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ー遭遇の章 6- 優しさは甘い毒

 ひでよしがついにキレたので、俺たちは寝ることにする。


 田中は、ぶひいぶひい、ぐごおぐごおと豪快にいびきをかきやがる。一緒の部屋で寝るようになってから、最初の2,3日は、うるさくて、こっそり鼻に布をつっこんでやったのだが、人間、どんな環境でも慣れるからおそろしい。


 弥助やすけは寝癖が悪く、田中の腹の上に左足を乗せている。田中も田中だ。よくもまあ、自分の腹の上に足を乗せられて、いびきをかいて寝られるものだと感心してしまう。


 さきほどまでキレていた、ひでよしは鼻ちょうちんを作りながら、寝言を言っている。


「やったの、です。織田信友の首級くびを取り、ました。これで、私は一国一城の主、です。むにゃむにゃ」


 いや、織田信友の首級くびを取っても、尾張おわりは信長のものになるだけで、ひでよし、お前は一国一城の主にはなれないぞ?そう、寝言につっこみを入れそうになるが、寝ている獅子を起こすのは危険だと思い、やめておく。


 俺が戦国時代に飛ばされてから、早、3か月以上が経とうとしているのか。血を見ることさえ、忌避してきた俺が、目の前で敵兵が死のうが動じるようなことは、すっかりなくなっていた。


 俺はもしかして、人間として大切な何かを失ってきているのではないかと危惧してしまう。


 とにかく、この時代の人間の命の価値など、現代に比べれば、かなり低いと言ってよい。津島の町を一歩離れれば、行き倒れの奴ら何て、しょっちゅう目にしたものだ。


 以前、村々を繋ぐ、道ちゅうで倒れているものを見るに見かねて、おにぎりのひとつでも与えようと、俺はそいつに近づこうとしたとき、田中は俺を静止させたのだった。


「やめとくんだぶひい。お前は神さまか何かになったつもりなんだぶひいか?施しを与えるのは、見知った仲だけにしとくんだぶひい」


「でもよ?困ってる人間を放って置くわけにはいかないだろ。もし、俺が何もせずに、このひとが死んじまったら、目覚めが悪いんだぜ」


 そう、俺は田中の静止を振りきり、倒れているそいつの元へ駆けつけ、声をかけたんだ。


「おい、しっかりしろ。腹が減っているのか?このおにぎりでも食べてくれ」


「へ、へえ。ありがたいだ。ついでにあんたの持っている金すべてを置いていってくれると助かるだ」


 その倒れているものの右手には、懐剣が隠されていた。倒れている風に見せかけた、強盗だったのである、そいつは。


 俺の喉元、目がけて、そいつの懐剣が突かれようとしたまさにその時、そいつは大きく身をよじり、俺から身を離す。


 田中が俺の後ろに位置していた。田中がその倒れていた奴を蹴っ飛ばしてくれたのだ。


「だから言っておいたんだぶひい。大概、町や村の外で倒れている奴なんて、身ぐるみはがされた行商人か、盗賊のどちらかなんだぶひい。そんな奴らに施しを与えていたら、彦助ひこすけ、お前が仏さまになるんだぶひい」


「す、すまねえ。助かったぜ、田中。くっそ、あの野郎、ぶっとばしてやる!」


 しかし、その盗賊はすでに遠くのほうへ逃げていた。俺は、ちっと舌打ちし、そいつを睨みつける。だが、その盗賊は後ろを顧みることは無く、林のほうに逃げて行ったのであった。


彦助ひこすけ殿。優しいのは人間として美徳かもしれま、せんが、田中さんの言う通り、相手を見て判断をしたほうがいい、ですよ?命を救うつもりが、命を取られては、たまったものじゃありま、せん」


「デウスの教えでは、困っている人を助けるのは美しい行いなのデス。それを咎められなければならない、この世はまさに地獄と等しく思うのデス」


 確かに、この時代は地獄と言って差支え無いのかもしれない。だが、俺は自分が持つ優しさを忘れてはならない気がするんだ。


彦助ひこすけくん。悩み事ですか?女のことならおにいやんが聞いてやるで?」


 俺が回想に浸っていると、すまきにされたよんさんが声をかけてくる。まだ、起きてたのかよ。


よんさん、そう言うけど、こんなこと言っちゃ悪いが、よんさんが女にモテるイメージがわかないんだけど?」


 俺はみんなが起きないように小声でよんさんに返事を返す。よんさんもまた、声を潜めて返事をしてくる。


「何を言ってまんがな。ひでよしくんに遊女の口説き方のイロハを教え込んだのは、わいなんやで?どんな女でもいちころやで!」


 うーん、確かに、ひでよしが百夜ぴゃくやさんを口説き落としたのは、この目で見ている。その人たらしを教え込んだのがよんさんってことだ。でもなあ。遊女にしか効果のないものを教わるのも、どうしたものかなあ?


 しかし、もしかすると、一般女性にも口説きのコツのひとつくらいは、役に立つかも知れないし。しかし、それはともかくとして、よんさんに借りを作るのが嫌なんだよな。これをきっかけに付きまとわれるんじゃないかと言う危惧のほうが心配なのだ。


「なあ、よんさん。その口説きの技術で、遊女以外を落としたことはことはあるのか?」


「何を言ってまんねん。わいは素人には興味がおまへんのや。玄人の技術を知ったら、素人には戻れなくなりまっせ!」


 うーん、やっぱり、よんさんは、ダメ人間な気がするぜ。


「どや?彦助ひこすけくん。わいと一緒に、尾張おわりの風俗王を目指そうで!行く行くは7つの海を制覇するんやで」

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