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ー下剋上の章12- 刺身の食べ方

「そういえば、調味料と言えば、ヨーロッパでも論争が巻き起こっていたのデス」


「ヨーロッパと言えば、オリーブオイルしか思いつかないんだけど?刺身にもオリーブオイルを使うんだろ?」


「オウ、ノウ。想像するだけで、おぞましいことになりそうなのデス。そもそも、生魚を食べる風習自体がないのデス」


「へえ、そうなんだぶひい?こんなに刺身は美味いっていうのに、惜しいことをしているんだぶひい」


 田中はそういうと、刺身の上に長ネギをスライスしたものを挟むように乗せ、口に運んでいる。


「オリーブオイルと言うのは何、ですか?」


「オリーブという果実をしぼって、油を取り出すんデスヨ。ひのもとの国で言えば、菜種油と同じと思ってくれればいいのデス」


「さすがにオリーブオイルだけじゃなくて、塩とか使ってそうだけど、ヨーロッパの調味料って、あんまり聞いたことないよな」


「それもそうデスネ。ヨーロッパでは基本、塩とか煮込んだ肉汁とか、魚汁を利用して、料理の味付けにしているのデス。砂糖や胡椒などは100年ほど前に、新大陸で発見されて、そこで栽培されるようになったばかりデスカラネ」


 この戦国時代は、世界では大航海時代とかぶっている。ヨーロッパの各国が競うように新大陸へ目指して、航海をしているはずだ。そこで手に入れた、数々の食材、調味料が世界の各地に広がっていくんだったけかな。


 考えてみれば、この時代は、食文化が一気に花咲くと言っても過言じゃないんだろうな。いつも田中が買い食いしている団子なんて、最初、喰ったときはびっくりしたもんだ。


 団子なのに、団子自体は甘くないんだぜ?塩を練り込んであるらしく、ほんのりしょっぱいんだぜ?びっくりして当然だぜ。あんこやみたらしをかけて食べるから、それで甘味を補っている分、そんなに団子を喰うこと自体には抵抗はないんだけどな。


「でだ。話を戻して、刺身に合う調味料が何かないのか?」


「え?大根おろしを上に乗せて食べるものではないの、ですか?」


 そう言いつつ、ひでよしが刺身の上に大根おろしを乗せて、くるむように口に運んでいる。たしかに、長ネギのスライスも大根おろしも、刺身に合う。それは異論はないんだ。


 だがな?俺は刺身には醤油をつけて食べたい派なんだ。醤油イコール、日本人の魂なんだよ!


「鰹節からとった出汁にでもつけてみたらいいんじゃないぶひいか?確か、ヨーロッパでは煮込んだ肉汁を使うんぶひいよね?鰹節なら問題ないと思うんぶひいよね?」


 そう田中に言われ、試しに鰹節のお吸い物に刺身を浸し、口に運ぶことにした。新鮮な魚の身がぷりぷりっとしてて、本当に美味い!しかし、それだけに、醤油がないのが悔しい。


「確かに、美味いことは美味い。だが、鰹節の出汁はなんか違うんだ。がつんと来ないんだよ」


 そう俺が言うと、ひでよしはううん、ううんと唸りだす。


「一体、彦助(ひこすけ)殿は、どんな調味料を求めているの、ですか?塩、みりん、酢、味噌、酒と色々ありますが、それらで足りないと言われれば、なかなか無いと思うの、ですが」


「長ネギも、大根おろしも刺身に合うことは合うんだよ。でもな?それを超える調味料がこの時代のこの瞬間、どこかの場所で生まれているはずなんだよ!」


「うーん。彦助(ひこすけ)の言っていることがいまいちよくわからんぶひい。美味いなら黙って、長ネギでも挟んで喰っていろなんだぶひい」


 ああああ!もどかしい。この時代に来てから、一番もどかしい瞬間なのかもしれないぞ、これは。なぜ俺は、この時代に飛ばされたときに、醤油を手に持っていなかったんだ!


 もし、無人島でひとつ、好きな物を持ち込んで良いと言われたら、俺は確実に醤油を持ち込むね!釣った魚をいただくのに、醤油は欠かせないだろうが!


 大体、なぜ、俺は時代的に醤油が発明された後の時代に飛ばされなかったのか!神は俺に試練を与えたもうたのか!


「何をそんなにもんもんとしているのかわからないの、ですが、とりあえず、味噌あたりで試してみたらいいんじゃないでしょうか?」


 味噌かー。味噌しかないもんなあ。同じ大豆から作られたものだから、悪くはないんだろうけどさあ。


 そうこうしているうちに、ひでよしが胡瓜とみそを注文する。店員のおねーちゃんが、あいよーーー!と返事をして運ばれてくる。


 ひでよしは、胡瓜にたっぷり味噌をつけ、ばりぼりと食しはじめている。俺は、その味噌を少しもらい、刺身に薄く塗り、長ネギのスライスと一緒に口に運ぶ。


 もぐもぐと味わいながら、うん?と思う、俺である。


「ちょっとくどすぎるけど、意外といけるな、これ。これはこれで有りなのかもしれねえ」


 俺がそう言うと、田中もどれどれとばかりに、同じように、刺身に薄く味噌を塗り、長ネギのスライスを挟み、口に運んでいる。


「おお、これはいいんじゃないかぶひい?ちょっと、味噌が主張しすぎている感はあるけど、刺身の美味さを引き立てているんだぶひい」


 ひでよしと弥助(やすけ)もそれを聞くと、試したくなったのか、俺たちと同じようにする。


「ほ、本当ですね。でも、いちいち、味噌を塗らなければならないのが面倒と言えば面倒、ですけど」


「味噌をほんの少し、酒で溶かしてみたらいかがでショウカ?そうすれば、刺身に味噌を塗る手間も省けるのデス」

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