ー戦乱の章 1- 戦(いくさ)の準備をしよう
清州の城は坂井大膳の信友幽閉により、混乱に陥っていた。その隙をついて清州の城を急襲しようという作戦だ。
信長やその諸将たちが準備に忙しく動いている。決戦も近いってわけだ。俺の心も浮き立つのはしょうがない。
「よっし、俺も敵兵の首級を取ってやるぜ。そして、一躍、利家と同じく、隊を率いる身分になってやるぜ!」
「彦助、浮かれるのはいいけど、さっさと3日分の兵糧を作るのを手伝うんだぶひい。お前、手伝わないならメシ抜きなんだぶひい」
「四さん、芋がらは縄目状に結んで、味噌で煮込んでくだ、さい。あ、そんなに粗雑に扱わないでくだ、さい」
「ん?こうでやんすか?あ、ぽっきりおれたやんか。なんや、このやわいのは!」
四さんは、ちゃっかり信長に取り入り、仕官することに成功したのである。本当に遊女の口説き方をアピールして、なかなかの才をお持ちですねと感心されているのには、さすがに信長は変人なのかと思ってしまったぜ。俺なら、四さんを家臣に持ちたいなんて、あんまり思わないんだけどなあ。
「しっかし、見かけによらず、四さんって手先が不器用だな。俺でも芋がらを結ぶくらいちょちょいのちょいで出来るっていうのによ」
「ん?不器用って言うわけやないんや。ちょっと、力を込めすぎるだけなんやで。こう見えても、わいは握力がすごいあるんや」
四さんはその辺に転がるリンゴを右手に掴み、ふんっと息を吐く。そして、ばきめきょめこおと言う音とともに、リンゴが粉砕されるのである。
「おお、すげえ。四さん、俺より握力があるんじゃねえの?俺でもリンゴにひびをいかせるくらいしかできないって言うのに、馬鹿力すぎるだろ」
「すごいやろ?ちょっと力の加減が難しいだけで、決して手先が不器用ってわけやないんやで」
俺と四さんがリンゴの試し割りをしているところを、田中とひでよしがじと目で見てくる。
「彦助、四さん。食べ物を粗末にするのはやめるんだぶひい。百姓のみんなに悪いと思わないんぶひいか?」
「なんだか、このやりとり、前にもやりま、せんでした?いちいち、つっこみを入れなければならない、こちらの身も考えて、ください」
「馬鹿につける薬はありまセン。ほっといて、弥助たちは兵糧を作る作業に戻りまショウ。喰うものがなくて困るのは、彦助さんと、四さんになるだけデスカラネ」
「そんなに怒るなよ、ひでよし、田中、弥助。真面目にやるからよお。メシ抜きは四さんだけにしてくれよ」
「ちょっと、何、人の所為にしているでやんすか!大体、芋がらを作っていたら、横やりを入れてきたのは、彦助くんやんか。わいの所為だけにするのは、やめてや」
ちっ、四さんはうるさいなあ。メシ抜きが嫌なら、手を動かせってんだ。
「おい、そこの新入り!さっきから、何を騒いでおるのか。気合が足らないようなら、俺が入れてやるぞ」
金砕棒を持った、河尻さまがのっしのっしと怒鳴りながら、近づいてくる。ああ、厄介なのに眼をつけられたぜ、ご愁傷さま、四さん。
四さんは、河尻さまに金砕棒で、ケツ罰刀を喰らっている。ご褒美、ありがとうやで!と叫ぶ姿を横目に見ながら、俺はおにぎりを握るのであった。
「おい、そこのお前。新入りの世話をするのは、先輩の役目であろう。何を自分は関係ないと言う顔で見て見ぬ振りをしているのだ。貴様もケツ罰刀だ!」
「え、ちょっと待ってください、河尻さま。騒ぎを起こしたのは四さんだぜ?俺にまで責任を取るっておかしくないですか?」
河尻さまが問答無用!と言い、金砕棒で、俺の尻にケツ罰刀を喰らわす。いったあああい!ご褒美、ありがとうございます!
「やれやれ、遊んでいるから、そんなことになるんだぶひい。黙って、作業をしとけって言うんだぶひい」
「ふっふっふ。田中。お前の余裕もそこまでだ。河尻さま。俺の先輩は、ここの田中さんです。田中さんにも先輩としての責任を果たしてもらいたいと思うんです!」
「ほう、田中。お前のとこの後輩であったか。連帯責任というものは美しいものだ」
「ちょ、ちょっと、河尻さま、一体、何を言っているんだぶひい!僕はこんな男なんて知らないんだぶひい」
「田中先輩、ひどいじゃないですか。僕はいつでもいかなるときでも、田中先輩を尊敬していますよ!」
「彦助、ちょっと黙っておくんだぶひい!あ、やめてくれだぶひい、僕のお尻はぷりっとしているから、金砕棒は無理なんだぶひい」
河尻さまは、懇願する田中を余所に、金砕棒でケツ罰刀を喰らわす。いったああいぶひい!ご褒美ありがとうなんだぶひい!
「さて、仕事、仕事っと。おにぎりはどれくらい握っておけばいい?ひでよし」
「ううん、そう、ですね。1食2個食べるとして、3日分なので、1人18個でしょうか?」
「げげ。5人分だから90個かよ。結構、握らなきゃいけないなあ」
「何言っているんだぶひい。昼は兵糧丸だから1日3~4個なんだぶひい。大体、彦助、ひでよし、おにぎりを一体、何個持っていくつもりなんだぶひい。少しは重量を考えろだぶひい」
田中は四つん這いになりながら、尻をさすっている。言っていることは正しいが、その姿勢で言われると説得力がないぜ?