表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/364

ー戦乱の章 1- 戦(いくさ)の準備をしよう

 清州きよすの城は坂井大膳さかいだいぜんの信友幽閉により、混乱に陥っていた。その隙をついて清州きよすの城を急襲しようという作戦だ。


 信長やその諸将たちが準備に忙しく動いている。決戦も近いってわけだ。俺の心も浮き立つのはしょうがない。


「よっし、俺も敵兵の首級くびを取ってやるぜ。そして、一躍、利家としいえと同じく、隊を率いる身分になってやるぜ!」


彦助ひこすけ、浮かれるのはいいけど、さっさと3日分の兵糧を作るのを手伝うんだぶひい。お前、手伝わないならメシ抜きなんだぶひい」


よんさん、芋がらは縄目状に結んで、味噌で煮込んでくだ、さい。あ、そんなに粗雑に扱わないでくだ、さい」


「ん?こうでやんすか?あ、ぽっきりおれたやんか。なんや、このやわいのは!」


 よんさんは、ちゃっかり信長に取り入り、仕官することに成功したのである。本当に遊女の口説き方をアピールして、なかなかの才をお持ちですねと感心されているのには、さすがに信長は変人なのかと思ってしまったぜ。俺なら、よんさんを家臣に持ちたいなんて、あんまり思わないんだけどなあ。


「しっかし、見かけによらず、よんさんって手先が不器用だな。俺でも芋がらを結ぶくらいちょちょいのちょいで出来るっていうのによ」


「ん?不器用って言うわけやないんや。ちょっと、力を込めすぎるだけなんやで。こう見えても、わいは握力がすごいあるんや」


 よんさんはその辺に転がるリンゴを右手に掴み、ふんっと息を吐く。そして、ばきめきょめこおと言う音とともに、リンゴが粉砕されるのである。


「おお、すげえ。よんさん、俺より握力があるんじゃねえの?俺でもリンゴにひびをいかせるくらいしかできないって言うのに、馬鹿力すぎるだろ」


「すごいやろ?ちょっと力の加減が難しいだけで、決して手先が不器用ってわけやないんやで」


 俺とよんさんがリンゴの試し割りをしているところを、田中とひでよしがじと目で見てくる。


彦助ひこすけよんさん。食べ物を粗末にするのはやめるんだぶひい。百姓のみんなに悪いと思わないんぶひいか?」


「なんだか、このやりとり、前にもやりま、せんでした?いちいち、つっこみを入れなければならない、こちらの身も考えて、ください」


「馬鹿につける薬はありまセン。ほっといて、弥助やすけたちは兵糧を作る作業に戻りまショウ。喰うものがなくて困るのは、彦助ひこすけさんと、よんさんになるだけデスカラネ」


「そんなに怒るなよ、ひでよし、田中、弥助やすけ。真面目にやるからよお。メシ抜きはよんさんだけにしてくれよ」


「ちょっと、何、人の所為にしているでやんすか!大体、芋がらを作っていたら、横やりを入れてきたのは、彦助ひこすけくんやんか。わいの所為だけにするのは、やめてや」


 ちっ、よんさんはうるさいなあ。メシ抜きが嫌なら、手を動かせってんだ。


「おい、そこの新入り!さっきから、何を騒いでおるのか。気合が足らないようなら、俺が入れてやるぞ」


 金砕棒を持った、河尻かわじりさまがのっしのっしと怒鳴りながら、近づいてくる。ああ、厄介なのに眼をつけられたぜ、ご愁傷さま、よんさん。


 よんさんは、河尻かわじりさまに金砕棒で、ケツ罰刀ばっとを喰らっている。ご褒美、ありがとうやで!と叫ぶ姿を横目に見ながら、俺はおにぎりを握るのであった。


「おい、そこのお前。新入りの世話をするのは、先輩の役目であろう。何を自分は関係ないと言う顔で見て見ぬ振りをしているのだ。貴様もケツ罰刀ばっとだ!」


「え、ちょっと待ってください、河尻かわじりさま。騒ぎを起こしたのはよんさんだぜ?俺にまで責任を取るっておかしくないですか?」


 河尻かわじりさまが問答無用!と言い、金砕棒で、俺の尻にケツ罰刀ばっとを喰らわす。いったあああい!ご褒美、ありがとうございます!


「やれやれ、遊んでいるから、そんなことになるんだぶひい。黙って、作業をしとけって言うんだぶひい」


「ふっふっふ。田中。お前の余裕もそこまでだ。河尻かわじりさま。俺の先輩は、ここの田中さんです。田中さんにも先輩としての責任を果たしてもらいたいと思うんです!」


「ほう、田中。お前のとこの後輩であったか。連帯責任というものは美しいものだ」


「ちょ、ちょっと、河尻かわじりさま、一体、何を言っているんだぶひい!僕はこんな男なんて知らないんだぶひい」


「田中先輩、ひどいじゃないですか。僕はいつでもいかなるときでも、田中先輩を尊敬していますよ!」


彦助ひこすけ、ちょっと黙っておくんだぶひい!あ、やめてくれだぶひい、僕のお尻はぷりっとしているから、金砕棒は無理なんだぶひい」


 河尻かわじりさまは、懇願する田中を余所に、金砕棒でケツ罰刀ばっとを喰らわす。いったああいぶひい!ご褒美ありがとうなんだぶひい!


「さて、仕事、仕事っと。おにぎりはどれくらい握っておけばいい?ひでよし」


「ううん、そう、ですね。1食2個食べるとして、3日分なので、1人18個でしょうか?」


「げげ。5人分だから90個かよ。結構、握らなきゃいけないなあ」


「何言っているんだぶひい。昼は兵糧丸だから1日3~4個なんだぶひい。大体、彦助ひこすけ、ひでよし、おにぎりを一体、何個持っていくつもりなんだぶひい。少しは重量を考えろだぶひい」


 田中は四つん這いになりながら、尻をさすっている。言っていることは正しいが、その姿勢で言われると説得力がないぜ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