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大会初日:皇帝

 ライカとナナは円形闘技場(コロッセオ)に入り、階段を上って最上階エリアに着いた。

 階段から外の空間に出た瞬間、目の前に現れた光景は圧倒的なものだった。

 上を見上げた瞬間、広がるのは――眩いほどに澄み切った青――

 空高く昇る太陽はコロッセオを金色に彩り、微かな微風(そよかぜ)は優しく頬を撫で、遥か遠くの空にはポツポツといくつかの白い雲――比較的降水量の少ないガイザードの気候が造り出す最高傑作の光景だ。

 最大収容人数四万人程度のコロッセオはほぼ満席状態だった。ワイワイガヤガヤと楽しそうな声が飛び交い、会場を盛り立てている。初日の出し物を楽しそうに待つ子供連れの親子、仲良く二人きりで来ている恋人同士、団体で見物しにきたのであろう愉快そうに話し合っている男達、これが唯一の楽しみだと言わんばかりにはりきっている老人達の姿が見えた。中には日除け傘を使って休んでいるやんごとなき人の姿も見られる。

 通路や階段には等間隔で警備に当たる帝国軍騎士がいた。皆それぞれ腰に(セイバー)を差したり手に(ランス)を持ち、体のどこかに色付きの“もの”を身に付けてどこの騎士団所属かを示していたし、極疎らに魔術師の姿もあった。

 ライカとナナは空席二つをやっとのことで見つけ、身を落ち着かせた。

 その頃には騒ぎがだんだんと静かになりかけていた。もうすぐ開会式が始まるのだ。


「ライカちゃん、すごいね、小竜(リトル・ドラゴン)だよ!」


「うわぁ――」


 光り輝く大空を駆け巡るのは、(ドラゴン)族の亜種、リトル・ドラゴン。彼らは大型のドラゴンと異なって成体になっても大型種の子供程の大きさ、全長二〜三メーラくらいにしかならなず、知性も低い方なので飼育に適しているのだ。リトル・ドラゴンは幻獣の見世物にも出演し、空の巡回も担っている。だがそろそろ開会式が始まるので概地上に着陸して待機していた。

 コロッセオは傾斜角二十度程の勾配になっており、どの席からもコロッセオの中心部を見ることができる。最上部席からは文字通りコロッセオ全体が見渡せた。

 コロッセオの中心部、決闘場は均された上質の砂と土が敷かれていて、最高の対戦状態を作り出している。決闘場と観客席は高さ約五メーラの壁で仕切られており、観客は上から戦いの模様を見守る仕組みになっていた。

 そしてコロッセオの北側には、皇帝家関係者席(ロイヤル・ボックス)と貴族席が設置されている。真北の中上部がロイヤル・ボックス、その左右に貴族席――全貴族の中でも上の位の者が座れる――で、中部にはこれまた大きな踊り場――王者の場がある。ここで、大会最終日、優勝者は皇帝から直々に賞金五十万ルーア、〈王者の剣〉、冠を頂き、その場で優勝者に与えられる最大の特権――願望を一つ実現できる権利が与えられる。無論その願望とは皇帝自身の権力や力で達成されるものだけに限られ、ほとんどの優勝者は魔法戦闘具(マジック・ウェポン)の精製を依頼する。

 決闘場と王者の場は三つの階段で繋がっていた。内二つはコロッセオの円に沿う感じで東西の左右から上がる仕組みになっていて、ここを使えるのは将軍クラスの者達だけだ。そして残り一つは真っ直ぐ王者の場につくように作られており、ここは大会優勝者のみが歩くことを許可される。

 今、ロイヤル・ボックス内でも一際目立つ金銀細工を施された上座のみが空いていた。皇帝専用席だ。

 通常、皇帝が先に座って開会式が始まるのを待つわけなどなく、『皇帝が来てから始まる』のが通例だった。そして今その皇帝がこの会場に向かっている。雰囲気は厳粛なものに包まれつつあった。

 貴族席の下段に位置する司会席あたりに動きが見られた。一人が何やら管のような物を握り、口に近づけると


「……皆様、本日はコロッセオに足を運んでいただき、誠にありがとうございます」


 と、自分達の周りから同時にいくつもの、それでいて一つの声がした。それは至る所から発せられ、見たことも聞いたこともない現象に会場はざわめいた。


「皆様ご安心ください。これは最近帝国の科学研究所サイエンス・アカデミーが開発した魔具(マジック・アイテム)でして、声音拡散機(スピーカー)といい、遠くの場所に同時に音声を届けることができます。是非声が聞こえる箇所を探してみてください。そこには穴があいており、そこから私の声が出てきているかと思われます」


