The man of a dark blue suit,No1
ざわつく会場…
こんなにも人が集まるとは…。
何人位いるだろうか?
間違いなく100組以上の参加者はいるだろうと思われる。
紺色のスーツの男は会場の隅で、この風景を静かに見つめている。
『本日はForce予選大会にこんなにも多くの
ご参加頂き誠にありがとうございます。
これよりForce予選、決勝大会のご説明をさせていただきます。』
舞台の上で鮮やかな赤に三角錐のマークがあしらわれた
Tシャツを着た司会者が淡々と進行している。
『何か緊張してきたなぁ!』
大柴健吾は浩平を見ながら呟いた。
確かに周りの緊張がひしひしと伝わってくる。
4人はそれぞれ顔見て頷く。
『では今日行われる予選大会のご説明を致します。
まず予選は1次から2次まで行われます、まさに知力、体力、運、
更にForceではチームワークが決勝大会への最大の近道になってきます。』
司会者は一息つき、言葉を続ける。
『1次予選では25組が通過とし、2次予選で3組に絞られます。
この3組のみ決勝大会進出となります。』
この競争率の高さに会場内のざわつきは更に大きくなった。
『相島さん、決勝までの道程は長いっすね~!』
大友の顔は既に諦めムードだ。
相島は『簡単に優勝出来たら、苦労しないぜ。』と言うと、
『大友、あんたが誘ったんだからね!
貴重なお休み使ったんだから、優勝まで責任取りなよ。』
香織の横で千夏は笑いながらやる気の無くしつつある大友に発破をかける。
独特の緊張感が包み込み、参加者の誰もが固唾をのんで
司会者の話を真剣に聞いている。
『優勝賞金100万円目指して頑張って下さい、
では早速1次予選を始めたいと思います。』
『いよいよですね、岸谷さん。』永田一幸は岸谷の横に立ち、
その隣では奈緒子と永田由子がおしゃべりに夢中で、
司会者の話を聞いているのかどうかもわからない。
まるで緊張していない様子だ。
こんな時はやはり女性の方が度胸が据わっているのかと
岸谷はおしゃべりを続ける二人を見て思った。
『1次予選は、この会場全体に封筒に入った問題を
4人で探し、この隣の会場の解答席にお持ち下さい。
1次予選通過は25組までです。今回、ご参加頂いたのは
全部で127組です。』
司会者の声を聞くと、雪崩のような勢いで数十組が、
既に会場出口に我先にと駆け出した。
『クソッ!しまった!』
大柴健吾は既に会場出口に向かう人波を見て、思わず口走った。
浩平達は司会者の近くに立っていたからだ。
『やばいよ、出遅れちゃう。』
優子も慌てて、出口に向かおうと踵を反す。
『待てよ、この大会は4人1組のはずだ、単独行動するなよ。』と
浩平は優子を止めようとするが、優子は焦りで足が絡み、
前にいた人にもたれ掛かるよう倒れた。
遥が優子を抱えるように手を取るが、完全に出遅れた感じだ。
スタートの合図が出る前に大勢の人の波がうねりをあげている。
司会者は明らかに人気の少なくなった会場で説明を続ける。
『問題の入った封筒は会場全体の至る場所に置いてあります。
隣の会場が解答場所となっております。解答場所以外での開封は
無効とさせていただきます。それでは開始です。』
司会者は全て言い終わると舞台の上から姿を消した。
会場には取り残された感のある香織達とあと数組のみしか、
この注意事項を聞いていないのだ…。
『早く行った人達は最後まで聞かなかったから、後悔するでしょうね。』と
香織は相島に話しかける。
『どんな時にでも、冷静さを欠けて、慌てたほうが負けるよ。』
相島は自らも諭すように、香織を見つめて答える。
しばらく香織達はお互いの顔を見合った。
司会者は探し出す方法までは言ってはいない。
そして香織達は二手に分かれ問題の入った
封筒を探しに会場を出ていった。
司会者の全てのアナウンスを聞き終わると永田一幸は
岸谷に対して、『完全に出遅れましたね』と言うと、
2人を急かしている岸谷、永田両婦人を見つめた。
会場にはもう自分達しかいない。
『さて、これからいよいよForceが始まったようです。
どんな結果になるのか、優勝者はどの組なのか?皆様お楽しみに~。』
グローバルTVの田中雅美はこの大会を取材している。
『岸谷さん、TV局もこの大会を取材しているようですね!』
由子は奈緒子と興味津々で人気アナウンサーの田中雅美を見ている。
『しかし何かひっかかる事がある。』
岸谷はそう思っていた。だからこそ動かなかったのである。
岸谷は司会者の話した事を改めて言い返した。
『本日はForce予選大会にこんなにも多くの
ご参加頂き誠にありがとうございます。
これよりForce予選、決勝大会のご説明をさせていただきます。』
何も感じない・・・ 単なる挨拶だ。
『では今日行われる予選大会のご説明を致します。
まず予選は1次から2次まで行われます、まさに知力、体力、運、
更にForceではチームワークが決勝大会への最大の近道になってきます。』
これも違和感を感じない。
『問題の入った封筒は会場全体の至る場所に置いてあります。
隣の会場が解答場所となっております。解答場所以外での開封は
無効とさせていただきます。それでは開始です。』
『ここだ!この話がひっかかる』岸谷はそれを奈緒子と永田夫妻に話す。
『どこがおかしいって言うの?』奈緒子は岸谷に問いただす。
『何もおかしい点はないと思うわ、それより早くしないと
会場内にある封筒を全部取られちゃうわ!』
永田由子が更に急かす。
『あっ、それだ!』永田一幸は岸谷を見て、思わず叫んだ。
『えっ?』奈緒子と由子はそう言うと、一幸を見つめる。
『わかりましたよ、岸谷さん。岸谷さんがひっかかってるところがね。』
そう一幸が言うと同時に岸谷の中にある違和感も
深い森に発生した霧がすっかり晴れ、木々の1本1本の息吹すら
感じられるくらい全てクリアな気持ちになった。
『司会者は問題の入った封筒は会場全体にあると言ったんだよ、
ここも会場の一部には間違いないはずだ。みんなで探してみよう。』と
岸谷が言うともう既に一幸は、この会場には必要とされていない
テーブルの下を探していた。
『と言う事はここも会場なんだからここにもある可能性あるんだ』と奈緒子は言う。
『その通りですよ』と一幸はテーブルの下から問題が入った封筒を3人に
見せつけるように掲げた。
さっきまで参加者でごった返していた会場は今は岸谷達の声しかしない。
『本当にここにあったんだ。』
岸谷と一幸を尊敬の眼差しで見つめる奈緒子と由子。
あとは隣の会場で開封し、封筒の中の問題を解くだけだ。