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大会二日目:一番手

 初日に引き続き、二日目も快晴だった。というより、ガイズにはあまり雨が降らないのでこのような天候が普通だった。

 大会初日は何の問題もなく予定通り開催され、大盛況を収めた。だが今日からの三日間が本番だ。

 朝、日が昇ると同時にコロッセオ前の広場にトーナメント表が公開された。同時にガイズにある七大騎士団の兵舎にも表が配布された。

 二日目は十五試合行われ、三十人全員が戦うこととなる。翌三日目は第二回戦、第三回戦の計十一試合が、最終日は準決勝と決勝の計三試合が行われる。そして日を追うごとに見物客の人数は減り、最終日は四万人の収容人数に対して僅か三千人しかいなくなる。なぜなら最終日のチケットは一枚だけで、一家庭の平均年収の三分の一にもなるからだ。

 よって残りの席は帝国騎士が占めることになる。しかし、その席に座れる騎士も騎士団内で家柄、金銭の取引、実力の大小と様々な選抜がある。運悪く漏れてしまった者は仕方がないのでガイズ各地に警備に回らなくてはならない。彼らが試合の結果を知れるのは勤務終了後か、口伝えに聞くかなり曲げられた情報だけだ。


 今、ウェイブラス騎士団兵舎でも準備を整えるべく出場する三選手は食堂で対戦表を見ながら食事を摂っていた。


「どうかな、三人とも調子は」


 聞いたのは過去の大会優勝者、マルスヘルム准将だった。


「まぁまぁですね」


 似たような回答を三者三様の言い方で答える。

 マルスヘルムは机の上にある対戦表を手に取り、しかめ面で顎鬚(あごひげ)を撫でた。


「ふむ、表面上、皆相手は互角といったところか。うまくいけばシルヴァン以外は問題ないじゃろうな」


「そうですか」


「しかしこのトーナメント表を作成したのは一体どこのどいつだ。緒戦から一番手同士を戦わせるなど馬鹿なことをするのは。剣闘士と観客の身になってみろ、二日目のチケットを購入した者は大いに喜んどるに違いないわ」


「それを作ったのはクィンランだ、マルス」


 そこへ現れたのはウェイブラス騎士団最高司令官、アリオン・ハンサーネス将軍だった。

 皆席を立ち、敬礼するがアリオンは手を振って着席を促した。


「クィンランですか、あの若造め」


「そう言うな、別に作為的に決めたわけじゃないんだし」


「いや、ありえますぞ。あの男なら人為的にやるに違いないとわしの第六感が告げてますな」


 アリオンは苦笑した。


「シルヴァン、相手はお前と同じ一番手だが、そんなに気にすることはない。マルスと戦ったのなら、相手がどんな奴だろうと怖くはないぞ」


「はい」


「落ち着きさえすればお前にも十分勝機がある」


「コテンパンにしてやれ」とマルスヘルムは言い退けた。


**


 ナナとライカはコロッセオ前で待ち合わせをしていた。合流した二人は早速席を見つけるべく足早にコロッセオ内に入った。

 観客席はロイヤル・ボックス区画を含めると九つに区切られている。つまり、七大騎士用のと客用の応援席が設けられているのだ。最終日、入場を許された客は全員真南の一角に収容される。

