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一五話 神々と魔法の理(二)

 早速ライカは切り出した。


「わたしね、入塾して早速塾の図書館を利用したの。すっごく広くて置いてある本の数はハンパじゃなかったわ。

 でね、そこで魔法関係の本を見つけて片っ端から調べてみたの。あんまりいい成果は出なかったけど、ないよりはマシだったわ」


「どうだった?」


 う〜んとね、と言って頭の中身を整理した。


「動物と会話する方法について調べてみたわ。

 まず、人間が動物になる〈変身(ポリモルフ)〉の術だけど、変身後しばらくは人の言葉を話したり理解できたりするんだけど、時間が経てば経つ程人間の理性を失って最終的には完全にその動物になっちゃうんだって。人間の理性がある間は、被術者は口で直接しゃべることができるからマオみたいな直接頭の中に語りかけるのとはちょっと違う気がするわ。この術はウィザードとソーサラーの上級共通魔法(コモン・マジック)だって。

 次に〈精神感応(テレパシー)〉だけど、これは魔法職業の共通魔法で中級魔法だからメイジと言えども訓練が必要らしいわね。これだとマオの声がわたし達だけにしか聞こえないってのはわかるけど、わたし達はメイジじゃないのは言うまでもないし。それにマオの声が脳に響く時、マオの口も一緒に動いてるのよ。だからマオは『何か』を『口で』言ってるんだわ。

 最後に時間がなくて全部調べ切れてないけど、自然系統の特別魔法(ピキュリア・マジック)に動物と会話できるっていう術の項目があったわ。それも可能性としてないわけではないけど、わたし達メイジじゃないしね」


「ケンタウロスの時と、プラーナの時で違う点はあったかい?」


「ケンタウロスの時のことはよく覚えてないの。ケンタウロスが何か喋ってたのは聞こえたけど、何を伝えたかったのかはさっぱり。ただあの時はケンタウロスが伝えたいことがわたしの口を使って喋ってたような感じだったな。

 プラーナについてはマオと全く同じよ。なんでシルヴァンにはプラーナの声が聞こえないのかしら?」


「さぁねぇ。検討もつかないや」


 ふたりはそこまで話し込むと黙り込んでしまった。


「よし、じゃあ問題だ。ウィザード、ソーサラー、バードの違いを挙げよ」


 すぐに頭の中から答えを搾り出す。


魔術師(ウィザード)は魔法を幾何学的に分析、研究してその仕組みを理解して使用する者達のこと。呪文書っていうのは主に彼らが著述した物で、その中には魔法を使用するのに必要な呪文(スペル)や理論が書いてあるわ。故に彼らは間違えさえおかさなければ何度も同じ呪文を使用できる。呪文を覚えなくてはいけないけどね。

 妖術師(ソーサラー)はウィザード以上に魔法の才能が必要とされ、主に戦闘分野に特化したウィザードのことを指す。彼らは自分の内より流れ出る魔力を感覚的に操るため、呪文を覚えなくても自然に呪文を出すことができる。でもそれは言い換えれば“気分しだい”や“気まぐれ”であるため、未熟なうちは同じ呪文をかけようとしても結果が微妙に違ったり、呪文自体を全く出せなかったりもする。上級ソーサラーになればその誤差やムラは限りなくゼロに近づくわ。さらに彼らには生まれつき先を見通す力、“予見(フォーサイト)”が必要とされている。これがない者は一流どころか上級ソーサラーにもなれないわ。だからウィザードより人数が少ないの。便利なところは呪文書を持ち歩かなくてもいいことかな。

 祈祷師(バード)はウィザードともソーサラーとも一線を画す特別な存在で、その名の通り祈祷することで神々との疎通を図る者達のこと。神官(クラス)の人達よ。これも特別な才能が必要で、主に音楽によって神々を祀りその見返りとして直接特別な呪文――信仰呪文(フェイス・スペル)と呼ばれる――を賜ったり、預言を頂くこともあるわ。彼らが一番神に近い存在と言っても過言ではない。なりたくてなれるものじゃないから、なれる人は他の二つの魔法職業より人口は圧倒的に少ないわ。南の草原地帯に住む人々は伝統的に音楽が生活の一部になってるから、人口中のバード率がとても多いと聞くわね。

 この三種の魔法職業に就く人間達を総称して魔法使い(メイジ)と言う。

 ――どうかしら?」


「お見事。

 もう一つ問題。共通魔法(コモン・マジック)特別魔法(ピキュリア・マジック)信仰呪文(フェイス・スペル)初歩魔法(ファースト・マジック)の特徴を説明せよ」


 フッ、と鼻で笑う。


「このライカ様にとったらそんなのは愚問ね。でも仕方ないから答えてあげる。

 共通魔法は仕えている神や用いる魔法の系統を問わず、その魔法職業であれば理論上は使用できる魔法のこと。わたしがさっき言った『ウィザードとソーサラーの共通魔法』ってのは、ウィザードかソーサラーの熟練者であれば使用できるって意味よ。あと、『魔法職業の共通魔法』はウィザードもソーサラーもバードも用いることができるの。

