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大会最終日:聖騎士(三)

 コール・オフ・アイジェンドは(いなずま)を身に纏いし電神の使徒――聖騎士(パラディン)となって真の姿を現した。



 鮮やかな光を見つめていたアリオンの口から小さな呟きが洩れる。


「電神パラスラ、か……。彼“も”か――」


 アリオンはコールを親友を見るような眼で見つめた。



 そしてもう一人。驚きに目を輝かせる皇帝の横にいる不気味な影――アーバイン。

 その得体の知れない生物は嬉しそうに「ほう」と呟き、妖しげに紅の双眼を煌かせ、舌なめずりした。



 シルヴァンは目の前にいる神に認められし男を凝視した。


「電神の聖騎士か……」


 そう呟くや、コールが僅かに動くのを見、あわてて横に跳ぶ。その判断は正しかった。

 間一髪でシルヴァンはコールのクレイモアを避けることができた。

 さっきまでコールのスピードよりも遥かに速い。今かわせたのは運が良かったからだ。


「何故、動きが早くなったのか不思議かい?」


 笑いながら問いかけた。微笑みは残酷なまでに慈愛に満ちていた。


「人間ってのは、脳で考えたことを体の各部分に伝えるまでに若干の時間差(タイムラグ)がある。それを電気の特性を利用して、伝達速度を速くすれば人はもっと速く動けるし、もっと早く物事を考えることができる」


 コールは再び走った。

 今度はシルヴァンに避ける時間はなかった。体を横に流しながら、右手に握ったセイバーで払おうとしたが、これは間違いだった。

 なんと、コールが纏う電気はクレイモアを伝い、それに触れたセイバーを伝い、シルヴァンの体に伝導したのだ。

 瞬間的に身を引いたのが幸いしたのか、痛みはあったが大きいものではない。しかしもっと甚大な被害を彼は受けていた。右腕が動かないのだ。しばし痙攣したかと思えば、シルヴァンの意思に反して急に硬くなったりする。


「ほう、右腕だけですんだか、さすがだな。普通はそこで全身麻痺で倒れてるところなのに」


 シルヴァンはとりあえず逃げた。が、コールはそれを追わない。かなりの間隔を確保したところで右手を無理矢理開き、左手に持ち変える。

 コールはクレイモアをシルヴァンに向けた。


「ゾンド・イール・ヤァユ・ナルカ  ズ・ベイシンス・ワンサーフル  バイハーギア・ルッドマンテ・ジェンク!」


 〈電矢ライトニング・アロー〉の呪文。クレイモアから稲妻が発せられた。それは真っ直ぐにシルヴァンを襲う。

 シルヴァンは左に避けた。それも紙一重の差でかわしたのだが、よく見ると衣装の一部が焼け焦げている。何十万もの電圧が、今彼の横を駆けたのだ。

 いなずまの魔法はいかずちの魔法より威力は小さいが、技の数で勝り使い勝手がいい。加えて電系統は肉体よりも神経にダメージを与えることで知られる。

 夏は湿気が多いので電気発生の条件は良くはない。それでも電気が発せられた事により熱が生じて空気は乾燥し、徐々に電によい環境をつくり出してゆく。

 休む間も無く、コールは同じ呪文を唱える。

 シルヴァンは動かなかった。最前思いついた、あることを試したかったのだ。

 青く黄色い稲妻が直進する。

 シルヴァンはセイバーを頭上高く放り投げた。すると、電気の矢は突如として方向を変え、セイバーに吸い込まれるようにしてぶつかる。


「よしっ!」


 シルヴァンは剣を避雷針にしたのだった。

 セイバーは空中で明るく輝き、地に落ちて砂と接し、無数の砂はアースとなって電気を分散する。シルヴァンはそっと剣を触った。電熱によって若干熱くなっているが、見事に剣に溜まった電気が拡散されたのだ。

 シルヴァンはホッとした。一か八かの賭けだったが、うまくいったのだ。とりあえず、急場凌ぎの対処法は見つかった、あとはどうコールを切り崩せばいいか。

 コールはコールで、自分の放った初級魔法が防がれたことなど意に介した様子もなく、ただ前方の敵を眺めていたが、繰り返し同じ呪文を詠唱する。しかしシルヴァンは同じ方法でこれを防ぐ。

 次第に安心してきたシルヴァンだったが、どうやって相手と組み合えばいいのか。なにせ剣と剣が触れ合ってしまえば、コールの電はシルヴァンの体にまで伝導するのだ。これでは倒すどころか組み合うことさえ不可能だ。


 コールは突然詠唱している呪文を変えた。


「ゾンド・ドルラ・イン・ナン・クルーア  アンニーイ・フェイ・グバラッダ・キオマーヴ!」


 見た目は最前と同じ電撃である。それは同じように宙に浮くセイバーに直撃した。

 しかし!