 ライカ達はウェイブラス騎士団の応援席に真っ先に向かった。席を探している途中、ライカはカルダンを見つけた。


「あ、カルダンさん。それにクロージェンドさんも」


「おはよう、ライカ君」


 と、爽やかに挨拶したのは国際衣服組合(ギルド)会長のクロージェンドだった。


「クロージェンドさんも来てたんですね。知りませんでした」


「わたしはもともとガイズに居を構えているから、毎回この大会は見物するんだよ。勿論二日目から最終日までのチケットは全て抑えた」


「金の無駄遣いだろう」


 カルダンだ。


「構わんよ、投票券さえ当たれば十分にお釣りがくるだけの金額を賭けたからな」


「誰に賭けたんですか」


「パラスラ騎士団のコール・オフ・アイジェンドに一万三千だ」


 ナナとライカは絶句した。


「破産してしまえばいいのにな」


「ホッホッホ、わしの予想が外れることはない。なにせ今まで外れたことがないからな」


「三回しか投票券を買わず、しかも全て大会前の人気が一番だったやつのじゃないか」


「いいんだよ、勝ちさえすれば。外れてもわしは破産しないがね。

 だがお前だってあの少年――シルヴァンとかいう――に相当な金額を賭けただろ」


「たかだか八千だ。これ以上賭けると妻に叱られるんでな」


「尻に敷かれているな。情けないぞ、友よ」


 次元の違う話に付いていけないので、ライカ達は早々にその場を立ち去った。


「ねえ、ナナさん、さっき言ってたコールって人そんなに人気あるの?」


「え、もしかして、ライカちゃんコールさんのこと知らないの?」


「う、うん、わたしシルヴァンくらいしか出場する人しらないし」


「そうなんだぁ。コールさんはね、ガイズの近くにとっても大きな領地を持つ大貴族アイジェンド侯爵家の長男さんなんだよ。だからアイジェンド伯爵とか言われる位高貴な方なの。しかもまだ二十歳だし、おまけに超美形、男からも大きな支持を得てるって話なの」


「そんな若いのにもう伯爵様なんだ」


「ほら、あそこ見て」


 ナナの指の先にあるのは、観客席の最前列にかたまる若い女性達の集団だった。


「あれ全部コールさんのファンの子達よ。応援幕までつくってるし。それだけ熱心なんだよ」


 その光景に、流石にライカも引いた。


「ねぇ、シルヴァンとどっちがカッコイイ?」


「どっちだろうなぁ、あたし遠目からしか見たことないけど、いい勝負ってところかなぁ。だってコールさんにお目にかかれるなんてめったにないんだも」


「でもさ、でもさ、かっこいいからって強いワケじゃないよね?」


「とっても強いよ」


 あっけなく宣告され、ライカはウッと詰まった。


「だって大会に出るくらいだし、騎士団の一番手だも。弱いわけないじゃん。カッコイイし、強いから男からも人気あるんだよ」


 と付け加えられ、ライカはしょんぼりと黙ってしまった。

 そんなライカを励まそうと、ナナは小悪魔的な笑みを浮かべて


「大丈夫だよ、ライカちゃんのだ〜い好きなシルヴァンさんだってカッコイイんだしさぁ」


 ライカの耳元で囁いた。


「べ、別に好きじゃないわよっ!」


 ナナは残念、というふうに肩をすくめた。

 そして何かを思い出したように「あ、そうだ」と手を叩いた。


「昨日さ、ショーが終わった後店に戻ったらさ、夜またシルヴァンさん来てくれたんだぁ。もしかして、あたしに会いに来てくれたのかなぁ」


 うっとりとしたナナの顔をライカは横目で睨んでいた。


「あ、そろそろ第一試合が始まりそうだよ」


 ナナがそう言うと、ライカはコロッセオの中心に顔を向けた。


**


 剣闘士は東と西に分かれ、それぞれの控え室にいた。

 控え室はピンと張り詰め、喋る者は誰もおらず、咳さえすれば緊張感が切れてしまう雰囲気だった。精神統一している者、入念に得物の手入れをしている者、動いて体を温めている者、準備運動をしている者など多種多様な格好で待機している。

 今日戦う相手は自分とは逆の方角の控え室にいる。決闘場に行った時、初めて対峙するのだ。

 そして、今この場にいる相手がもしかしたら明日自分と戦うかもしれないと思うと、自然と意識してしまう。

 それはシルヴァンも例外ではなかった。昼過ぎに彼の試合は始まるのだが、彼は早めに到着していた。

 シルヴァンはチラとある剣闘士を見た。その視線の先にいるのは、シンという名の女性剣闘士だった。

 アリオンに似て白が混じった金髪は耳と額を隠して後ろで纏められてポニーテールになり、ほっそりとした体付きからは全くその攻撃力を予測するのは不可能だ。秀麗な顔はとても女傭兵だとは思えない。