 一つの神の教義を信仰することで手にできる魔法が特別魔法。だから雷系統の魔法は、雷を司る神を信奉することで習得できるわ。特に顕著な例が信仰呪文でそれは神がバードにのみ与える術のことで、同じ神を信奉していてもウィザードやソーサラーは使うことができない。だけどその呪文の数は少ないの。

 初歩魔法は、メイジみたいに魔法に生涯を捧げなくても、訓練次第で扱うことのできる初歩中の初歩の魔法を指すわ。

 どうかしら?」


「お見事」


「わたしさ、思ったんだけどどうしてメイジは一つの神様を信仰しないと初歩魔法以上の魔法――共通魔法や特別魔法――を使えないのかしら。雷系統の魔法を使ったり、自然系統の魔法を使えたら便利なのに」


「神々に対する冒涜さ」


「そうなのかなぁ〜」


「ちなみに、君はどの神を信じてる?」


「知りたい?」


 ライカは小悪魔的な笑みでフフ、と笑った。


「いや、特に」


「訊きなさいよっ」


「ライカさんはどの神様を信奉しておられるんでしょうか?」


「教えな〜い」


 シルヴァンはまた溜息をついた。

 まずいな。最近溜息が多いぞ。これは気を付けないと。


「どうしても知りたい?」


「いや、別に」


「訊きなさいっ」


「どれを信じてんだ」


「愛と光の女神エリスよ」


「・・・・・・」


「もっと感動しなさいよ。若い女の子は皆エリスを信仰してるわよ。いつか目の前に理想の異性が現れるようにね。ちゃんとエリスの教えを守りさえすれば、僧侶とか尼でないわたし達にもいつか白馬の王子様が現れてくれるに違いないわ」


「そんなにうまくいくもんかね」


 シルヴァンはボソッと呟いた。


「え? 何か言った?」


「なんでもない。気のせいだ」


 ライカはライカで理想の男性がどんな人なのか想いを馳せていた。


「もう一つ、これも個人的に訊きたいことなんだが・・・・・・」


「なに?」


「君はどの系統の魔法が『最も強い』と思う?」


 ライカはう〜んと悩んだ。


「水は氷に凍らされるし、氷は炎に融かされるし。火は炎よりも弱い・・・・・・。地系統は攻撃に特化してるワケでもなし。雷は攻撃力でいえば炎に劣る。――でもやっぱり闇系統かな?」


「ふ〜ん。そうか」


「シルヴァンはどう思うの?」


「教えな〜い」


 シルヴァンはさっきのライカの口調を真似た。

 ライカもシルヴァンも笑う。

 一通り笑い終えると、シルヴァンは問うた。


「じゃあこれが最後の問題。魔法の『超常現象』について述べよ」


「え、なにそれ?」


 ライカは初めて聞いた単語にキョトンとしてしまった。


「次までの宿題」


 ライカは頬を膨らませた。


「そういえばなんでそんなに魔法関係のことを知ってるのよ。さっきの話も半分近く、いえ、ほとんど知ってそうな顔をしてたし」


「勉強してたのは君だけじゃないさ」


「フンッ。いいわ、シルヴァンの意地悪。

 どうせわたしも塾でイェン老師から直接魔法学を教えていただくから、そのうちあなたの知らないことまで学んでいくわ。初歩魔法(ファースト・マジック)なら誰にだってできるから、いつかあなたを驚かせてやるわよ。シルヴァンをへこませる日が来るのもそう遠くはないかもね」


 初歩魔法自体はまったく大したものではないがそれでも身に付けようとする者はいて、金持ちの貴族は大金を払ってメイジを雇い、嫡子に初歩魔法を教えさせたりする。ようするにたいていは貴族の見栄っ張りなのだ。