 早速その言葉通り探してみると案外簡単に音源は見つかった。ありとあらゆるところにその穴は設置されており、そこから声がするという不思議な事象であった。


「今回の大会から試験も兼ねて使うこととなりました。不慣れであるとは思いますが、ご理解ください」


 声はコロッセオ中に木霊した。余韻がまだ波を引いている。


「さて、もうそろそろこの会場に皇帝陛下がご到着されます。陛下がここに来られるまでに、剣闘士をこの場に招きたいと思います。皆様、拍手でお迎えください」


 と司会の男がそこまで言うと、近くに座する楽師団が行進の演奏を始めた。この大きさの建物だと全体に音が届くはずなどないのだが、スピーカーを通しているらしく会場全体に心地良い旋律が流れた。

 行進曲が流れると決闘場の東、西、南にある出入り口の一つ、南側から四人の男が現れた。

 彼らは互いに対し十メーラ近く間隔をあけ、決闘場の中央で北側に向かって左側に整列した。

 続いて現れた者達は最初に出てきた団体の右隣に並ぶ。

 その作業は七回行われ、上空からみると見事なマス目状になった。ところどころ出っ張ったり引っ込んだりしてはいたが。

 彼らが全員整列すると


「今日この場に集った栄えある剣闘士を紹介いたします。

 パラスラ騎士団一番手、コール・オフ・アイジェンド。同じく二番手、ヌスト。同じく三番手……」


 贔屓している剣闘士が紹介されると、観客は歓声を送る。


「……、トゥアドラン騎士団一番手、シン。同じく二番手……、ウェイブラス騎士団一番手、シルヴァン。同じく……」


 女剣闘士の名前はシンといった。


「以上、総勢三十名が今大会に出場致します」


 拍手は止み、しばらくして司会は再び口を開いた。


「皇帝陛下の御成りです」


 その言葉と同時に剣闘士は片膝を地面につけて(こうべ)を垂れ、客は起立して北に向かって頭を下げ、帝国軍騎士は直立不動の姿勢で最敬礼をした。

 決闘場ではシルヴァンは横目で隣にいる女性が誰よりも遅く跪いたのを見た。

 ロイヤル・ボックスの後ろ、皇帝家関係者が使用する階段から現れたのは、わずか二十歳にしてガイザード帝国の頂点に君臨する若者――ギーラン・ダレスだった。

 金の刺繍が施されてキラキラ瞬く紫の豪華なマント、その下から見える純白の衣、頭上には色とりどりの宝石に満たされた球状の王冠が眩しい。それらの光は持ち主の威光を示し、かつ輝かせた。

 決闘場へと続く階段の前には棒が立てられ、先端には例の管のようなものが付いており、その管は司会席の床に直結している。皇帝がしゃべると、スピーカーを通して声が響く仕組みなのだ。

 皇帝は前に進み出た。


「大儀である」


 しんとした静寂の中、張りのある声のみが響く。


「今日、この場に来たことを余は非常に嬉しく思う」


 民は一層(うやうや)しく頭を垂れた。


「これからの四日間、皆には思う存分楽しんでもらいたい。それが余が臣民のためにできる、数少ない報いだ。

 ――我、ギーラン・ダレスはガイザード帝国皇帝として、ここに剣闘技大会の開幕を宣言す」


 皇帝としてはあまりにも短い宣言を終えるとコロッセオに、ガイズに唱和が号する。皇帝は右手を高々と上げた。


ギーラン皇帝陛下万歳(コール・ギーラン)! 帝国に繁栄あれ(コール・ガイザード)!」


「コール! コール!」


「コール! コール!」


 その歓呼の声に皇帝は手を振り、応える。


 シルヴァンは面を上げた。そして皇帝を見つめる。

 だが――眉を顰める。


 ――あれは誰だ?


 彼の心に浮かんだ疑問。それは一体何なのか?


 時間にして約数分、民衆の声に応えていた皇帝は自分の専用席に座ったが、その後も称美の唱えは続く。


「以上を持ちまして、開会式を終了とさせていただきます」


 司会者がそう述べると楽師団はまた演奏を始めた。

 それに従い、後から入場してきた順に剣闘士は退場した。

 シルヴァンは退場する際、一度だけ後ろを振り返った。

 その視線の先にいたのは、ギーランだった。


**


 コロッセオは興奮の声で溢れていた。

 第一部、幻獣の見世物(ショー)では帝国が飼育している珍しい獣を、トゥアドラン騎士団員が操って様々な曲芸、果ては決闘まで披露する。

 草原地帯よりも南方の乾燥地域に生息していると言われる長い鼻と二本の牙、一つの角を持つ巨象(エレファンティデア)、体中から生えている大きな角、角質化し鋭利な槍と化した鼻の(ライナ)、北のロンガ山脈の洞穴に生息する犬ぐらいまで巨大化し、マスコットみたいにチョコチョコと地面を動き回る針土竜(エキドゥナ)、ロンガ山脈手前のノールン湖が原生の、陸上生活と二足歩行が可能な人間の子供くらいの大きさの(アニュラ)・・・・・・

