ー戦乱の章17- 競争意識を高めよう
信長軍は津島の町から清州城に向けて進発する。勝幡城から信長が500を率いて道の途上で俺たち信盛隊と合流する。
信長500、信盛隊400、利家隊の赤母衣衆50、河尻隊の黒母衣衆200で、計1150の軍隊となるわけだ。あと、残り800の兵力があるわけだが、丹羽、森、池田さまが後詰めとして、後から合流する予定である。
延べ2000人ちかくの兵隊が清洲城の織田信友、坂井大膳を目標に進軍するわけだ。俺は、こんな大人数の鎧姿の兵隊をNHK大山ドラマでも見たことない。俺の心が舞い上がるのは自然なことであった。
「なあなあ、田中。なんだか、すごいぞ。おら、わくわくしてきただ!」
「彦助は元気なんだぶひいね。これから命のやりとりをするって言うのに、その能天気さにはあきれ返るんだぶひい」
「彦助殿の唯一と言っていい利点、ですね。立ち直りだけは早いの、です」
「まあ、立たずに暴発カルピスをしてしまいマスカラ、立ち直りしなくても早いのデスネ」
「おい、やめろ!その話はもうするんじゃねえ。あれは、ノーカウントです。昨夜は何もなかった。いいね?」
「彦助くんの暴発カルピスはもはや、伝説くらすの語り草やで?わいが皆に教えておいたさかい、安心していいんやで?」
ちょっと、待てよ、四さん。何を言いふらしてるんだよ!
「冗談や、冗談。さすがに、初体験で暴発カルピスなんて、恥ずかしすぎて、生きづらくて、しゃーないやん。そんなこと、口が裂けても皆に言えるわけがないんやで?」
その割には、結構な大声で、お前ら、俺の昨夜の件について、しゃべってるよな?
「まあ、彦助の昨夜の一件は、少なくとも1年は酒の肴になるんだぶひい。語り草になるのが嫌なら、この戦が終わった後にでも、もう一度、ちゃれんじしてみることだぶひい」
「彦助殿の場合、なんだか、もう1度、遊女といちゃいちゃしても、同じことをしでかしそう、ですよね。だから、あれほど溜め込むなと皆さんで注意していた、のに」
そりゃしょうがないだろ。この時代に飛ばされてきてから、四六時中、お前らと一緒にいるんだ。自分で処理しとこうにも、できるわけがないじゃねえか。
「例え、敵将の首級を取れなかったとしても、少なからずの恩賞はでると思うのデス。そのお金で遊女とイチャイチャして、すっきりしてくればいいのデスヨ」
「ええ?俺は出来るなら、敵将の首級を取って、金子1枚もらいたいところだぜ。って、ところで、金子1枚ってどれくらいの価値なの?」
「んー。家族3人が半年分の米を買えるだけの価値はあるんだぶひい。わかりやすく言うと、1石半と言ったところだぶひい」
えっと、確か、1年で成人男性が食べる米の量が1石だから、その1.5倍ってわけか。金に換算するとどうなるんだ?
米10キログラムでとりあえず、4000円と計算しようか。んで、1食1合食べるとして、10キロ程度なら、1カ月もかからずに食っちまう。やはり育ち盛りだからな。
多めに見積もれば、俺なら、150キログラムは1年で喰うから、これが1石になるはず。だから、単純に4000円を15倍のさらに1.5倍すればいいわけだな。
俺はふんふんと鼻を鳴らしながら、頭の中で計算する。4000円の15倍は6万円なわけだ。さらにそれを1.5倍すれば9万円。まあ、この時代の米作は全部、手作業だから、もうちょい高く見積もっても良いとなれば、10万円となるわけだな。
あれ?ということは、金子1枚=10万円=1貫って計算か。なるほどなるほど。俺のような下級兵士が月2貫もらえてるわけだから、半月分ものお給料が支給されるってわけだな。
「まあ、遊女にいける回数で計算すれば、4~5回分と言ったところなんだぶひい。月2回は行くんだから、2月分、遊女代がまるまる浮くわけなんだぶひい。これは楽しまないといけないぶひいね」
田中がやらしそうな、にやけた顔で計算している。せっかく、俺がまじめに計算していたのに、なんだか馬鹿らしくなってしまうぜ。
「でも、敵将を討ち取ったからと言って、金子1枚って、こう考えたら、安い気がしないでもないぞ?」
「彦助殿。敵将を討ち取れるような功を上げれると言うことは、才能を認められて出世ができると言うこと、です。恩賞は金子1枚だけかのように見えますが、出世の分を見込めば、もっともらえると思っていい、ですよ?」
「ああ、そうか。確かに、敵将だって、俺たちみたいな足軽とは違って、腕が立つもんな。そいつらを倒せるだけの腕も知恵もあるなら、信長が出世をさせてもいいかなって思っちゃわけか」
「ハイ。ひでよしさんの言う通りデス。金子1枚はただのきっかけデス。その後に続く、出世にこそ意味があるのデスヨ」
「金子を与えると言えば、誰だって、敵将を倒す気になるんだぶひい。それこそ多少の無茶をしてでもぶひい。万年、下級兵士で良いと思っている奴らは、そもそも、金子1枚で動こうとはしないもんだぶひい」
「なるほどなあ。要は金子1枚で、皆の心を鼓舞しつつ、さらには、見事、討ち取ったものにはさらに何かしら恩恵があるわけだ。下級兵士たちにやる気を出させる策なわけな。これは、俺もうかうかしてることなんて、できないぜ!」