「その前にもっと驚くべきことがある」


「何?」


 シルヴァンは立ち上がって締めていた扉をスッと開けた。

 ドタドタッ!といって部屋になだれ込んできたのはウェイブラス騎士団の男達だった。盗み聞きをしていたのだ。

 皆倒れて下敷きになりあっている。彼らは互いに罵声を浴びせながらどうにかして立ち上がるや、シルヴァンを(なじ)った。


「女を連れ込むなんてズルイぜ、シルヴァン」


「お前に彼女がいたなんて知らないぞ」


「俺にも誰か紹介してくれ。そのお嬢ちゃんでもいいからよ」


 シルヴァンはライカの方を振り向いた。


「こういうワケさ。驚いた?」


 ライカの顔は髪と同じ桃色に染められていった。


「ささ最初から気付いていたの? だ、誰もいないと思ってたのに」


 シルヴァンはいたずらっぽく、


「そ。別に二人きりじゃなくてもいいって言ったろ?」


 たちまちライカはさらに顔を赤くし、


「シルヴァンのバカ!」


 と捨て台詞を残して足早に帰っていった。

 後に残ったのは部屋の中でたむろする男達のみだった。


**


 三日後――ライカの誕生日の二日前。

 ライカは私塾で老師の特別授業を受けていた。イー・チェン・イェン塾長自ら講義する貴重な授業を受けようとして教室には大勢の生徒が詰め掛けていた。私塾内でも特に大きい教室を使用していたがそれでも足りないので別の教室から椅子を持ってきたり、後ろの方には立ち見をしている者も見受けられる。その中にライカはいた。


「・・・・・・以上で本日の講義を終了とする」


 と老師が締めくくると拝聴していた者達は拍手した。


「あぁ、そうそう、諸君らはわかってると思うが明日からは夏休みじゃ。次の授業は橙の月第三週第一の日である。忘れることのないよう」


 ライカも拍手し、部屋を出ようと椅子から立ち上がろうとした時老師はそう告げた。

 は? 休み? 聞いてないわよ。何よそれ。

 ライカは教室から出た老師の後を追った。


「イェン老師、お待ちください」


「君か、ライカ君。どうしたんじゃ?」


「あの、わたし明日から休みなんて初めて聞きました。どうすればいいんですか?」


 老師は自分の額を叩いた。


「これは迂闊じゃった。もう君には伝えたものと思っていた。年は取るものじゃないな。少し遅いが明日からこの塾――というかガイザード中の塾――は夏休みに入るのだよ」


「なんでこんな時期に夏休みなんですか? わたしがバスティアにいた時は、どこも金の月の中旬に休みがあるっていうのは聞きましたけど」


「まぁ帝国以外の国ならそうじゃろう。理由は簡単。今月末に剣闘技大会があるのは知っているな? それじゃよ。うちの塾に通う生徒の多くは、金を持て余す人間を親に持つ者じゃ。彼らは剣闘技大会を子供達と共に見に行く。そうすると、その時期の塾の出席人数は三分の一も減ってしまう。それに彼らは旅行も兼ねておるので、行ったらしばらくは戻ってこないんじゃ。するとその間の授業約三週間分は欠席することになるでな。なのでガイザードの私塾の多くはこの時期に休みを設けるのじゃよ」


「そうだったんですか」


「伝え遅れたことは本当に申し訳ないと思う。一応その間も塾は生徒のために解放しておるので、暇な時は勉強に勤しんで貰っても構わんよ」


 そっか。休みか――。どうしよっかなぁ。

 ライカは塾を出て女子寮に向かった。門に向かうと、そこには彼女の知り合いの姿があった。


「あ、カルダンさん。それにシルヴァンも」


 最後の言葉には少し棘があったが、言われた方はただ爽やかな笑顔を浮かべていた。


「どうしたんです?」


「お別れを言いに来た」


 そう告げたのはシルヴァンだった。


「僕は明日ここを発って首都へ向かう」


「あ、そうなんだ」


 ライカはちょっと残念そうに言った。


「いいなぁ、することがあって。わたし明日から夏休みなのよ。今日知ったわ。どうしようかしら」


「じゃあ夏休みの予定は特にないのかい?」


「うん。だってさっきいきなりそう言われたんだもの。何も計画なんて立ててないわよ」


 そう聞いてシルヴァンとカルダンは顔を見合わせた。二人とも笑っていた。

 ライカがどうしたのかしらと思ってるとカルダンが口を開いた。


「もしよかったらわしと一緒にガイズに行かないか? 剣闘技大会を見ることができるぞ」


 ライカは予想してなかったので驚いた。


「えっ! なにかあったんですか?」


「シルヴァンが剣闘技大会に出場できるから、出場者の身内や親族は数名であれば無料で観戦できる制度があるらしいんだよ。わしも昨日初めて聞いた。現地で受付を済ませればすぐに観戦できるそうだ」


 ライカは前の確執など忘れたように――実際にはライカの一方的なものではあったが――シルヴァンに御礼を言った。


「ガイズまでは馬で遅くても八日で着き、大会の初日は第五週第三の日だから、四日後に出発しよう。そうすればガイズを探検できるぞ。それでいいかな?」


「はい」


「よし、じゃあ決まりだ。そういうわけでシルヴァン、大会で会おう。応援してるからな」


「ありがとうございます」


「絶対優勝してよね。プレゼントよ、プレゼント」


「わかったよ」


 シルヴァンもカルダンも苦笑した。

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