第一話 巨人と猛禽
ちょっとネタが浮かんだので、即興で書いてみました。続きを書くかは未定です。
第一話 巨人と猛禽
「ちくしょう!!一体何なんだあのデウスマキナはっ!!」
空に向かい悪態を吐くのは名も無き盗賊の首領。彼は十人を超える手下を率いて近隣の街を襲い、金目の物や美しい女を攫っては、好き勝手に狼藉を働く、今の大陸では吐いて捨てるほどいる人種の一人に過ぎない。
精々違う所を挙げるとすれば、人類が生み出したデウスマキナと呼ばれる最強兵器を駆る機手である事ぐらいだ。
――――――デウスマキナ。千年前から、この世界を席巻し続ける巨人型兵器。武装した人間が千人集まっても、傷一つ付けられない不可侵の体現。この兵器を倒すことが出来るのは、同じくデウスマキナを駆る機手のみ。
この正しく一騎当千の超兵器が歴史の表舞台に姿を表してから、幾度となく戦乱が生まれては、終わりを告げていた。その戦乱にはただの一度の例外も無く、このデウスマキナが戦力として使われ、その度に多くの英雄譚とおびただしい死者が積み上げられていった。
如何な超兵器も、生まれて千年も経てば、模範され、多くの国が戦力として保有し、戦場で切磋琢磨の末、様々な種類が生まれては消えて行った。
この無様に喚き立てる盗賊の首領が保有するデウスマキナも、そんな一機なのだ。
―――アロンソⅤ。現在の東方大陸の小国を中心に国を跨いで使われる主力量産機。比較的安価で数を揃えられるのが売りで、性能はお世辞にもいいとは言えないのだが、それでも貧乏小国や兵の少なさに悩まされる都市国家群には人気の高い機種だ。
安いだけが売りの雑魚などと大国の機手からは馬鹿にされているが、短期間で製造出来る上に補修が容易で、世に出されてから既に五十年が経過しているにもかかわらず、未だに派生機が生まれている拡張性の高さが、兵器としての高評価に繋がっているのだろう。
本来ならば盗賊如きが保有していい戦力ではないのだが、長年の動乱によって戦場に打ち捨てられた機体や、甘くなった管理体制から横流しされた機体を手に入れたのだろう。安価なアロンソⅤ一機でも、まともな平民が十人一生涯稼ぐ金額と同等の金額と言えば、どれほど高価なのか想像が付きやすいだろう。
しかしながらデウスマキナ同士の戦いでは不利に違いなく、大国で使われている機体との一騎打ちは出来るだけ避けねばならないのも事実なのだ。
現にこの盗賊の機体は、相手の機体に一方的にやられてしまっている。今の所は粘っているようだが、この状態もいつまで続くか分からない。
既に首領以外の盗賊一味は、成す術も無く殺され、物言わぬ骸に変わり果てて地面に転がされている。生身でデウスマキナに相対した以上、骸を晒すのは当然と言っていい。そして、デウスマキナを操る首領の未来でもある。
「くそっ!!降りてきやがれこの卑怯もん!!機手なら剣と槍で戦うのが倣いだろうが!空から一方的に傷めつけやがって!お前にはキン○付いてんのか!!」
闇に染まりつつある夕暮れの空を悠々と飛び回る漆黒のデウスマキナに、あらん限りの罵声をぶつけるが、返って来たのは返事では無く、正体不明の攻撃だった。
まるで大地を農具で耕すかの様に無数の穴をあけ、手下共を引き裂いたこの攻撃にさらされ、盗賊のアロンソは満身創痍と呼べる状態だ。幾ら低価格を売りにした機種でも、それなりの防御力は有しているが、こうも一方的に攻撃にさらされては装甲を剥ぎ取られ、機能停止した後、手下同様死体になる他ない。
そんなすぐ先の未来を想像しガタガタと震える様は、つい先ほどまで今日の戦利品を皮算用し、ニヤいていたのとは別人に近い程、歪み切っていた。
(くそっ!どうやったらあの鳥野郎を殺せる!?こっちは浮くのがやっとだってのに、ああも高い場所を飛ばれたら、対抗手段なんてありゃしねえ!そもそもデウスマキナは地上戦に使うものだろうが!何なんだよあの機体は!?空戦特化型とでも言うのかよ!?どんな変態があんなキワモノを造りやがった!!)