 なんと、直撃したはずの電気の流れが、セイバーを経由してシルヴァンに向かっていくではないか。

 その一連の流れを見極めるのが僅かに遅れ、シルヴァンに稲妻が直撃する。電はシルヴァンの体を金色に染め、彼の体の中身を浮かび上がらせる。


「グァアアア!!」


 それは〈電波紋ライトニング・ウェーブ〉の呪文だった。

 あまりの衝撃に思わず膝をつく。電気はシルヴァンの脳に悪い作用を与える。今シルヴァンはいつもより物事をしっかりと考えられない。辛うじて肉体がまだ彼の意志に従え得るのは、コールとシルヴァンに距離があったことと、〈電波紋〉の呪文は周りの物質に波紋状に分散されるので必然的に威力が弱くなってしまうからだ。だが、十分な効果は効果はあげることができたようだ。


「悪いが、これで終わりだ!」


 コールが宣言し、クレイモアをシルヴァンに向けて〈電矢〉を放つ。


「ゾンド・イール・ヤァユ・ナルカ……」


 シルヴァンは為す術なく、ただ敵の攻撃を待ち受けていた。コールにはどこにも隙が見当たらない。加えて魔法を用い、近くにいても離れていても彼の電撃からは逃れられないのだ。

 コールは強い――シンといい勝負なのではないか、とボンヤリ考えていた。


「ズ・ベイシンス・ワンサーフル……」


 諦めというより、感嘆と賞賛の念が勝っていた。

 そんな男とまだ戦いたかった。だが戦えたとして一体何ができる? 思考回路はさっきより衰え、体もろくに動かないのに。


「バイハーギア・ルッドマンテ・ジェンク!」


 クレイモアの剣先に電気が収束し、溜め込む。今までよりも強力だ。くらえばひとたまりもないはずだ。


 ――……け


 シルヴァンの耳に、微かに、だがはっきりとあの声が聞こえた。


 ――……抜け


 こんな時だというのに、シルヴァンはその声を捉えようと耳に全神経を集中させた。


 クレイモアは光の大剣と化し、それ自体が光の矢に変わる。電気を帯びたことで大剣の温度は灼熱化しているはずだが、コールは気に留めた様子もない。その秘密は彼の両手にしてある特殊な皮手袋に由来するのか。


 ――……を抜け


 電は、切っ先で球状に爆発寸前に膨れ上がった。


 ――〈銀の牙(シルバー・ファング)〉を抜け!


 今度こそ、はっきりと何を言っているのか聞き取れた。


 その瞬間、光の球は爆発し、電撃は奔流の如き怒涛の勢いで発射される。


 ギュ――――ンッッ!!!!


 躊躇せず、シルヴァンは右腰から銀の刃を引き抜き、それを前に翳す。

 黄金こんじき(いなずま)と、白銀しろがねの刃がぶつかり合う。


 バチバチバチバチバチッ!!!


 驚くべきことが起きた。電気は銀の刀身に伝わるが、持ち主の体まで届かない。何故か。それは、刃が電気を吸収したから。稲妻の勢いが衰え、完全に消えた後もしばらくの間刀身では電気が纏わりついていたが、小さなバチッという音と共に完全になくなる。

 コロッセオは沈黙した。術者のコールも――被術者のシルヴァンも。特に、コールの驚きようと言ったらなかった。あんぐりと口を開け、目をまん丸に見開いていた。

 シルヴァンは呆然と、妖しげに光る銀の刃を見つめた。青く揺らめくオーラが刃から立ち昇り、銀を妖しく彩っていた。

 これが、あの稲妻を吸い取ったのか?


