ー遭遇の章13- そこに関所があるから
「弥助自身は気付いてないかも知れないぶひいが、この中で、くだらないことを言うのは彦助に次いで、お前が2番目なんだぶひい。少しは自覚しているぶひいか?」
「オウ、シット!弥助を彦助さんと同列に語るのはおかしいのデス。デウスの前にひざまずき、悔い改めることを願うのデス」
そこが、弥助のダメなところだと思うんだけどなあ。
「まあ、弥助。とりあえず、いい案があれば言ってくれよ。くだる、くだらないはその後で判別してやるからよ」
「コホン。では、言わせてもらうのデスガ。弥助たちは、別に律儀に清州の出入り口の関所を通る必要はないと思うのデスヨ、路地裏をこのまま抜けて、町から外に出てしまえばいいのデス」
「ばかやろう!」
ばきぃっ!俺は弥助の左ほほを右手でつっぱりを喰らわす。
「な、なにをするのデスカ!弥助は何か間違ったことを言ったと言うのデスカ」
「確かに、弥助の言っていることは正しい。だがな、そこに関所があるんだ。関所破りをしなくて、どうするって言うんだよ!」
「彦助、落ち着くんだぶひい。弥助はロマンがわからないやつなんだぶひい。現実主義者で、宗教狂いなんだぶひい」
「あ、あの。間違ってないことを言っている、のに、つっぱりを喰らわせるのはどうかと思うの、ですが」
「ひでよしくん。世の中は正しいことだけを言っていれば良いと言うわけではないんや。時にはくだらないと思うことにもイエスと応えることも人としては正しい選択なんや」
「では、彦助さんたちは、どうやって関所破りをすると言うのデスカ。肝心の四さんの吹矢は役立たずなのデス」
ふっ。弥助はわかってない。本当にわかってない。
「そんなの簡単だ。関所を通らずに路地裏を抜けて、町から外に出るだけだ。そんなこともわからないのか、弥助は」
「オウ、ノウ!結局、弥助と言っていることと同じじゃないデスカ。何故、ワタシはつっぱりを喰らう必要があったのデスカ」
「それはそれ。これはこれだ。しかしだ。俺たちが路地裏から逃げるのは、万策尽き果てた時だ。最初から路地裏から逃げると言う、お前が間違っているんだよ!」
「彦助の言う通りなんだぶひい。路地裏から逃げ出すのは最後の手段なんだぶひい。僕たちは関所破りを最後まであきらめないんだぶひい」
さすが田中だぜ。俺と息ぴったりだ。
「で、どうするんでやんす?わいの吹矢は使い物にならないのは確かなんやな。彦助くんには策があると言うんかいな?」
俺は、ふっふっふと口から息を吐きだし
「煙玉を使って、あそこを突破するんだ。煙があたり1面を覆っている間に、門番たちの首筋に手刀を叩きこんで眠らせる。ひとりがひとり、対処すれば、簡単にいくだろ?」
「彦助殿にしては良い案を思いつき、ましたね」
そうだろ、そうだろ。これで俺も智将の仲間入りだぜ。
「しかし、問題があり、ます。煙玉は1個しか持っておらず、さっきで使い切ってしまったの、です」
俺はひでよしの言いを聞き、思わず、ずっこけそうになる。
「おい、なんで信長から2、3個もらってきてないんだよ!あんな便利なもの、何個あっても困ることはないだろ」
「あんな大きいもの、2,3個も持ってくるわけがないじゃ、ない、ですか。それこそもしもの場合のため、です。大体、荷物の邪魔で、さっさと使ってしまいたかった、のです」
くっそ。肝心の煙玉のストックがないんじゃ、これじゃあ、関所破りができねえ。だれか他に策はないのかよ。
「仕方ないぶひいね。僕が代わりに信長さまからもらってきた、からし玉を使うんだぶひい。これは本当によっぽどのことがないと使ってはいけないと言われたしろものなんだぶひい」
「ん?からし玉ってなんや?聞いたこともないんやが。そんなん、使って大丈夫なんか?」
「僕もよくはわかってないんだぶひい。ただ、敵に囲まれて、どうしようもなくなったときに使えって言われて渡されたんだぶひい」
「すっごく嫌な予感がしま、すね。それを使うのはやめま、せんか?」
「なんでだよ、ひでよし。せっかくもらったもんなんだから、使ってみたほうが良くね?効果はいまいちわからんが、使わなきゃいけないのは今、このタイミングだと思うぞ?」
「その効果のわからないものに期待して策を為すほうが、よっぽど危険だと、思うの、です」
「からし玉のほうは3個、もらってきているんだぶひい。信長さまは効果のほどを知りたいので1個くらい使ってしまっても構わないとも言っていたんだぶひい」
「お、信長のやつ、ふとっぱらじゃねえか。なんで、煙玉は1個しかくれなかったのに、からし玉は3個も渡してくれたんだろうな?もしかして、順番的に、からし玉を先に使って、とっておきに煙玉を使えって意味だったのかな?」
「ううん、信長さまのお考えはよくわからんのだぶひい。まあ、せっかく3個もあるんだし、1個くらい使ってみるんだぶひい」