ー戦乱の章 8- 四(よん)さんは経験済み
俺たちは居酒屋に行き、軽く酒をひっかける。
「ぶひい。生き返る気分なんだぶひい。やはり酒は長寿の薬なんだぶひい。彦助、飲んでるぶひいか?」
「おう。やっぱり津島の酒と食べ物は美味いなあ。関所がないと鮮度が全然、ちがうもんだなあ。いちいち、みんなが足止めを喰らわないから、本当、信長には感謝しないといけないぜ」
「わいも、久方ぶりに美味い刺身を喰わせてもらってるんやで。いやあ、大きな川の近くの町は違いまっせ。こりゃ、極楽に昇る気分やわ」
「しゃきしゃき大根サラダが生き生きとしているのデス。清州の町で食べたものはシャキシャキ感が足りずに、いまいちだったのデスヨ」
「そのわりには、結構、むしゃむしゃと食べていたように記憶しているの、ですが、気のせいだったので、しょうか?」
そんなたわいのない話をしながら、もりあがる、俺、田中、四さん、弥助、ひでよしである。
「明日は、でかい戦いになりそうなんだぶひい。もしかすると、怪我をするやつも、この中から出てくるかもしれないぶひいね」
「うーん、そうだな。俺たちが見てきた、あの立派な清州の城に攻め込むんだよな。今までのような小競り合いとは違う、本格的な戦いになるよな」
「そうデスネ。弥助でも初めての大戦になること間違いありマセン。最悪、仲間たちから死人が出るかもしれないのデス」
「田中さん、弥助さん、彦助さん、私たちは必ず生きて帰りま、しょう!」
「あれ?わいは別なのは何故なんや?わいも皆さんの仲間やないか!」
「え?四さん、俺たちと違う部隊だろ?」
「何、言うてまんねん。きみたちと同じく、佐久間さまの指揮下で戦いますやん!忘れてもらっちゃ困りますんや」
「まじ?田中、今の話、本当?」
「本当の話なんだぶひい。河尻さまと、利家殿は、信長さま付きの赤母衣衆、黒母衣衆なんだぶひい。あそこはエリート集団だから、四さんが、そこに所属するわけがないんだぶひい」
「佐久間さまの部隊は、ベテランの方と、新兵が半々と行ったところデスネ。佐久間さまは新兵の調練も兼ねての部隊ですから、四さんがワタシたちと同じ部隊でも、なんら不思議はないのデス」
「大事な戦に新兵を連れていかなければならないのは、少々、危険な気もするの、ですが、佐久間さまの戦運びは眼をみはるものがありますので、信長さまも安心して、新兵を任せられるの、でしょう」
「というか、なんの訓練も受けてない四さんを連れていくのは、さすがにやばいと思わないか?四さん、今回の戦、辞退するなら、早めのほうが良いと思うぞ?別に俺が四さんと一緒に戦いたくないって気持ちとは別としてだ」
「彦助くん。なんか、本音がダダ漏れなような気がするでやんすけど、この際、眼をつむっておくんやで。なあに。これでも実家の農家に居た時には、戦に駆り出されていたんや。なんと、信長さまの父上、信秀さまの軍に所属してたんやで!」
「ええ?まじぶひいか?だてに30歳ってわけじゃないんだぶひいね。じゃあ、戦では四さんのほうが先輩になるんだぶひい」
「30歳じゃおまへんよ。今年で27歳や!まだまだぴちぴちなんやで?」
うーん。見た目、どう見ても、35歳くらいに見えるんだよなあ。四さんから鳥の糞みたいな臭いがするのがいけないのだろうか?しかし、意外だ。27歳とは思わなかったわ。
「四さんは、信秀さまのどこの部隊で働いていたんだぶひいか?大体、それを信長さまに言っていたら、待遇も違っていたんじゃないかと思うんだぶひい」
「いやあ、信秀さまに仕えていたわけではありまへん。ただ単に、若いからと下級兵士として、徴兵されて戦場に立たされていただけの身やで。一通りの槍の使い方と弓矢の扱いくらいは教わったんやけど、立派な将として雇われていたわけではないんやで」
なるほど。四さんは戦いたいわけではなくて、無理やり駆り出された下級兵士なわけだったのか。それが何の因果か、その信秀さまの息子の信長に仕えることとなるとはな。因果なもんだぜ、人生と言うのは。
「ふうんなんだぶひい。じゃあ、四さんは一応、戦の経験はあるんだぶひいね。それなら、今回の戦に出ることを反対する理由もないんだぶひい」
「四さんの存在は心強いのデス。安心して背中を任せられるってことですカラネ」
「いやあ、きみらと違って、年がら年中、訓練を積んでいるわけではないんやで。槍を扱えると言っても、ただ、槍の構え方を知っているだけやで。弓も獲物を狙って射て、当てれるような腕もありまへんがな」
「そ、それでも、戦に出ていたと言う経験は、生き残るには替えがたいものになると思い、ます。私はこの中の誰もが死んでほしいと思っていま、せんから」
あれ?ひでよし。お前、さっき、四さんの名前をあげてなかったよな?
「え?さっきは、四さんが違う部隊だとばっかり思ってました、からね。てっきり、小荷駄隊にでも配属されるのかと思って、四さんなら大丈夫だと思っていました、から」