 ――そうだ


 シルヴァンの考えを読むように、声がした。


 ――その刃が、あの電撃を『無効化』したんだ


 シルヴァンは思った疑問を口にした。自分の予想が否定されると半ばわかりつつも。


「お前は、この刃自身か?」


 ――違う。それは単なる魔具マジック・アイテムだ。未知なる効果を多く秘めた、な


「……だが、これのおかげでコールと対等に戦えるわけだな」


 ――半分正解だが、半分外れだ。今の君じゃ、まだ足りない


「……どうすればいい?」


 コールが走ってきた。格段にその速度は上がっている。

 とりあえず応戦した。シルヴァンの予感が的中した。コールの電気はシルバー・ファングによって無効化されているので、刃で対応する限りコールの能力は恐れるに足らない。素手で触れてしまった時は別だが。

 コールの顔に、焦燥の表情が走る。彼もこのような状況は予期していなかったようだ。


 ――君にとって重要なのはタイミングだ


 声は淡々と告げた。


 ――単刀直入に言おう。“舞え”


 言葉の意味を理解しようと努めながら、コールの対応にも手際よく応える。シルヴァンは防御体勢に移っていた。これではコールも崩せにくかろう。


「どうすればいい?」


 シルヴァンは同じ質問をした。その言葉を聞いたコールは一瞬怪訝な表情をする。


 ――目を閉じろ。そして感じろ。今の君は眼から入る情報に惑わされすぎている


 言われた通りに目を閉じてみる。声の主は最後にさらっと、シルヴァンにとって重要なことを告げた。


 ――僕の指示に従えば、自ずと君の体は動き出すだろう。昔と同じようにな


「昔だと! 知っているのか!?」


 ――今は集中しろ。いつか話す機会もくるだろう。いいか、騙されたと思って“踊る”んだ


 踊る? 舞う? 一体何をさせようと言うんだ。

 昔――僕は何をしていた? 踊り子? 歌い手? 芸人の一座?

 考えられないな。

 この状況下において、シルヴァンは自分が客を前に踊っている自分の姿を想像し、はにかんだ。

 ――ものは試しだ。踊ってみよう。あの声のおかげでこの前は助かったようなものだしな。


「……やってみるか」


 シルヴァンは深呼吸し、舞い始めた。それは一見、戦闘を無視した演舞であった。が、歴戦の戦士や、コールくらいの実力者からしてみれば目の前の敵が繰り出す踊りはあまりにも不気味に感じさせるのだ。

 考えてもみろ。いきなり踊りだすんだぞ。馬鹿じゃないのか?

 コールは困惑していた。


 彼の感慨をよそに、シルヴァンは踊り続ける。役に立たない右腕と、銀を握った左手を華麗に振り回し、軽やかに足を振り上げ、舞踏会の麗人のように回り続ける。彼も驚いていた。自分が踊れる事に対して。別人が自分の体を使って踊っているとし考えられない感覚だった。

 その姿に誰もが――コールですら見とれた。が、さすがは聖騎士コール。一瞬で我に返り、攻撃のタイミングを窺い一気に間合いを詰める。


 ――来るぞ


 シルヴァンは目を瞑ったまま、踊り続けた。シルヴァンは、彼の胸にこみ上げてものに気が付いた。妙な安心感。目を閉じているのに、相手の攻撃が手に取るようにわかる。

 そして何の考えもなく出す一撃が、しっかりとクレイモアに呼応するのが感じられる。


 ――いいぞ、その調子だ。もっとステップを踏め。大事なのはタイミングだ


 例の声が、内面世界に浸りこむシルヴァンの耳から遠くなる。もはや、シルヴァンはただ情熱的に踊っていた。汗が滴り落ち、地面でジュッと音を立てる。一心不乱に舞い続ける姿は、まさしく踊り子そのものだ。


 顔には出さないが、コールは内心結構焦っていた。

 聖騎士に選別されて約五年、自分はさらに鍛錬に励んだつもりだった。体に電流を纏う、上級魔法の〈電衣ライトニング・ローブ〉を使えるようにもなったし、中級魔法は楽に幾度も唱えられるようになった。

 だけれども、神より授かりしその能力を持ってしても彼、否、あの刃の前では意味を成さなくなってしまう。あれは電気や雷を吸収、無効化する魔具なのか?

 そしてなによりあの“演舞”。なんの訳あって踊るのか。

 こういう場合、踊る理由は三つある。

 一つは『祈祷師バード』。祈祷によって神より力を授かるのだ。祈祷にも種類があって、歌う、踊る、祈る、拝む、讃える等様々だ。だが、剣を持って戦うバードなど聞いたためしがない。それに、バードであれば信仰呪文フェイス・スペルやの一つや二つは放ってくるだろう。

 二つ目。油断を誘う。相手の隙を作ろうとしても踊っている方が隙だらけなのは常識だ。それをわかりつつも踊るのは、その奥に作戦があるからか。実際、コールは一瞬油断した。

 三つ目。この考えを思い浮かべたコールは笑った。もっとも可能性が低い答えだからだ。


 ――それがシルヴァンの本当の戦闘スタイル――。


 しかし、パラスラの聖騎士はすぐに否定した。いや、有り得るかもしれない、と。彼が物思いに耽っている最中も躍りは続いていた。



 ――どうだ


「……不思議だ。何かに満たされていく感じだ」


 ――上出来だ。もうそろそろ目を開いてもいいぞ。だが、それでも舞い続けろ


「わかった」


 ゆっくりと、瞼を上げると、回転するコロッセオが映った。いや、彼が回転しているからだ。


 ――コールが見えるな?