 腰に二本の剣を差していた。二刀流なのだろうか。

 シルヴァンとシンが今日勝てば、明日の第二回戦で彼らは戦うことになる。

 シンは緊張しているようには見えず、むしろそのリラックスしている姿勢からして眠っているようにも見える。彼女は壁を背に座り、目を(つぶ)っていた。

 試合に出た者は明日にならない限りこの後控え室に戻ってくることはない。敗者も勝者も試合が終われば控え室に経由することなく自分の居場所へ帰還する。

 扉が開けられ、


「第五試合が終わりました」


 と告げられると、シンは立ち上がり、優雅な歩きで控え室から出て行った。

 自分の出番が来るまでシルヴァンはゆっくりと調子を整えておく予定だった。

 だが、あまりにも早くその予定は崩れた。


「第六試合が終わりました」


 と告げられたのは、シンが部屋を出て行き、時間からして試合が始まってすぐだったのだ。西の控え室にいた剣闘士は驚天動地に陥った。どっちが勝ったのか? 皆恐らく同じ答えを出していただろう。

 シルヴァンはそれを確かめるべく急いで決闘場に向かった。



 決闘場に向かう通路で、シルヴァンは前から来る人影を認めた。

 息を乱さず、汗一つかかない玲瓏な女性の姿は、シルヴァンに一瞥を投げ、僅かに微笑んで通り過ぎた。

 その後姿を後に、決闘場に向かう。



 決闘場に繋がる入口からは、決闘場に散乱された紙――負けた投票券が散らばっているのが見えた。試合の勝敗に不満――格上が格下相手に負けた場合や、贔屓の剣闘士が負けた場合――があれば、観客は容赦なく罵声を飛ばし、購入した投票券を投げ捨てる。

 敗者がその光景を見るのは辛いだろう。

 券の散らばり具合から、先の試合は人気があった方が勝利したことが解る。

 今そのゴミを一生懸命回収している係員の姿が見られた。

 彼らが全部回収すると、アナウンスが流れた。


「続きまして、第七試合を始めます。選手入場です」


 入口にいた係員が、行進を促す。

 シルヴァンは砂地に足を踏み入れた。

 同時に、対面(といめん)の入口から彼の相手も姿を見せる。


「西、ウェイブラス騎士団一番手、シルヴァン。東、ゾーラ騎士団一番手、リー・ウェン」


 決闘場には剣闘士二人の他に、退役した帝国軍騎士の中でも特に位の高かった者二人が交代交代で審判を務め、壁の側に救護班が控えている。また、万が一の場合に備え魔術師も待機していた。

 決闘場の中央で、黄と緑の剣闘士は対峙した。

 鎖帷子(くさりかたびら)を来た審判二人がそれに近付く。


「使用する得物は種類も数も自由、相手の生死は問わないが、一方的な惨殺行為は禁止とする。それを破った場合は即失格とする。また、我々審判が勝敗を判断した場合はそれに従うこと。以上!」


 そう淡々と述べ、試合前の最終確認をすべく審判二人はその場から離れて話し合った。


「よぅ、シルヴァンだったよな、奇遇だな」


 口を開いたのは昨日マルスヘルムや他の騎士団を馬鹿にするような発言をしていたリーという東方系の男だった。年齢はシルヴァンより少し上くらいだろう。


「運命ってのは皮肉だな。悪いが、今日この場で大会から消えてもらうぜ」


 シルヴァンは一向に口を開かず、リーに関心がないかのようにコロッセオの観客に目を配っていた。その態度にイラっとしたのか、リーは口を歪めた。


「どうせ今日がお前がこの場に立てる最後の機会だから教えてやる。トーナメントの組み合わせはランダムでなったんじゃねえ。クィンラン将軍がわざとこういう形にしたんだぜ。お前らみたいな弱小騎士団の一番手を初っ端でぶっ倒せば、ウチの騎士団の人気はあがって逆におたくらの株は下がるって寸法だ」


