ー遭遇の章10- しばっていこう!
「静かにしてくだ、さい。彦助殿。何か様子がおかしい、です」
「ん?なんだ?何かあったのか?」
「窓から外を見るんだぶひい。清州の兵たちが町中をうろついているんだぶひい」
俺は田中に言われたとおり、窓から顔をこっそり出す。
「黒い肌をした長身の男をつれた集団を見つけたら、お前たち、俺らに教えろ!そいつらはあろうことか織田信友さまに怪我を負わせた奴だ。ひっ捕らえて、見せしめとして処刑してやるわ」
ちっ。朝からご苦労なことだぜ。しかも、信友の奴を傷つけたって、俺らじゃねえだろ。お前ら、坂井大膳派がやったことを俺らの所為にするんじゃねえ!
つい叫びそうになる俺を弥助が俺の口をふさぎ、静止させてくる。
「彦助さん、何を口走ろうとしているのデスカ。自分から捕まりに行くつもりなのデスカ?」
「いや、だってよ。やってもないことを俺らの所為にされたら、頭にくるじゃねえか。弥助はむかつかないのかよ!」
弥助は静かに首を左右に振っている。
「弥助は構わないのデス。ここで怒りに身を任せて、皆さんを危険に晒すわけにはいかないのデス」
くっ。俺は悔しいぜ。濡れ衣を着させられた以上、この借りは絶対、返してやるからな!待ってろよ、坂井大膳が!
「さて、通りには敵がうろついているんだぶひい。そして、こっちには目立つ弥助がいるんだぶひい。どうしたもんなんかだぶひい」
「わいに良い考えがあるんやで!尾張1の策士と言われた四さんに任しとき」
ううん、不安しかないのは俺だけなんだろうか?いや、そうではないな。田中、ひでよしが何、言ってんだこいつって顔で四さんの顔を見てやがる。
「一応、聞いておき、ますが。四さんは一体、どんな策があるん、ですか?」
「弥助くんを僕らで縄でふんじばるんや。あたかもわいらで捕まえた体で連れ歩けば、敵さんも油断するんやで!」
ううん。四さんにしては、まともなことを言ってるなあ。この策は意外といけるんじゃねえの?
「四さんにしては良い案、ですね。ですが、城とは反対方向に行きますから、どこかで路地裏にでも隠れないといけま、せんね」
「そうぶひいねえ。四さんにしては良い案なんだぶひい。試しにやってみるぶひいか?弥助、いいぶひいか?」
「しょうがありまセンネ。さあ、弥助を好きに縛るがいいのデス」
弥助がそう言うので、俺たちは遠慮なく、縄で縛り始める。って、あれ?なんか結び方がおかしくね?みんな。
「ちょっと待ってクダサイ?なんか変な結び方してまセンカ?これ、簡単に外せなくなるんじゃないデスカ?」
「ちょっとやそっとで外せないほうが、町の人も信用するんやで。ひでよしくん、そっちのほうをこっちに通らせてくれやで」
「えっと、こっちをそっちに渡せばいいんで、しょうか?さすが四さんなの、です。こんな結び方、どこで覚えたん、ですか?」
「姫さまプレイができるお店が美濃の方にあるんやで?ちょっとお高いやんけど、面白いプレイができまんがな。ひでよしくん、今度、いっしょに行こうやで?」
明らかにエスエム倶楽部って奴なんだろうな。四さんの遊女好きは、すごいぜ。魔法をかけているが如く、不思議な縛り方をしてやがる。
「よおし、後は天井のはりに縄を通して、ほら、できあがりやで!亀甲縛りの完成や」
俺と田中とひでよしは、四さんの芸術的な縛り方に感動し、思わず拍手をしてしまうのである。天井から釣られた弥助は美しいとさえ思ってしまう、俺である。
「ちょっと、一体、あなたたち、何をやっているのデスカ!弥助は新しい世界に目覚めてしまいマス」
うーん、弥助が変な趣味に目覚められても困るなあ。しょうがないから降ろしてやるか。
四さんが残念な顔をしているが、これでは作戦もへったくれもないしな。って、弥助、恍惚な顔をするんじゃねえ。男のそんな顔なんか見たくないんだよ!
弥助は、そこをもっと責めてくだサイ、乳首はだめなのデスといやいや言いながら身をよじる。
「おい、弥助。ちょっと、大人しくしてくれよ。降ろそうにも降ろせなくなるだろうが」
「縄がこすれて痛いやら気持ちいいやらで、弥助のほうこそ困っているのデス。あんっ!もっときつくしてくだサイ」
「ちょっと、調子に乗って、やりすぎちゃったんだぶひい。こんなことしている時間は僕たちにはないんだぶひい」
「うーん。縛っているうちに楽しくなってしまったのが、失敗だったの、です。弥助さんがあまりにも良い声で鳴くので、私もつい熱が入ってしまい、ました」
確かに、途中から楽しくなってきてたよな。四さんの縛り方が芸術クラスなのが悪い。
俺たちはよいしょよいしょと言いつつ、天井から釣られた弥助を降ろし、亀甲縛りをほどいていく。そして、普通に両手と胴を縄で縛り直し、準備完了となる。本当、無駄に時間を使っちまったぜ。