心の中にあるもの
ドアをノックする音がし米村がお茶を持ってきた。
田中雅美は丁重に断り、部屋から出て行った。
『でも、昨日は見事な熱弁でしたね。』米村が言う。
『いやいや、必死でしたよ。彼等がNOと言ったら
どうしようかと思ってましたから』とはにかみながら圭介は言う。
『本当に信頼というものを見てみたいと思われたのですか?』
『それはもちろん、それが存在しているならばね。』
圭介はそう言うと静かに眼を閉じた。
米村は圭介が『一人にしてほしい。』という合図だと察し、
部屋をあとにした。
部屋を出た米村は一人考えていた。
本多圭介という男をずっと見てきたが歳を重ねる毎に、
心の奥は深くなってきて、闇に包まれているように感じ、
米村は恐怖心に似た感覚を覚えてきている。
それぞれ4組は、圭介が話していた町に向かった。
浩平は混乱していた。いや、浩平よりもずっと
健吾や遥が混乱しているに違いない。
当たり前だが、優子がとった行動を受け止められないでいる。
ただ事実として、優子はここにはいない。
今はライバルとして存在している。
『優子は何故、私達から離れたの?』遥は健吾に聞く。
『わかんないよ、あいつ何を考えているんだ。』
健吾はやる瀬ない気持ちでいっぱいだ。
『彼女なのに?』遥は健吾に問いただす。
『彼女だけど、心の中まではわからないよ。』
健吾はそういうと俯いた。
わかるはずない。自分だって遥の全てまではわからないのだから。
『もう健吾を責めるのはやめなよ。』浩平は遥に言う。
『何で?何でなの?』遥は動揺を隠しきれない。
『遥は優子の心の中、わかってたのか?』
浩平が遥に聞くと、遥は黙り込んだ。
そう誰にもわからないんだ。優子の心の中までは・・・
『あいつは何を考えているんだ!』相島は怒りに震えている。
千夏はさっきから黙り込んだままで何も話さない。
香織は大友が私達から離れて、
今は自分自身を貫いて私達の前に立ち塞がる。
考えてもみなかった。
でも確かにその予調はあった。
最後の旗を探す時に勝つ為だけを考え、
自分達の封筒だけを手にしようとした。
それを私達は反対した。
他の組と力を合わせて手に入れる為に。
その判断は間違ってないと香織は今も思っている。
代償が大友が私達から離れると結果を招いてしまった。
そんな事を考えながら香織達は圭介が造ったという町に向かう。
町に向かう岸谷達は、ずっと無言だった。
由子が抜けた事が一幸に衝撃を与えたのは間違いない。
しかも自分達からふるい落とされたと感じ、
自ら自分達から離れていった事実。
一幸は最初の解答者に由子ではなく、
岸谷奈緒子を選んだ事に後悔していた。
もしあの時、岸谷奈緒子ではなく自分の妻である、
由子を選んでいたとするならばどうなるだろう。
結果岸谷奈緒子も今の由子のようになっていたのだろうか?
答えはわからない。
岸谷と奈緒子は一幸の気持ちを察し、
声をかける事も出来なかった。
もし自分が由子の立場だったらどうするだろうか?
このチームを離れて、同じ境遇と感じた仲間と共にするだろうか?
3人は一人ひとりがそう感じながら、足早に町に向かった。




