ー戦乱の章34- 弥助の隠された特技
しっかし、信長と信盛さまと丹羽さまが、いろいろと話しているけど、小耳にはさむ感じでは、どのひとたちも、気さくでフレンドリーなんだよなあ。
比叡山焼き討ちとか、長島一向一揆の虐殺とか、本当にこいつら、やるのか?って疑問になっちまう。
「彦助、あんまり聞き耳を立ててると、ばれるぶひいよ?」
「そういう田中だって、聞き耳立ててるじゃねえかよ。ひとのこと言える立場かよ!」
「彦助さん。声が大きいのデス。ほら、弥助のように耳を閉じてクダサイ」
そう言う弥助の顔を見ると、こいつ、なんと、手を使わずに耳を閉じてやがる!
「ぶっは!気持ち悪。なんだよ、その無駄な特技はよ」
「え?皆さん、できないのデスカ?弥助は普通にできるのデスヨ」
弥助はそう言うと、手を使わずに自分の両耳をぱたっぱたっと閉じたり開いたりしている。こいつはもしかして、地球外生命体ではないのかと疑ってしまうのである。
「弥助。それはとっておきのネタだから、黒豚ーズの時以外にはやるなって言うぶひい。せっかくの持ちネタが皆に知れ渡って、台無しになるんだぶひい」
うーん、こいつら、美的感覚がずれているのか?面白いことには面白いんだが、一線通りこして、気持ち悪さすら感じるぜ。
「夜、寝ているときにぱかっぱかっと音がすると思って、目を覚まして弥助さんの方を見た時は驚き、ました。あれって、無意識でやっているものとばかり思っていたのですが、自分の意思で出来るん、ですね」
ひでよしは前から知っていたらしい。まあ、俺には男の寝顔なんて見つめる趣味は、これっぽちもないから、気付かなくても仕方ないよな。
「ちなみ、左右交互に、耳を閉じたり開いたりもできたりシマス。田中さんのいびきが五月蠅い時には重宝するのデスヨ」
なーるほどなあ。そんな使い道があるのか、その耳には。って、そんな機能いらんわ!
「それは、便利やなあ。わいも自由に、耳を動かせるようにならへんかなあ?」
そう言い、四さんは、うむむと唸りだし、頭をぴくっぴくと痙攣させている。おい、なんだか、やばい薬をやっている奴にみえるぞ。
「お、もうちょっとや、もうちょっとで、なんか出てきそうや!」
そう言う四さんは、次の瞬間、ぷすううううと言う音とともに、おならをかます。しかも、その臭さと言ったら、目にしみるほどであり、俺たちは呼吸難になる始末である。
「げっほ、げっほおおおおお!てめえ、四さん、何を力んで出してんだよ!しかも、この臭さ、弥助に匹敵するじゃねえか」
「あっれええええ?おかしいでやんすね?耳が動いたと思ったら、肛門が動いてしまったんやで。もしかして、わいは肛門を自由に開け閉めできる才能があるんかいな?」
「それはただ単に力んだからだぶひい。誰でも、肛門に力を込めれば、できるんだぶひい」
「それは違いマスヨ、田中さん。力むと締まってしまうのデス。開くなら力を抜かなければなりマセン。田中さんもまだまだデスネ。弥助が夜の手ほどきをしまショウカ?」
「いらんぶひい。美少年ならともかく、なんで弥助に手ほどきされなきゃいけないんだぶひい。お前、これから寝るときは、僕の隣になるのは止めるんだぶひい」
そう言いながら、田中は眼を細め、弥助を睨みつける。しかし、弥助はその視線の強さに興奮したのか、顔を赤らめ、ぞくぞくとした表情である。
「オウ。田中さんから熱い視線を感じるのデス!ああ、デウスさま。弥助は天の国に昇天してしまいそうなのデス」
逆効果とわかった田中は弥助を睨みつけるのを止めて、槍の中腹部分で弥助の頭を軽く何度か叩いている。
しかし、思えば不思議なものだよな。人間以外の動物だって、自分の意思で耳を自由に動かせるやつっているものなのか?愛犬・ココナッシュがイタズラをしたときとかに叱るとシュンとなって、耳が少し垂れるがあれだって、意識してやっているわけではないだろう。
「なあ、弥助。お前のその耳を自由自在に動かせるのは、何か特別な訓練をしているからか?」
「ハイ、そうデスヨ。耳と言うものは向ける角度によって、拾える音の範囲や質が変わってくるのデスヨ。ですから、私の国では狩人になるひとたちは、皆、訓練をして、自由自在に耳を動かせるようにしているわけナノデス」
「ふーん。そんなことしなくて、こうやって、耳を手のひらで補うようにすれば、済む話じゃねえの?」
俺はそう言い、左手を左耳の裏にあてて、やってみせる。
「ノンノン。彦助さん、狩人と言うものは弓を構えたりすれば両手が塞がります。あと、ひのもとの国では見かけないですが、狩人の武器と言えば、右手に槍、左手に盾なんデスヨ。と言うわけで、手を使わずとも、音を聞き分けれるように耳を自由自在に動かす訓練をするわけなのデス」
ふーん、なるほどなあ。弥助のおかげで、宴の席にでも使える話のネタが仕込めたぜ。まあ、この話をするには、弥助も同伴してないと、すごさがわからないと言ったところが難点だなあ。