 実は、これらの幻獣は元々は小さかったり角はなかったりしたのだが、帝国が品種改良と異種間交配を重ねた結果、現在のような生態となったのだ。

 人々はそれらを見る度に笑い、面白がり、怖がり、驚いた。

 中でもリトル・ドラゴンとワイバーンの空中アクロバット飛行には誰もが賞賛した。リトル・ドラゴンとワイバーンに関しては品種改良が難しく、かといって本来が十分に有能な種族であったので本当の姿を留めたまま飼育されている。


 そして剣闘技大会初日の第二部こそその日のメインだった。魔術師による魔法の催しだ。

 手に呪文書を置いて呪文(スペル)を唱えると、観客はその光景に魅了された。

 共通魔法の〈浮遊(レビテーション)〉で宙を飛び、〈空間瞬間移動(ワープ)〉で消えては現れ、消えては現れた。

 特別魔法は〈火球(ファイア・ボール)〉、灼熱はより気温を暑くさせ、〈氷霧(アイス・ミスト)〉で一気に熱を冷ます。雷の黄色い光は人々を恍惚とさせ、光の魔法は安らかな時間を与える。

 魔術師のパフォーマンスに見物客は大満足だった。

 そんな光景をコロッセオの最上部にて、何の感慨もなく見つめる人物がいた。


(いかがです、帝国魔術師の魔法(ショー)は。シルヴァン?)


 頭の中に声が響く。シルヴァンは驚き、キョロキョロと相手を探した。


(ご安心を。今私は〈精神感応(テレパシー)〉であなたに話しかけています)


(ニルアドか。今どこにいる?)


(あなたと同じく、この茶番劇を見物しています。他人には決して見えませんが)


(〈透明化(スケルトン)〉の魔法も同時に使えるのか? そんなこと聞いたことないぞ)


(帝国魔術師程度の実力ならそれが限界でしょう。限度や制限はありますが、我が師は長年の鍛錬で同時に四つほどの魔法を完成できるまで己を高められました。現在私はせいぜい二つが限度です)


(すごいな。さすが〈光の魔術師〉の弟子)


(あなたはこのショーをどう思います?)


 いまだ決闘場で繰り広げられる“神秘”にシルヴァンは目を戻した。


(君の言っていた通りかもな。魔法を見世物に使うってことは少なからず、魔法の尊厳を損ねているんじゃないのかな)


(ご明察の通り。だから彼らは弱いのです)


 前と同じ台詞を聞き、シルヴァンは苦笑した。


(なぁ、二、三訊いていいか)


(私の答えられる範囲のものであれば)


(何故ウィザードは呪文(スペル)詠唱の際呪文書を開かなくてはならない?)


(メイジになろうと決めた時、私は既にソーサラーの才能を師に見出されてましたので、ウィザードの仕組みは良く解りません)


(君の師匠は元ウィザードだったな。その時のことをなんと言ってた?)


(――確か、ウィザード時代は魔法の理論を覚えるのに苦労したそうです。呪文書には呪文の他に唱える際のアクセント、抑揚、身振りも記載されているらしいのですが、それを一度に行うのはいかに上級ウィザードといえども非常に難しかったそうですね。だから彼らは肌身離さず呪文書を持ち歩き、詠唱の際は必ず必要な項目が載るページを開いているんです。ま、これも訓練次第、簡単な魔法であれば見なくても呪文を完成させることはできるらしいですが。

 呪文書を見ないで魔法を唱える、これがソーサラーへの第一歩です)


(魔法ってのは難しいな)


(まこと)にもって)


(……なぁ、君はどの系統の魔法が『最も強い』と思う?)


 すぐに返事が帰ってきた。


(一つの魔法も極めておらず、全ての魔法を極めることが不可能なメイジが畏れ多くも全ての魔法を代表して申し上げることはできません。一つ言わせていただくなら、適材適所という言葉があります。時と場合により、魔法の発揮する効果は様々で、状況によっては火の魔法が水の魔法を凌駕することも、水が雷を凌駕することもできましょう。

 ただ、私は光の神イーヴァのソーサラーです。光の魔法は守護と癒しを主に司り、攻撃者から身を守るためには最適の魔法だと思います。そしてその光と対を成す闇の魔法こそ、我らが最も危惧すべき対象なのです。憚りながら、闇系統の魔法こそ『最も人を傷付ける』魔法と考えております)


(そうか……)


 シルヴァンは遠い目になった。


(トリスタンから、今日このあとどこかで落ち合おうとの伝言です)


(場所は?)


(その指定は特に。どこがいいですか?)


(そうだな。〈パルクの酒樽亭〉で)


(そのように伝えておきます。それでは、これで失礼します)


(ご苦労様)


 と言ったきり、交信が途絶え頭の中に声は響かなくなった。

 シルヴァンはじっと魔法の神秘を見ていたが、途中で飽きて兵舎に帰った。

 明日、いよいよ大会の本番が始まる。

おまたせしましたっ。

先日、ついに一日のユニークアクセス百人を突破しました(嬉) 今後も頑張り続けていきたいと思います。それではっ。

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