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ー時転の章10- 弥助(やすけ)と田中は同期

 俺こと飯村彦助いいむらひこすけとひでよしは夕飯を喰い終わり、割り振られた宿舎に入る。宿舎の中にはいったあと、雑魚寝しながら、2人でしばらく談笑していたら、外が騒がしくなった。のこり2人が遅れて帰ってきたようだ。


 部屋の中に入ってきた、そいつらの片割れを俺は見るなり、すっとんきょうな声を上げてしまった。


「お前、田中太郎じゃねえか!もしかして、昼間やられた仕返しに夜襲をしかにきやがったか!」


「ぶひぃ。お前、何言ってるんだ?」


 田中太郎は不思議そうな顔をしているが、俺は騙されないぞ。田中太郎が俺の顔をじろじろと見てくる。すると、田中太郎は破顔し、俺の肩をばんばん叩きやがる。


「ぶひぃ。昼間の彦助ひこすけじゃねえか。相部屋になるとは思わなかったぶひぃ」


「いてえ、いてえ。そんなに強く叩くんじゃねえよ」


「僕を倒せるやつなんて、そうそういないぶひぃ。歓迎するだぶひぃ」


「うれしいのはわかったから、肩を叩くのはやめろ。痛いっつうの!」


 ようやく、田中太郎の熱い歓迎が終わり、俺は解放された。あれ、そういえば何か忘れているような


「田中サーン。そのひとたちが相部屋のひとデースカ」


 片言の日本語をしゃべるのは、肌が黒いやつだった。俺はそいつをじろじろと見る。こんな時代に黒人を見れるとは。


「おう、弥助(やすけ)。すまないすまない。紹介が遅れたぶひぃ。この部屋のもうひとりの住人で、弥助(やすけ)って言うぶひぃ」


「おう、あいむそーりー。まいねーむいず飯村彦助いいむらひこすけ彦助ひこすけって呼んでくれ」


 俺も片言の英語で返す。英語は受験でがんばったからな。少しくらいならわかるぜ。


「ハハッ。安心してネ。これでもジパングに来てから3年目なのネ。日本語、ばっちりネ」


「オウいえすいえす。はーわーゆー」


 知っている限りの言葉を俺は言う。どうだ、国際派だろ、俺ってやつは。


「あ、あの彦助ひこすけ殿。弥助(やすけ)さんは、日本語堪能だそう、ですよ」


「オウいえすいえす。俺もハッピーです」


「ぶひぃ。こいつ、頭でも打ったのか?」


「わ、わたしが投げ飛ばしすぎたのが原因かもしれま、せん」


 ひでよしは、おろおろとしている。俺の英語が堪能すぎるのがいけないのか。罪作りなやつだ、俺は。


「ハハッ。彦助ひこすけ殿、よろしくデース。あとそこの猿そっくりなひともよろしくデース」


「さ、猿ではありません。ひでよし、です!」


「おう、これはごめんなサーイ。ひでよし殿、よろしくデース」


 弥助(やすけ)は、俺とひでよしの手をとりブンブンと振ってくる。外人さんは、なんでこんなにオーバーアクションなんだろうな。不思議でたまらん。



 挨拶も終わり、俺たち4人はちゃぶ台の周りに座る。弥助(やすけ)が人数分の湯飲みにお茶をいれてくれる。そして、田中太郎はお茶うけに、どこからしか取り出した、せんべえを配っていく。


 俺はそのせんべえをありがたく頂戴しながら、話を続ける


「で、弥助(やすけ)は、もともと南蛮人の奴隷だったわけで、それを信長が買い取って家臣にしたわけか」


「信長さまは肌が黒いのは染料を塗っているからだと疑って、身体を洗わせたぶひぃ」


「めっちゃタワシでこすられたのデース。痛い痛いと言ってもなかなかやめてもらえなかったのデース」


「はははっ。そりゃ、買い取られたあとも災難だったな」


 黒人だから黒いのは当たり前だろ。なんで洗ってんだよ、信長は。


「なんだか不思議です、ね。肌がもともと黒い、なんて。世界は広い、です」


「しかし、彦助ひこすけさんは不思議デスネ。大概のひとは、わたしを見たら驚くのデス」


 おっと、そういや、見慣れてるわけでもないが、テレビを通して外人はよく見てたもんだ。つい慣れてしまっているせいもあり、驚きはすくないのは確かだ。


「昔、みたことがあってよ。黒人はさ」


「ほう、私以外にも日本に来てたのデスネ。名はわかりますか」


「ああ、たしか小浜だ、小浜。もう、国に帰っちまったと思う。うんうん」


 俺は適当な名前を出して、その場をごまかす。良いだろ、現代日本には実際、来てるんだからよ。


「それより、どこで彦助ひこすけは相撲の腕を磨いたんだぶひぃ。あれほどの使い手なら、村一番と恐れられるはずだぶひぃ」


「いや、まあ、そこはな。お、俺、ほとんど家から出してもらえなかったんだ。それに村の相撲大会には偽名をつかってたからさ」


 言い訳が少々苦しいか?まあ、怪しまれなければなんでもいいとも思っている。


「ふうん、そうなんだぶひぃ。僕を負かすくらいだから自慢してもいいんだぶひぃ」


「それでもひでよしには、完膚なきまで叩きのめされたけどな」


「そ、そんな、たまたまですよ。すぐに彦助ひこすけさんに勝てなくなりますよ」


 ひでよしは顔を赤くし謙遜する。


「お前ら、2人ともすごいぶひぃ。今度、暇なときにでも町の相撲大会に出るといいぶひぃ」


「そうデスネ。津島の町では、3か月に一度、大きな相撲大会をやっているのデス。そこで優勝すれば、信長さまより金一封となにかしらもらえるのデス」


 いいことを聞いた。この時代の力士たちの実力のほどはわからない。でもそこで優勝することは、俺の力士になるという夢に一歩近づく気がした。


「よっしゃ、次の大会で、俺は自分の実力を試してやるぜ。ひでよし、田中太郎、そして弥助(やすけ)。明日からみっちり訓練、頑張ろうぜ!」


 未来に希望を抱き、俺の戦国時代は始まったのだった。

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