ー下剋上の章21- 彦助の妄想は止まらない
「熱田神宮に追い詰められた俺たち4人は、椿、菜々、風花さんの3人の巫女による祈りで、3種の神器が時空を超えて現れるんだ。それを俺たちが装備して、坂井小膳をやっつけるんだ」
「あれ?4人なのに、3種の神器だと、ひとり余ってしまうんだぶひい」
「俺が草薙剣だろ。ひでよしが勾玉だ。そして、田中が鏡で、弥助はとりあえず、そのへんにあった、ひのきの棒を装備してたな」
「ちょっと待ってくだサイヨ。なんで、弥助だけ、ひのきの棒なんデスカ。相手の生命を1しか削れないような武器なんて、嫌デスヨ」
「まあ、なかったものはしょうがないじゃないか。武器があるだけマシだと思ってくれよ。でだ、その坂井小膳を倒した俺たちは、次に、坂井中膳が現れたんだ」
「なんだか、安直な名前、ですね。もう少し、ひねりようがなかったの、ですか?」
兄弟の名前が、ひでよしと、ひでながのお前に安直だと言われる筋合いはない。
「で、その坂井中膳が現れて、僕らはどうなったんだぶひい?」
「絶対絶命のところを四さんが現れたんだ」
ふむふむと俺の周りを囲む4人が頷く。
「それで、わいはどうなったんですかいな?その坂井中膳とやらを、しばきまわしたんちゃいますか?」
「いや、助けに現れた四さんは、坂井中膳のつっぱりを喰らって、地面を転げまわり、道のどぶにはまって絶命してしまったんだ」
「ちょっと、まってくれやんす。つっぱりをくらって、ぶっ飛ばされて、その上、道のどぶにはまって絶命って、なんなんすか!そんな妄想、やめてもらえまへんか?」
「だって、四さん、ここは俺に任せろとか言って、開幕5秒でノックアウトだぜ?それを活躍させろって言われても、俺の妄想力ではどうにもならん」
「妄想なんだから、そこは融通を利かせてくれてもええんやで?その坂井中膳ってやつを倒して、わいが女の子とうはうはできる妄想に書き換えてくれますか?」
嫌です。お断りです。四さんの末路は、その程度でいいんだよ。
「で、助っ人の四さんがあっけなく倒されるような相手に、僕らはどう立ち向かったんだぶひい?」
「それはだな。四さんをやられたことによって、弥助が産まれて初めての怒りを覚えたんだ」
「オウ。弥助の覚醒イベントデスネ。坂井中膳をぼこぼこにしてしまったのデスネ?」
「怒りに目覚めた弥助は、金色の空気を身にまとったんだ。そして、坂井中膳に、ひのきの棒を叩きつけたんだ」
「オウ!弥助は大活躍なのデス。彦助さんの妄想の中の弥助は、ナンバーワンなのデス!」
「しかし、弥助の怒りの力に耐えきれなくなった、ひのきの棒は、ぽきりと折れてしまったんだ。ああ、こんなことなら、弥助に草薙剣を持たせておけば良かったと思ったぜ、あの時は」
「あ、あの。疑問なんですけど、なんで、彦助殿が草薙剣を装備しているん、ですか?そもそもの人選が間違っている気がするの、です」
「そりゃあ、俺が妄想の主人公だからな。主人公が剣を装備しているのは、当たり前だろお?」
ひでよしが、はあ、と返事をしている。主人公が剣なのは物語のお約束なんだ。文句を言うなら、そんなお約束を作ったやつに言ってくれ。
「で、弥助は、唯一の武器、ひのきの棒が無くなってしまった以上、どうなってしまったのデスカ?」
「ん?右手で殴った」
「え?殴ったんだぶひいか?じゃあ、最初からひのきの棒なんかいらなかったんじゃなかったぶひいか?」
「何、言ってやがる。そのせいで、弥助の大事な右手の骨が粉々に砕け散ったんだぞ。これでは弥助は女性のおっぱいをもめなくなったのデースって、悲しんでいたんだぞ!」
「あ、あの。右手の骨が砕け散っても、左手で揉めばいいんじゃない、のでしょうか?」
「ああ、それもそうだな。左手が残ってたな、良かったな、弥助」
「右手の骨が砕け散っているのに、そんなの痛くて、おっぱいの感触なんか楽しめるわけがないデショウ。彦助さんは狂っているのデスカ?」
大概、普段から弥助は狂っている気がするが、そこには自分でつっこみはいれないのか?と俺は思ってしまう。
「で、結局、坂井中膳は、どうなったんぶひい?僕たちは全員、そいつにやられてしまったんぶひいか?」
「田中が鏡を太陽にかざすと、光が反射して、それがひでよしの勾玉に当たったんだ。そしたら、勾玉がしゃべりだして、ひでよしが猿に変身したんだ」
「ちょっと、まって、ください。言うに事欠いて、私を猿呼ばわりするのは止めて、ください!」
「ばかやろう!猿は猿でも、体長10メートルはあろうかという、大猿だぞ!これで、ひでよしの戦闘力が10倍になったんだ。喜ぶことはあれ、文句を言われる筋合はないぞ」
「って、あんさんがた、いつまで彦助くんの妄想に付き合っているんでっか?いい加減、仕事の話をしたほうがいいんちゃいます?」
「あっ」
「あっだぶひい」
「あっなのデス」
「なんで、こんなくだらないことに、私たちは熱をあげていたの、でしょうか?」