ー遭遇の章 4- 争いは同レベルでしか起きない
この鼻にからみつくよう匂い。しっとりとした気流。そして、目にしみる刺激感。
「弥助、てめえ!さっきから、おならをこいてたのは、てめえじゃねえか」
「オウ、ノウ。何の証拠があって、弥助が犯人だと言うのデスカ。さきほどまでのおならには名前が書かれていたのとでも言うのデスカ?」
「てめえのおならは、明らかに肉食のやつがかますやつだ。四さんのような喰うものにすら困るようなひとがするような、おならじゃねえ!」
「言われてみれば、そう、ですね。針の行商人のころ、四さんと野宿をよくしていましたが、四さんのおならは、こんな野獣みたいな、おならではありま、せんでした」
ひでよしがそう言う。ひでよしが、四さんのおならの匂いと違うと言うのであれば、それは確かなんだろう。弥助はあろうことか、自分のおならの罪を他人に被せてやがったんだ!
俺は弥助に右手の人差し指を突き付けて言う。
「弥助、観念しろ!犯人はお前だろ。大人しく罰をうけるんだ」
しかし、弥助は、ふうやれやれと言う顔つきである。
「何を言っているのデスカ。弥助は田中さん、ひでよしさん、彦助さんと変わらない食事をしているのデスヨ?それにワタシの好物は果物ナノデス。肉食ではないのデス」
くっ。弥助にしては頭が回る。こいつを論破するのは骨が折れるぞ。
「てか、そんな犯人探しをしなくても、すでに答えは出ているんだぶひい」
なんだと、田中!お前には、このおなら事件の犯人がわかっているのか!
「今、僕たちは弥助、僕、ひでよしが川の字で、彦助、四さんが僕たちの足元に横ならんで寝ているんだぶひい。よくよく考えれば、すぐわかることだったんだぶひい」
たしかに田中の言う通り、俺と四さんは、川の字で並んでいる3人の足元で横向きになり、四さんと足を向かい合わせで寝ていた。
1発目のおならで、一番先に、おならの匂いに気付いたのは俺だ。
俺の顔から1番、尻が近い奴と言えば…
「やっぱり、弥助、てめえじゃねえか!何しらばっくれて、俺と四さんの所為にしてんだよ」
「オウ、シット!智将の田中さんにばれていたのデスカ。彦助さんは馬鹿だから、騙せると思っていたのが失敗だったのデス」
「つか、弥助、てめえが俺に尻を向けて、おならをした時点で匂いの質でばれてんだよ。なにが好物は果物だ。肉、果物、肉、果物、肉、ご飯のてめえが、やっぱり肉を一番喰ってんじゃねえかよ!」
「フッ。ですが、弥助の罪は、四さんが肩代わりで罰を受けたのデス。神は言われたのデス。人々の罪は全てキリストが罰を受けて、肩代わりしたのデス。なんら、これ以上、あなたたちに罰を与えることがあろうカト」
「何か?四さんは、そのキリストと言うやつと同格だと言いたいわけなのか?なあ?」
「そういうことなのデス。四さんはキリストの生まれ変わりだったのデス。さあ、皆さんの罪は、すべて、四さんが罰を受けてくれるのデス」
「理屈がよくわからないの、ですが、とりあえず、無関係の四さんをすまきから解放しま、せんか?そのあと、改めて、弥助さんをすまきにしま、しょう」
うん、弥助がごちゃごちゃ言っているが、ひでよしの論が圧倒的に正しい。
「ちょ、ちょっと、止めるのデス!ひでよしさんの悪魔の声に従ってはいけないのデス。正しき教えに従う、弥助の声を聞くのデス」
弥助の言っていることを皆、無視し、とりあえず、濡れ衣を被らされた四さんの縄をほどき、すまき状態から、脱出させる。
「だから、わいが犯人じゃないと言っていたやないか!わいのおならは、ネギがくさったような臭いしかしないでやんす」
それも嗅ぎたいとは思わないな、正直。さて、四さんは助けだした。次にやることはっと。
俺、田中、ひでよし、四さんが、じろりと、あるひとりの男を見つめる。
「ちょっと待ってクダサイ。四さんが全ての罰を引き受けたのデス。なぜ、これ以上、罰を与える必要があるというのデスカ!」
「他人に罰を背負わせて、のうのうと生きているのは、それはひととして間違っていると思わないのか、お前は」
「何を言っているのデスカ。デウスの教えを否定するつもりデスカ。よろしい、ならば、十字軍の力を見せてやるのデス」
弥助はそう言うと、俺たち4人向かって、尻を向けてくる。くっ、こいつ、3発もおならをかましながらも、まだ残弾が残っているとでも言うのか!
「ハハハッ。さあ、ワタシの神罰を喰らいたいものは、襲ってくるといいのデス。返り討ちにしてやるのデス!」
くっ、弥助、てめえがそう言うつもりなら、こちらも奥義を出さねばなるまい。
「おい、田中、アレをやるぞ!こうなったら、仕方がねえ」
「え?アレをやるんだぶひいか?でも、あれは1日に何度もするものじゃないんだぶひい」
「ここでちゅうちょすれば、やられるのは私たち、です。田中さん、奥義を出しま、しょう!」