなきゃなんねえもんな。
「でも、100パーセント、夜襲が不可能かと言われたら、そうでもないんデスヨネ。歴史の英雄と言うのは、なぜか夜襲を成功させたと言う例が存在するのデスヨ」
「そうなんだぶひいか?どう考えても、できっこないような気がするんだぶひいが」
「野戦の話ではありマセン。都市に攻め込むなら、あちらは大量の明かりを用いている場合が多いデス。こちらは接近さえすれば、明かりは向こうが用意してくれていますカラネ。都市を夜襲するのであれば、可能なのデス」
「ふむふむ、なーるほどなあ。都市に攻め込むなら有効なのかあ。これは勉強になるなあ。あれ、でも、なんかこの時代に、野戦で夜襲を成功させた大名が居た気がするぞ?毛利?北条?ん、なんだっけ?」
「北条と言えば、北条氏康の河越の戦いのことやんすか?確かに奇襲戦と言われているでやんすが、夜襲ではなかったと思うやで?」
「川越の戦いぶひいか。僕も耳に挟んだことはあるんだぶひい。でも、さっきも説明したけど、夜襲は無理なんだぶひい。自分で自分の位置をばらしているのに、どうやって、夜襲なんかできるんだぶひい」
「たぶん、日が落ち切らない夕方の内に移動だけはしていたんじゃ、ない、ですか?それで、夜が明けてから朝駆けをしたんだと思い、ます。あと、朝は季節によっては霧が出やすい、ですから、それを利用したのではないの、でしょうか?」
うーん、夜襲って戦国時代のロマンに感じてたけど、実際はそうではないのかあ。なんだか、戦国時代に対して、少しがっかりする部分があるぜ。
「あれ?少し、気付いたの、ですが。夜襲って、明かりを持ってたら奇襲するぞってのは、ばれます、よね?でも、明かりを例えば、1人で2本持っていたら、実際の兵力より2倍あるように、見えませんか?」
「そうぶひいねえ。ひでよしの言う通りぶひいねえ。でも、どっちにしろ、両手に明かりを持って、どうやって戦うんだぶひい?」
「うーん。松明でなぐる、とか?」
あほか。松明はまあ、一応、攻撃力はあるかもしれないけど、ゲームの世界じゃ、攻撃力2か3だぞ。それで、どうやって相手を倒すって言うんだよ。
まあ、俺たちの考察の結果、結局、野戦の夜襲は、相手にばれる、そもそも暗闇で満足に戦えないということで、まあ、不可能だろうなと言うことで落ち着くことになるのであった。
ついでに言うと、忠臣蔵の吉良邸の討ち入りは、周りの屋敷のやつらが赤穂浪人たちの夜襲を知っておきながら、無視を決め込んだ説があるらしいぞ。それが無かったら、そもそも、成功する可能性はほぼなかったんじゃないかな?