ー戦乱の章 5- 戦(いくさ)の準備をしよう その5
河尻さまが金砕棒を肩にかけ、俺たちのほうをじろりと見ている。
「河尻さま、僕たちはちゃんと準備をしているんだぶひい。だから、その物騒なものをしまってほしいんだぶひい」
本当、この人が金砕棒を持っていたら、威圧感がすごすぎて、萎縮するのも当然だわ。
「うん?そんなにこの金砕棒が恐ろしいと言うのか?これはただ、鍛錬代わりに持ち歩いているだけだ」
いや、そんな、周りが怖がるような鍛錬方法、止めてくれませんかね?いつ、その金砕棒が、俺たちの尻めがけて振り回されるかわかったもんじゃなくて、怖いんですよ。
「なにをびくついておる、そこのお前。そんなことで、戦を楽しめるとでも思っているのか?」
「いや、敵よりも俺は、金砕棒を持っている、河尻さまのほうがよっぽど怖いです」
俺がそう言うなり、河尻さまが、あーはっはっはと笑いだす。
「味方がそれほどまでに怖がるのだ。敵はさぞかし、腰を抜かすであろうな」
上機嫌な河尻さまである。頼むから、そのまま、上機嫌で俺たちの目の前から消えてくれ。
「か、河尻さま。金砕棒を戦で振り回していては、疲れないの、ですか?戦と言うものは知らず知らずに疲労が蓄積するもの、です」
ひでよしがおそるおそる、河尻さまに問うている。おい、下手なことを言って、機嫌を損ねるのは止めてくれよ?
「うん?普段は、軍配を持って、指揮をしているのだ。金砕棒を振り回すなど、よっぽどの乱戦にならない限りは使わぬぞ?」
あれ?そうなんだ。てっきり、戦中も部下の尻をケツ罰刀しているかと思ってたわ。
「あーはっはっは。敵の前に、味方をしばいてどうするのだ。そんなことをしたら、俺の部下が全員、戦闘不能になるではないか」
それもそうだよなあ。しかし、四六始終、振り回しているわけではないと知って、安心したぜ。あんな金砕棒、振り回されたんじゃ、おちおち、敵とも戦ってられないからなあ。
「さて、俺は、そろそろ他も見回ってくるが、くれぐれも、準備に手を抜かないようにしておけよ?もし、手を抜くようなことがあれば、わかっておるな?」
そう言い、また河尻さまがじろりと俺たちを睨んでくる。俺はつい、ごくりと唾を飲みこんでしまう。
河尻さまは、ふむと息をつき、また、のっしのっしと見回りに行くのである。俺たちは、ほっと胸をなでおろすのであった。
「ふうううう。怖かったんだぶひい。河尻さまに睨まれると、お尻の穴がきゅっと締まっちゃうんだぶひい」
「本当、怖いデスネ。思わず、弥助の胸とお尻の穴がキュンッとなってしまったのデスヨ」
弥助、なんか、お前の言っていることは間違っている気がするが、気のせいか?
「わいも思わず、キュンッてなってしまったやで。ああいう男に乱暴に組み伏せられるのも悪くないのかも知れないやで」
四さん。なんだ、その間違った乙女のような思考回路は?暑さで頭のネジが緩んできたのか?
「男が男に惚れるのは仕方ないことなんやで?彦助くんは、女の味だけではなく、男の味も知っておいて損はないんやで?」
「俺にそんな趣味指向は無いって言ってんだろ!そんなことより、鎧の整備でもしてやがれ」
「お兄さんが優しく、手ほどきしてあげるから、今夜は開けとくやで?夜這いに行かせてもらうんやで」
四さんが、投げキッスをしてくる。あああああ、無性にこの男を殴ってやりたい。
「さて、四さんと彦助殿の熱い情事のことは、放っておいて、私たちは準備を急ぎま、しょう。もたもたしていたら、日が暮れてしまい、ます」
「そうぶひいねえ。僕は薪をいくつかもらってくるんだぶひい。夏と言っても、夜は冷える場合があるぶひいからね」
「ついでに毛布も人数分お願いシマス。虫よけにもなりますノデ、必須と言えば必須になるデショウシ」
「そんなに持てるわけがないんだぶひい。弥助、お前もついてくるんだぶひい」
オウ、ノウと弥助が言って、不承ぶしょうながら、田中の後をついて行くようだ。さて、俺はそろそろ乾いた干飯を丸めておきますかね。
日向に置いておいた、ザルに入れた、ご飯が良い感じに水分がぬけている。俺はそれを手ごろなサイズに握り、また、ザルに戻して、日当たりと風当りのいいとこに設置しておく。
この干飯は、実際には水の張ってある鍋の中にいれ、味噌と一緒に煮込むんだ。野菜や干肉を入れ、おじや風にしていただくと、これまた美味い。
そう思っていると、口からよだれがたれそうになる。おっと、いかんいかん。ここでつまみ食いをしようものなら、田中のような豚になってしまう。まあ、俺は津島が誇る、牛人間だけどな!
ん?豚と牛になんの違いがあるのだろう?味か?味なのか?
いや、まて。牛さんは働きものだ。豚さんはぶひぶひ言うのが仕事なだけのただの飛べない豚だ。俺は豚人間の田中よりはひとさまの役に立っているはずだ!
「彦助、またくだらないことを考えているぶひいね?ちゃんと働けだぶひい」
俺はどうやら豚人間より働かない、牛人間であるようだ。