「最初から知ってる」


 初めてシルヴァンは口を開いた。


「ゾーラ騎士団ってのは卑怯者の集団なんだってな」


「なにィ!」


 リーは醜い渋面を作った。

 審判が確認を終え、


「これより試合を始める。互いに間隔を取りなさい」


 シルヴァンは背を向け、その言葉にすぐ従った。

 その背に


(セイバー)ってのは時代遅れの武器だって事を証明してやるぜ」


 と呪詛の言葉をリーは吐き付けた。

 約十五メーラの幅を取ると


「構えッ!」


 シルヴァンはセイバーを縦に構え、騎士の礼をした。

 リーの方は礼などせず、(スピア)を前にしただけだった。

 試合開始の合図であるベルの音がコロッセオに轟いた。


「始めィッ!!」



 両者はまだ動かない。相手の間合いを計っているのだ。

 観客はといえば、実はこの試合が本日のメインイベントだったので大盛り上がりだった。歓声を上げ、拳を振り上げ、鼓舞する。

 しかし、そんな応援も剣闘士二人には届かない。彼らは既に己の、互いの世界に入り込んでいた。

 両者は徐々に時計回りに動き、間合いを詰め始めた。

 立ち位置が百八十度入れ替わった時、リーが打って出た。

 射程範囲の長いスピアを突き、すかさず退く。それを難無くシルヴァンはかわした。

 スピアは大人数相手でも一対一でも抜群の効果を発揮するので、用いる剣闘士は多い。だがそれだけ競争率が激しい中、大会に出場したのだから相当な使い手なのだろう。

 リーは何度も突いては退き、突いては退くの攻撃を繰り返した。シルヴァンはそれをかわすだけで攻撃に転じようとはせず、客観的に見ればリーの優勢だった。

 スピアが横に薙がれると、素早く掻い潜り、敵に詰め寄る――初めてシルヴァンが攻撃に移った。

 しかしその行動を予期していたのか、切り払うスピアの勢いそのままに体に引きつけ、柄の中央を中心に回して見事な円を形成し、防御壁を形成する。あまりの速さに一本の槍が円形の楯に変化してしまったとの錯覚を覚える。これではどんな攻撃も跳ね返してしまうだろう。

 駄目もとでシルヴァンはセイバーを出したが、案の定弾き返される。


「ケケケ、バーカ! んなモン通用しねーよ!」


 体ごと回転させてさらに勢いをつけ、再び薙ぐ。くらえばひとたまりもない攻撃力だ。

 体にぶつかってしまう直前、彼は跳躍してそれを回避する。

 その瞬間を見逃さずリーは空中で身動きが取れない敵目掛けて思いっ切り突いた。

 客席からは「ああ!」とか「キャア!」という悲鳴が上がる。

 ニヤリと笑みを浮かべたのも束の間、リーは自分の必殺技が失敗したのを悟る。

 カキィンと甲高い音がした。

 なんとシルヴァンはスピアの尖った()を、セイバーの刀身で受け止めたのだ。一朝一夕で身に付けることのできる技ではない。

 軽やかに後ろ一回転を決め、着地する。その姿は息一つ乱さず、華麗に髪を掻き揚げる仕草に歓声が上がる。

 リーは内心少々焦っていた。あれだけの速度、破壊力を持つ技を回避できる者はそうそういない。まして空中では“避ける”ことは不可能なのだから。

 高慢なプライドが真実を認めない。

 再び攻撃に転じる。

 ありとあらゆる方向から技を繰り出し体のバランスを崩そうとするが、シルヴァンはそれ以上の速度で体を操り紙一重の差で衝突を免れる。

 極めつけは、リーが渾身の力を振り絞って放ったスピアの上に片足で着地したのだ。

 この時客の大半はシルヴァンの虜となった。

 リーはそこで始めて相手が只者でないことを理解した。緊張で掌に汗が滲む。


「来ないのか?」


 と言い放ったのはシルヴァンだった。

 リーは十八番(オハコ)が敢え無く失敗したことと相手の余裕怒り、冷静さを欠いた。


「言わしてやんぜッッ!!」


 スピアを縦横無尽に操り、倒さんとする。円状に回転する槍は旋風を起こし、砂を巻き上げる。

 シルヴァンはと言えば、攻撃が激しさを増しても顔色一つ変えず対処する。しかもスピアの速度に慣れてきたのか、回転している槍にさえ応戦し、動きを止める。その度にリーはスピアを再び回転させなくてはならない。

 時間が経つに連れ、次第に体力がなくなってくるのをリーは感じた。時間にして二十分経過していた。本来であればその二倍近い時間は動けていただろうが、ずっと攻撃し続け、対戦相手は逃げるばかりなので腕が疲れてきたのである。息も上がってきて肩で呼吸していた。