デウスマキナは地上戦に特化した兵器で、移動用に空気を圧縮したホバー移動は可能でも、遥か上空を飛び続けるような性能は無い。そして、攻撃手段も人間の武器をそのまま大型化した剣や槍、メイスなどを装備するのが一般的だ。中には大型の弓や弩を装備した遠距離型もあるが、あまり一般的では無い。
この盗賊も全ての機種を知っている訳では無いのだが、相手の機種が使う兵器には見当すら付けられない。何より相手の武器の正体が分かっても、自身には何も対抗武器が付いていないのだ。この盗賊が降りてこいと叫んだのも、槍と楯しか持っていないからだ。
これでは攻撃する事すら出来ず、一方的に嬲られるしかない。せめて同じ大地に立っていればやりようなど幾らでもあると言うのに。
そんなありもしないifを思い描いた所で、この窮地には何の役にも立つはずが無く、何度目かの罵声を浴びせた所で、アロンソは右腕と左足を失って機能停止し、重傷を負った盗賊の首領が地面に投げ出される。
血塗れで息も絶え絶えな中年男の前に、一羽の黒い猛禽が轟音を響かせて降りたつと、中から一人の青年が降りてきた。
「よう、まだ息があるな。頼むからまだ死なないでくれよ」
金髪碧眼、歳の頃は二十前か。首領の半分も生きていない若輩だが、荒事に慣れた様子で、死に掛けの男に笑顔で話しかける。
「…この卑怯者が、てめえには機手の誇りってもんがねえのかよ!」
その言葉を聞いた途端青年は、ゲラゲラと笑いだし自身の膝を叩いて、大げさに振る舞う。それを見た首領は若造に馬鹿にされたと感じ怒り狂うが、傷が痛み呻く事しか出来なかった。
「くはは、まさか盗賊如きに説教受けるとは思わなかったわ、愉快愉快。で、その盗賊様は無抵抗な相手をマキナで脅して好き勝手してたんだろう?そういうのは卑怯じゃないのかい?」
酷く厭味ったらしく、相手の精神を逆なでするような不愉快さを乗せた侮蔑を投げつけるが、何故か下品には感じず、見る人間が違えば、演技の様な作り物めいた印象を受けたかもしれない。
ただし、この場には本人と死に掛けの盗賊しかおらず、誰も気づく者はいなかった。
「散々若い女を攫って楽しんだんだろう?世の中報いはあるって事さ。そうそう、誇りだっけ?勿論あるぜ、ただしおっさんみたいな屑には見せないだけさ。何より、依頼主から可能な限り痛めつけて、恐怖を刻みつけてから殺してくれって頼まれてるんだ。色々やりすぎて身に覚えがありすぎるから省くけど、お前らに玩具にされた娘の父親に頼まれたの」
いや~人に感謝されてお金も貰えるって、最高だよな。そう思うだろ?などと、首領に同意を求めるが、痛みと悔しさでまともに口が動かなくなっていた。この男もあと十分もすれば、失血死するだろう。
「ほんとこの仕事は止められないね。お金稼げて、人から感謝されて、何よりお前らみたいな屑がこの世から少しだけでも消えるんだ。このマサムネを造ってくれた爺様には感謝しないと」
マサムネ―――妙な名前だと薄れゆく意識の中で、それが盗賊の首領が思い浮かべた最後の言葉だった。
息絶えた盗賊の首領を確認した青年は、懐からナイフを取り出し、死体から首を切断する。殺した証拠を持ち帰らねば、依頼主から金が貰えない。他の盗賊共の死体はどうでも良いとばかりに放置されており、いずれは狼の餌になる。
さらには半壊したアロンソに頑丈そうな金属製のロープを括りつけて、そのロープをマサムネと呼んでいた漆黒の猛禽の下部に繋げる。半壊した安物でもデウスマキナに違いない。ここに放置するわけにはいかないので、一緒に持って行くのだろう。
一通り後始末を終えた青年が再び、マサムネに乗り込み何かの装置を操作する。
「こちらクロム、仕事は終わった。今から帰るから晩御飯の用意しといて」
「はいはい、いつもより少し時間掛かったみたいだけど、その声なら怪我も無さそうね。じゃあアンタの好きな豚の香草焼きを作ってるから、寄り道しないで帰って来なさいね」
機械から流れてきた女性の言葉に、やったぜと心底嬉しそうな声を挙げて喜びを表現するクロムと名乗る青年は、外見より幼く感じられ、今まで一方的な殺戮に手を染めていた人間には到底見えなかった。
金属で作られた漆黒の猛禽は高く舞い上がり、手足をもがれた巨人を足に括り付け、完全に日の落ちた夜の空に消えて行った。後に残ったのは、盗賊の死体だけだった。
構想含めて三時間で書き上げました。ちょっとした息抜きなので、設定とか名前は適当です。かなりツッコミどころの多い話になりますが、笑って読んでもらえればと思い載せてみました。
ではお読みいただいてありがとうございました。