ー遭遇の章 8- 兵士は定職に入るのだろうか
「定職って言うには少し違う気もするけど、四さんも信長に仕えたらいいんじゃないの?行商人をやってて、情報には鼻が利くんだし、体力もありそうだし、問題ないと思うぜ?」
「兵士でやんすか。でも、信長さまと言えども、ほぼ無給で働かせるんとちゃいますの?どこの国でもそうやけど、兵士って言うもんは基本、無給でっせ?」
「いやいや。ちゃんと信長は、俺のような入って3か月の兵士にも給金を払ってくれてるんだぜ?相撲しか取柄のないような俺でも仕官させてくれたんだし、四さんなら大丈夫だって」
俺の言葉を聞き、四さんは、ううんと唸っている。やっぱり、兵士となれば、命の取り合いになり、それを嫌う者なら忌避してしまうんだろうかと、心配になってしまう。
「どうせ、給金は出るって言っても、雀の涙なんやろ?お兄さん、騙される気はないんやで」
あれ?四さんの心配なのは給金がでるかってところかよ。
「てっきり、四さんは殺し、殺し合いの世界が嫌なのかと思っちまったぜ」
「ん?そんなもん、心配しているわけがないんやで。どうせ、金がなければ、どっちにしろ、行き倒れやで。で、お給金のほうはどうなんでっか?」
命のやりとりに関してはって心配した俺が気疲れしただけじゃねえか。
「なんと、月に2貫出るぜ。それに、訓練のある日は、朝昼、メシが出るし、確か、佐久間さまは足軽から200人長になれる実力主義なところなんだぜ?」
「月に2貫も貰えるってほんまでっか?針の行商人をやってても、月2貫も売り上げが出るなんて、そうそうないんやで!」
うっわ。針の行商人って厳しいんだなあ。2貫で20万円程度だから、四さんの商売はそんなに儲からないとは思ってなかったぜ。
「よっしゃ!わいも、皆さんについて行って、津島で一旗揚げさせてもらいまっせ!これからは彦助くんたちとは仲間や、よろしくやで」
「いや、その前に、信長の出す、試験に合格しないとダメっぽいんだ。四さんは何か得意なことってあったっけ?」
「遊女を口説き落とすことなら、まかしてくれや!わいの台詞で落ちなかった遊女はいなかったんやで」
そこは、針の行商人をやってて、周りの土地に明るいことをアピールしたほうが良いような気がするんだが、まあ、四さんが要らぬことを言って、試験を不合格になっても自業自得だから、この際いいかも?と思ってしまう俺は、心が汚れているのだろうか?
「お前ら、うるさいんだぶひい。さっさと寝るんだぶひい」
田中がもっそりと起きだして、俺たちを睨みつけてくる。腹に乗っている弥助の左足をむんずと掴み、ぽいっと放り投げている。
「あ、悪い。起こしちまったか?」
「おしっこがしたくなったぶひいから、目が覚めたんだぶひい。ちょっと、厠に行ってくるんだぶひい」
田中はそう言うと、隣のひでよしを起こさないように注意して、襖を開けて、部屋の外に出て行った。まあ、先ほどの夕飯の時、たらふく酒を飲んでいたからなあ。もよおしてくるのも、しょうがないと言えばそうだよな。
5分後、田中が戻ってきたので、起きたついでとばかりに、四さんと話してた内容について聞いてみることにする。
「ん?四さんが、信長さまに仕えたいってことぶひいか?そうぶひいねえ。僕から見た感じ、四さんは利に聡い感じがするから、信長さまのおめがねに適うかどうか、怪しいところなんだぶひい」
田中は眠そうな目をこすりながら、四さんの評価を言う。んー、確かに、金で裏切りそうな雰囲気がするもんな、四さんは。
「彦助くん、失敬やな!わいは金では転がりまへんで」
「でも、女が絡むと裏切りそうな雰囲気がするんだぶひい。例えば、僕が好いている遊女を横からかっされっていきそうな感じだと言えばいいぶひかね?」
「わいは、友達の女に手を出すような男ではおまへんで!他人の女には興味はこれっぽっちもわきまへんよ」
「本当ぶひいか?明日の朝、ひでよしに確認するけど、嘘は言っていないと誓えるぶひいか?」
「おいおい、四さんがそう言っているんだから、あんまり問い詰めるようなことをしなくてもいいんじゃないの?田中は四さんに対して、少し、厳しすぎる気がする」
俺がそう言うと田中が、やれやれと言った顔つきになる。
「確かに四さんは、ひでよしの昔の仲間だったぶひい。でも、もし、四さんが坂井大膳の間者だった場合、僕らの命は危険に晒されることになるんだぶひい。用心しといて損はないんだぶひい」
「そんな心配は無用やで。正真正銘、わいはひでよしくんの親友や。親友を裏切るようなことはしないんやで。もちろん、いっしょにご飯を食べた、田中くん、彦助くん、弥助くんも、わいの親友や。親友を売るようなことをしないのが、わいの信条やで!」
俺が聞く感じでは、四さんは嘘をついているようには思えないんだよな。なんで、田中は四さんに対して当たりが強いのだろう?
「じゃあ、親友と言う四さんに質問なんだぶひい」
「おう、どんとこいやで。なんでも受け答えさせてもらいまっせ!」
「彦助には椿って言う、熱田神宮の巫女さんと仲良しなんだぶひい。彦助はそのおっぱいの大きい、椿を狙っているんだぶひい。でも、もし、その椿が、四さんのことを後々、好いているってことになったら、どうするんだぶひい?」