 逆にシルヴァンはこれまた試合開始時と全く変わらない姿勢で構えていた。

 業を煮やし、リーは挑発した。


「どうした! なんで攻撃してこねぇ! 怖気づいたか!」


 その言葉とは裏腹に、シルヴァンは全く怖がってなどいない事を感じていた。


「わかった」


 冷ややかに告げられた瞬間、リーの背中に悪寒が走った。

 さっきまでの防御姿勢は一体なんだったのか、と思わせるほど執拗な白い閃光は逃れようとする相手を捕らえ、着実に追い詰めていく。

 距離を詰めてしまえばスピアの射程範囲は不利なものへと変貌する。故にリーは敵を懐に入れてはならなかったのだ。

 もう遅かった。

 剣の奏でる調べは激しさを増し、ついに槍は主の手から離れた。

 興奮は最高潮(ピーク)に達した。

 しかし、勝者の放った一言を聞いたのであれば、誰しも驚愕の極みに達するだろう。


「拾えよ」


 リーは初め何を言われたのかわからずにいたが、すぐさま憤怒の表情になり我を忘れた。

 地面に落ちる槍を拾い、あらん限りの力で敵目掛け、投擲した。

 審判の()めの言葉も間に合わず、槍は高速で飛ぶ。

 もう試合の勝ち負け、相手の生死などリーには関係なかった。ただ相手が苦しみ、自分のプライドが満たされたかっただけなのだ。

 ――が、彼はすぐ、またしても攻撃が効を成さなかったことを知るハメになった。

 槍はシルヴァンの手前、数セートのところで停止した。シルヴァンは飛んでくるスピアをなんと右手一本で捕捉したのだった。

 観客が驚きに目を見開いた次の瞬間、槍は持ち主目掛けて再び投擲された。それも神速で。

 リーは避けなかった。否、動けなかったのだ。

 彼の得物は耳を掠め、遥か先の壁にビィンとのめり込んだ。壁にはひびが入り、スピアは半分以上が煉瓦の中に埋もれている。

 リーの腰は砕け、尻餅をついた。

 審判はその光景を見て慌てて旗を上げた。


「――勝者、シルヴァン」


 と、場内に宣言(コール)され、一瞬の間をおいて大喚声がどよめく。

 コロッセオに投票券の紙吹雪が舞い、罵声、嬌声、歓声が飛び交う。

 シルヴァンは剣を鞘に収め、


「僕の知り合いにじゃじゃ馬娘がいるが、そっちの方が手強かったな」


 とまだ腰を抜かしているリーに言い捨て、華麗に礼をした。

 決闘場を出る際、歓声に応えるべく彼は両腕を天高く突き上げた。「どうだった?」というようなポーズだ。

 それにさらなる大歓声が応じる。

 シルヴァンは満足した表情で決闘場を後にした。


**


「クシュン! クシュン!」


 ライカは鼻を擦った。


「どうしたの、ライカちゃん?」


「――ん〜、誰かがわたしの噂でもしたのかなぁ」


「いやぁ、それにしてもシルヴァンさんスッゴクかっこよかったねぇ。やっぱりすごいなぁ」


 興奮しきった顔でナナは呟く。


「そうでしょー」


「やっぱりあたし、あの人だったらいいかも……」


「なにが!?」


 鬼の形相で問い詰める。


「な、なな、なんでもないよ。こっちのことよ」


 慌てて誤魔化す。

 ライカは憮然とした表情を決闘場に向けた。


「続きまして、第八試合を始めます。選手入場です」


 アナウンスされると、シルヴァン以上の絶叫が轟いた。とりわけ女性の声が。


「キャアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――!!!」


「キャアァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア――――!!! コールさま――!!」


「コールさまよ――!!」


「コールさま〜!!」


「コールさまー!!」


「コールさま〜!! コールさま――!!」


「余裕で勝っちゃってくださいね〜、コールさま〜!!」


「コールさま〜! そんな奴ちゃちゃっと倒しちゃってくださーい!!」


 あの女性集団から黄色い声援が飛ぶ。

 ライカもナナも溜息を吐くと共に、何故かちょっと安堵した。

 あんなんじゃなくて良かったな、と。

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