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ー戦乱の章38- 傷を縫合しよう

「そういえば、彦助ひこすけは傷口を縫った経験はあるぶひいか?」


「いいや。まったくないぜ!でも、まかせとけ。俺はこれでも手先が器用で手芸をたしなむことだってあるんだからな」


「本当、ですか?それにしては、針に糸を通すことすらできてなかったじゃない、ですか?」


「うるせえ!大体、糸が太すぎるんだ。これは、よんさんの持ってた糸が悪いんだよ」


彦助ひこすけくん?糸のせいにするのはやめてほしいでやんすよ?その糸はまだ、細い方やで?」


 ひでよしとよんさんがじと眼で俺を見つめてくる。くっ、うるせえ。大体、俺は毛糸を編むときに使う、あのでっかい毛糸針なんだ。あれだと、糸がめちゃくちゃ太くても難なく、通すことができる。そうだ、これは糸が悪いんじゃなくて、針が悪いんだ!


彦助ひこすけさん。針の所為にするのはやめておくのデス。彦助ひこすけさんの考えていることなんて、すぐわかるのデスヨ」


 くっ。退路を塞がれた気分だ。こうなれば、ちょちょいのちょいと、傷口を縫い合わせて、あっと言わせるのが最善の策だぜ!


 俺は、田中の傷口をしっかり押さえ、ぶすっと針を刺し、糸を通していく。


「いたたっ。痛いんだぶひい。もう少し、優しくできないんだぶひいか?」


「俺だって、初めてなんだよ。初めては誰だって痛いって言うだろ?」


「なんか、言ってることが不穏なの、ですが、あえてここは無視したほうが、いいの、ですかね?」


「ひでよしさん。奇遇デスネ。弥助やすけもそう思いマシタ。彦助ひこすけさんはいちいち言うことが、いかがわしいのデスヨ」


「まあ、ひでよしくん、弥助やすけくん。初めてにしては、なかなか手際がいいでやんすよ。手芸ができるというのはあながち嘘ではないみたいやで?」


「お前ら、うるさいんだよ。集中できねーじゃねえか!少しはだまっとけ」


彦助ひこすけ、いちいち構うんじゃないんだぶひい。さっさと済ませてくれだぶひい」


 田中が痛いのか、顔を苦痛でゆがめている。おっと、すまねえ、すまねえ。よっし、ここにもう1回、針をぶっ刺してっと。よし、できた!


「初めてながら、ほれぼれする腕前だぜ。俺、医者になったほうがいいんじゃねえか?」


「こんなヤブ医者、開業したら、1カ月も経たずに廃業なんだぶひい。ああ、痛かったぶひい。槍で斬られるほうがよっぽど痛くなかったんだぶひい」


 まあ、麻酔薬なんて無い時代だもんな。痛いのは我慢だ。根性だ。馬の糞、塗りたくっているより、ましなんだからな、本当に。


「田中さん、大丈夫デスカ?見てるこっちが痛くなる光景だったのデス」


「うーん?ずきずきはするけど、ましと言えば、ましなんだぶひい。でも、お人形さんのように身体を縫われるのは、いつでも嫌な気分になるんだぶひい」


「あれ?田中、お前、傷口を針で縫われるのは、今回が初めてじゃないのか?」


「そりゃあ、そうぶひいよ。2年も信長さまに仕えているんだから、槍の傷なんて、身体のそこかしこにあるんだぶひい」


弥助やすけもそう言えば、太ももを槍で刺されたことがありましたケド、津島の町医者に針で縫われまシタネ。今、思い出しても怖気がやってくるのデス」


「あの人は、口に含んだ焼酎を傷口に吹きかけるから、失神してしまいそうになるんだぶひいよね。痛すぎて、針で縫われていることを忘れてしまいそうになるんだぶひい」


 焼酎と言えば、アルコールが含まれている。傷口をアルコールで消毒するのは中々の合理的な医者だなと思ってしまう、俺である。


「酒は万病の薬と言いますし、間違った傷の処置ではないんで、しょうね。今度、私にもその町医者を紹介して、ください」


 ひでよしの言いに、田中と弥助やすけが苦虫を噛んだような顔つきになる。


「確かに、腕はなかなか良いんだぶひいけど、ちょっと、頭のネジが外れているひとなんだぶひい。できるなら、お世話になりたいとは思えないひとなんだぶひい」


「そうデスネ。あのひとは、なるべくなら、関わり合いになりたいとは思えないデスネ。彦助ひこすけさんの妄想が口から常にダダ漏れしているひとデスカラネ」


「そ、それは嫌ですね。彦助ひこすけ殿も大概ですが、それに輪をかけて、ひどいとなると、ちゅうちょしてしまい、ます」


「初対面の人間に対して、いきなり、ワタシは医者ではない、まっどさいえんてぃすとナノダーーー!って言いだす始末なんだぶひい」


「うっわ。それは、関わるのは嫌でやんすね。ちなみに、まっどさいえんてぃすとって、なんでやんす?」


「こっちが聞きたいくらいデスヨ。治療が終わるたびに、カガクの勝利なのデーーース!と叫びますカラネ、そのひと」


「あれ?弥助やすけ。その真似を聞く感じ、ひのもとの国の人間じゃなくて、どこか、外国のひとなのか?」


「いえ。見た目、れっきとしたひのもとの国のひとですよ?でも、本人は遠い昔、からの国からひのもとの国にやってきたのがうちの先祖だと言ってマシタネ。まあ、確かめようがないので、ワタシと田中さんは無視していますケドネ」


「ちなみに、そのひとの名前はなんて言うんだ?」


徐福じょふくと呼べと、本人は言ってるけど、本当の名前は熊五郎くまごろうなんだぶひい」

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