 視界の中にクレイモアを構えるコールの姿が見えた。


「ああ」


 ――では、攻撃開始だ


 シルヴァンは屈み、鮮やかに飛んだ。


 ――今度はしっかり相手の動きを見ろ。極僅かな隙を作れ。そこを突くんだ



 再度、碧眼の両雄は激突した。

 剣で切り結ぶ最中も、演舞は終わらない。逆に尚一層激しくなっていく。

 コールは後手に回っていた。〈電衣〉によって各段に動きは早くなっているハズだ。それなのに何故後れを取る!?

 疑問は焦りへと変わっていくが、面には出さずずっと耐え忍ぶ。


 シルヴァンも新たな戦闘方法を身に付けたはいいが、決定打に欠けていた。


「……考えがある」


 ――やってみろ


 シルヴァンの考え付いた打開策とは。

 まずとりあえず滅多打ちに刃を突き出した。目的はコールのクレイモアをどけること。

 シルヴァンの痛烈な打撃にクレイモアは弾かれるが、コールは放さずに持ちこたえる。

 そこが狙い目だった。

 シルヴァンは右足で力のないクレイモアを蹴った。大剣と足が触れ合う瞬間、当然の如く電流はシルヴァンの右足の機能を麻痺させる。

 シルヴァンは痛みに顔を歪めながらも、体を屈めて健全な左足を軸にくるりと回転し、バランスを崩したコールの膝を右足で蹴り飛ばす。その時も体に電流が走り、シルヴァンの腰から下は完全に機能停止したのだが、コールを転ばす事に成功した。

 コールが地面に仰向けになるとほぼ同時に、シルヴァンは腰が砕けながらもシルバー・ファングをコールの喉仏に押し当てる。

 コールは一瞬目を見開いたが、何か悟ったように息をつき、言った。


「負けだ」


 呆気に取られていた審判は我に返り、慌てて旗を上げた。


「……勝者、シルヴァン」


 一瞬の間をおき、大歓声が轟いた。


「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!!!」


「やってくれたぜッッッ!!」


「スゲェぜ、二人ともッッ!!!!」


「お前ら二人とも優勝だ!!!」


 その一方で――


「シクシクシク」


「コールさまぁぁ〜」


「ああぁ、コールさまぁ――」


「わたし達のコールさまがぁぁぁぁぁ」


 観客席のコール応援団は垂頭喪気すいとうそうきの様であった。が、


「……ねぇ、あのシルヴァンって人もかっこよくない?」


「……うん、よく見るとイケメンよねぇ」


「なに言ってんのよ、コールさまが一番に決まってるじゃない」


「確かにコールさまほどではないけど、コールさまよりもお強いしねぇ」


「ああ、駄目、わたしシルヴァンさんの虜だわ」


「あたしもよ」


「あたしも」


「いえ、絶対コールさまよ!」


「そうよそうよ、コールさまが一番よ!」


 とその一角が、新たな戦場となったのは言うまでもない。



 シルヴァンは刃をどけ、鞘に収めた。

 コールは埃を払いながら立ち上がり、負けたのに相も変わらずな微笑を浮かべた。体を麻痺させているシルヴァンを見つめて、シルヴァンの肩に触れ、電流を送り込む。


「これで大丈夫だ。君の体は正常な状態に戻ったはずだ。電気の操り方次第では、相手を麻痺させたり、逆に適切な電流を流し込んで元通りにすることは造作もない」


 言葉通り、シルヴァンの肉体を侵していた麻痺はまるで嘘のように取り除かれた。

 シルヴァンは立ち上がると、コールと握手した。


「恐れ入ったよ。まさかこの聖騎士コールが敗北するとは。まだ修行不足だな」


「そんなことはないよ。君はとても強かったぜ」


「そう言ってもらえると嬉しいな。

 だがしっかし、まさか麻痺を覚悟であんな攻撃をしてくるとは、思ってもみなかった。そこが僕の敗因かな。いや、それだけじゃない。急にあんな踊り(ダンス)を見せられたら油断してしまったよ」


