ー下剋上の章17- 協力者 椿四十郎(つばきよんじゅうろう)
「お前ら、面白そうな話をしてるやんけ。どや?お兄さんも混ぜてくれへんか?」
ん、なんだこいつ。どっから現れやがった?
俺は、胡散臭そうな30代にも見える、その男を睨みつける。
「おお、兄ちゃん、そんなに怖い顔せんといてや。おーーーい、お姉ちゃん、この席に濁り酒3つ、持ってきてくれよ!」
「おい、てめえ。一体、なんのつもりだ?呼んだ記憶は一切ないぞ?」
俺は、その怪しい男に注視する。
「あ、四十郎さんじゃない、ですか?元気にしていま、したか?」
「おお、ひでよし。息災で何よりやんな。居酒屋の外は、お前たちを探す、清州城の兵たちがうろついてんで?」
ん?こいつは、ひでよしの知り合いなのか?
「こ、このひとは、椿四十郎さん、です。まあ、苗字を名乗っていますが、自称なので、気にしないで、ください」
「申し遅れてたんやで。俺は、椿四十郎ってんだ。ひでよしに頼まれて、清州の町を探っていたんやで」
「と言うことは、この男は、ひでよしの協力者ってことなんだぶひい?そんな話は聞いてなかったんだぶひい」
店員のおねえちゃんが、濁り酒の入った徳利を3つ、置いて行く。ごゆっくりーと言って、店員のおねえちゃんは去っていく。
さてとばかりに、四十郎と呼ばれた男は、手酌で濁り酒を湯飲みに注いでいく。そして、湯飲みに口をつけ、ぐびぐびと酒をあおってやがる。
「ぷはああああ!やっぱり、夏の暑い日は、濁り酒に限るんやっで。この一杯のために生きてるんやな、俺は」
「いくら、おごりと言っても、飲みすぎないでくだ、さいね?酔っ払ってしまっては、困るんです、から」
「そう言うなって、ひでよしやん。酒を飲んだほうが、口が舐めらかになるんや」
そう言いながら四十郎は、瞬く間に徳利を1本、空けやがる。なんだ、こいつ?ひでよしとの縁で、無料酒を飲みに来たようにしか見えないぞ?
「ん?兄ちゃん。どうしたんだ?怪訝な顔なんかして。さては俺に惚れたんやんか?」
「惚れてねえよ!大体、俺の名前は飯村彦助って言うんだ。兄ちゃん、兄ちゃん、言うんじゃねえよ」
「飯村の彦助くんか。うんうん、若いっていいやんすね。四にも分けてほしいやで?」
「四十郎さん。僕は田中と言うんだぶひい、そして、この肌の黒いのが弥助なんだぶひい。四十郎さんは、一体、どのような用件でやってきたんだぶひい?」
「おっと、もっとふれんどりいに接してくれていいやで。四さん、もしくは四さまって呼んでや」
うーん?このマイペースっぷりは何だろう。しゃべりを聞いている感じ、悪いひとではなさそうなんだが、いまひとつ、何を考えているのかがつかめないぞ、この四ってひとは。
「四さん。頼んでいた情報は仕入れてくれ、ましたか?」
「ああ、あれね。ひでよしの予想どおりやったわ。あいつら、米を金に換えているみたいやな。農繁期を過ぎるころには、兵士たちの装備を整えるみたいだぜ?」
「え?四十郎さん。商人かなんかなの?」
「四さまでいいんや。そんな堅苦しい言い方はなしや。針を津島で買って、清州の町に卸しているだけのちょっとした、商売をしているだけやんな。どこぞの商人の息子ってわけではないんや」
俺は、ふーんと思う。ひでよしの昔の針売り仲間かと思う。だが、清州の城の動向を探っているからにして、ただの庶民と言ったわけではないのだろう。
「それで、どれほどの武器を買い込んで、いたの、ですか?坂井大膳たちは」
「ああ。200から300人分と言ったところやな。ただ、鉄砲などは買い込んではいなかったようや。さすがに値が張るから、容易に手は出せないと言ったところやな」
「武器は槍や、弓なのでしょうか?あと、防具などは、どうでした?」
「主に槍や弓やったな。防具は新調する様子はなかったやで。津島が好景気なためか、こっちの清州のほうは、不景気と言ったところや。米もなかなか売れんかったみたいやな」
ひでよしと四さんが、情報を交換している。ひでよしはすごいな。いつのまに、こんな協力者を手配していたのやら。
「なあ、四さんよ。なんで、ひでよし、もとい、信長に情報を売るようなことをしてんだ?あんたは清州の町の住人だろ?自分とこの領主の手伝いをしたほうが、身の安全を考えても、得がないんじゃないのか?」
四さんが、うん?と言う。あれ?俺、おかしなことを言ったっけ?
「さっきも言ったが、俺は針の行商人であって、清州の町で店を構えているような商人じゃないやで。別に、清州の織田信友さまに忠誠を誓っているわけではないんや」
「でも、敵を利するようなことが、ばれれば、四さんだって、危険じゃないのか?」
「はははっ。その領主のおかげで、ここ、清州は不景気なんや。不景気ってことは、行商人の俺にとっては、致命的なわけよ。さっさと、津島の信長さまに、信友さまが討たれてくれたほうが都合がいいやんか」