ー下剋上の章 9- 日々の訓練は嘘をつかない
俺たちは城門の横戸の錠前を、その辺にある石で殴ってぶっ壊す。
「よし、錠前は壊れたぜ。これで外に出られるはずだ!」
「よくやったぶひい。あとは清州の町に紛れ込めば、逃走成功なんだぶひい」
「急ぎま、しょう!追手はすぐそこまで迫って、います」
後ろを向くと、さすまたを持った10人ばかしの兵士たちが、うおおおと声を上げ、迫ってきていた。ちっ、この横戸の存在に早めに気付いておけばよかったぜ。
「皆さん、先に行ってくだサイ!ここは弥助が引き受けマス」
何、言ってやがる、弥助!そんなことしてたら、お前まで捕まっちまうだろうが!
「フッ。良いのデス。マイベストフレンドたちが無事なら、弥助がどうなろうと構わないのデス」
弥助が遠くを見るような目をしている。
「弥助は、奴隷としてこの国に連れてこられマシタガ、あなたたちのようなひとに出会えて幸せだったのデス」
弥助!弥助ーーー!
「あの、盛り上がってるとこ、申し訳ないの、ですが。そんなこと言ってる暇があったら、さっさと皆で逃げま、しょう?」
「ひでよしの言う通りなんだぶひい。良い雰囲気出すのは勝手だぶひいけど、そんなことしてないで、さっさと逃げるんだぶひい」
「オウ、それもそうデスネ。逃げまショウ」
おい、待て。俺がせっかく、感動しかけていたのに、この気持ち、どこにしまえばいいんだよ。
「彦助殿も急いでくだ、さい。いつもの漫才をしている暇なんて、ありま、せんよ!」
ひでよしに促され、俺もそれもそうだと思いなおし、全速力で逃げ出すことにする。
「くっそ、足の速い奴らだ。なんであんなに速く走れるんだ!」
「追え!追うんだ。逃したら、俺たちが坂井大膳さまに何をされるか、わかったもんじゃないぞ」
俺たちと追手の逃走劇は続く。いつも、20キログラムの米俵を担いでいるんだ。足腰も脚力も鍛え上げている。そんじょそこらの雑兵ごときじゃ追いつけるわけがって、うお、こいつら、まだ追ってきてんのかよ!
「あいつら、俺らに比べても足の速さも変わらないし、どこまでも追っかけてくるぞ!」
「普段、畑仕事をしている農民が徴兵されて、兵士になっています、からね。体力に関しては、おなじくらいと思ってもらっていいかも知れま、せん」
「戦において、メインで戦うのは農民たちですカラネ。体力が無ければ死ぬだけデスシ、舐めてかかってはいけないのデス」
この時代の農民は、すげーな。普段、訓練漬けの俺たちと体力だけは互角って言うのかよ。だがな。俺たちとお前たちでは圧倒的に違うことがある。それは
「まあ、体力があると言っても、それは、あいつらと同じ速度で走った場合のことなんだぶひい。僕たちは、奴らよりも速度を上げれるんだぶひい。ほら、奴らを見るといいんだぶひい」
俺たちはさらに逃げる速度を上げる。追手は、次第にひいひいと肩で息をし、次第に速度を下げていき、ついには、へたり込んでいる。
「うお、やつら、ついにへたり込みやがったぜ。これで逃げ切れる!」
「ほら、言ったとおりなんだぶひい。僕らは速度を上げた状態でも長く走れるんだぶひい。普段、喰っているものが違うんだぶひい」
「あれ?同じ体力なら、速度を上げた分、俺たちのほうが先にばてるんじゃねえの?」
「彦助殿。体力は同じですけど、私たちは訓練により、より効率よく、体力を消費する身体になっているの、です」
ああ、自動車で言えば、ガソリンタンクが同じ容量でも、燃費の違いが出てくるようなもんか。
燃費が倍ちがえば、体力であるガソリンタンクが同じでも、こっちは少々速度をあげたところで、奴らのほうが力尽きるのは先と言うわけか。なるほど、日々の訓練は嘘をつかないってやつだな。
俺は、ひとつ賢くなった感じがする。ステータス的に言えば、知力が1上がったってところか。できるなら、魔法を使うためにも、魔力も上げてほしいところだ。
この世界で魔力をあげるには、やはり、着物の上から、おっぱいのサイズを的確に当てるための訓練を積めばいいと思うんだよな、うんうん。
「彦助、何をぶつくさ言っているんだぶひい。いくら、へばったと言っても、休んで回復されれば、また追われるんだぶひい。今の内に距離を稼ぐんだぶひい」
おっと、そうだな。いかんいかん、いつもの癖がでちまったぜ。おっし、清州の町に急ごうぜ!
そうこうしながら、俺たちは清州の町に辿り着き、繁華街に身を隠す。木を隠すなら森の中。ひとを隠すなら人込みの中ってやつだぜ。
「ふぅ。なんとか、まけたよう、ですね。とりあえず、居酒屋に行って情報をまとめま、しょう。信長さまに報告しないといけま、せんからね」
「あれ?そう言えば、俺たちの任務ってそうだったよな。猿芸をしたり、西洋風相撲をしたりと変なことばっかりしてたから、失念してたぜ」
「おい、彦助。お前は任務を忘れて、どうするんだぶひい。僕たちは敵のことを知るために潜入したんだろうだぶひい」
「そうは言っても田中。ひでよしの猿芸で、俺は笑いをこらえるのに必死だったんだよ。お前は平気だったのかよ?」