 だけどそっちの時の方が強かった、とはあえて言わなかった。

 フフフ、とコールは笑った。この男、どんな状況でも全てを前向きに受け止められるのか。


「……戦闘中、何か言ってなかったか?」


「ん? ああ、気にしないでくれ。独り言さ」


 わかっているぞ、何か秘密があるんだなと告げるような眼をコールはしたが、何も言わなかった。


「――次はケレンドスだな。がんばってくれよ。このコールに勝ったんだ、負けは許さないぜ」


「ああ、まかせておけ。必ず“ケリ”はつけさせる」


「ケリ?」


「いや、気にしないでくれ。こっちの話だ」


「そうか――。

 ……これを受け取ってくれ」


 コールは徐に左手の皮手袋を外してシルヴァンに渡した。


「友情の証だ。その手袋は特別製で、いろんな効果がある。熱、寒さ、電気、ありとあらゆるものを防ぐ役割を果たす。もし君が今後僕のような輩を相手にした時に、少しでも役に立てると思う」


「ありがとう。この恩は忘れないよ」


「“我々”にとって友情は借りではない。ある意味でそれは無償の愛と同じようなものだ。そうだろう?」


「まさしく」


「健闘を祈る。さらばだ」


 コールとシルヴァンは対面し、再び騎士の礼をした。

 コロッセオの誰もが――コールやシルヴァンを気に入らないチェイスタルやゾーラの騎士団員を除いて――惜しみなく拍手を送った。


「コール・コール!!」


「コール・シルヴァン!!」


万歳コール!! 万歳コール!!」


「コール!! コール!!」


「シルヴァン!! シルヴァン!!」


 両者は去りながら、手を振って歓声に応えた。するとさらに大きな拍手が寄せられた。


**


「よくやった」


 アリオンはシルヴァンの善戦を労った。


「よく聖騎士(パラディン)に勝ったな。これはすごいことだぞ」


「ありがとうございます」


「本当によくやった。褒めても褒めたりないくらいだが、次は決勝が控えている。約三十分後だ。少しでも体を休めて、万全の調子で決勝に臨め」


「はい」


**


「すいません、ご期待に添えませんでした」


 コールは頭を下げた。


「気にするな、お前はよくやった」


 渋い声の正体はバラン卿である。彼はコールの肩を叩いた。


「……お前はパラスラの聖騎士だったのだな。わたしも知らなかったな」


「すいません、我が神より必要以上に聖騎士のことを口に出すのは禁じられておりますゆえ」


「そうなのか。だが、いいものを見れた、生で聖騎士の姿も拝めたしな。さっきの敗北は今後のお前にとってより良いものになるだろう。今後も精進に励めよ」


「はっ!」


 再び頭を下げ、通路に消えた。

 その後姿を見つめていたバランの脳に、ある声が語りかけてきた。


(クックック。見事な戦いぶりでしたね、バラン卿)


(貴様か)


(クククク、あんたの手下に聖騎士がいたのは予想外だったが、いい具合にあの小僧が倒してくれましたよ。これはあんたも、あのシルヴァンとかいう小僧とアリオンに感謝しなくてはな。自分の部下を死なさなくて助かりましたね)


(何の用だ)


(何も。ただあの小僧もあんたの部下のおかげで疲労困憊してるってワケですよ。これでケレンドスの優勝は決まったようなものだ)


(ゲスだな)


(そう言っていられるのも今のうちだ。わかっているだろうな、優勝者が皇帝に魔法戦闘具のことを依頼した直後だ。誰を殺すのか決めたか? 言っておくが、ジェイスとクィンラン以外だぞ。ジェイスはいつも魔法戦闘具を装備してやがるし、クィンランにはまだ利用価値がある)


(……)


(フン、今決めろ。さもないと貴様の家族のいずれは近いうちにその首を晒す事になるだろう)


 バランは苦悩に顔を歪めた。


(……だ)


(よし、決まりだ。後は手筈通り頼みますよ、バラン卿。そうすればちゃんとあんたの家族は解放する)


(約束は守れ)


(エイジャ、通信を切れ)


(了解)


 そして〈精神感応テレパシー〉の回線は途切れた。

 ただ一人、〈第一の将〉バランの姿だけが残された。

久々の更新です(汗)いやぁ、どうも最近中々手が進まずに困ってます。第二部ももう少しで終わりなので、それまでどうかお付き合いください。それではっ

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