Triangle
8月某日 都内某ホテル
Force予選会場は既に多くの人だかりに溢れている。
その中にブルーのTシャツとジーンズのラフな格好をした
山崎浩平と黒のノースリーブにジーンズをはいた大柴健吾の姿があった。
『優子達遅いなぁ、何やってるんだ、おい浩平、TV局も取材にきてるぞ!』
大柴健吾はあまりの参加者、ライバルの多さに苛立ちをあらわにしている。
『ごめ~ん!』
苛立つ健吾にピンクのキャミソール姿の優子と
薄いパープルのワンピースの遥が声をかける。
『来ないのかとハラハラしたよ』と浩平が遥に話し掛けると、
『ここまで来るのにめちゃ人多くて、大変だったの。』と遥が答える。
『ライバルがこんなに多いとは…でも頑張ろうぜ』と二人が来た
安堵感から健吾はニコニコ顔だ。先程までの苛々していた顔とは随分違う。
『とりあえず楽しんでくるか!』
浩平はそう思い、元気に会場に向かう健吾のあとを追った。
『さて、いよいよだね~』
『まさかこんなに人が多いとはね』
この人の多さにForceに対する関心の高さと夏休みが重なり
10代の参加の割合は半分以上だろう、夏休みの思い出つくりと
言ったところだ。
残りの30%が20代、20%がアラフォーの参加者だろう。
来島千夏は10代には負けられないとかなり鼻息が荒い。
香織はこの人込みに圧倒されて、今思えばこれだけの
参加者の中で決勝に残る事は容易ではないと思い、
『家でDVDでも見ておけばよかった』と後悔し始めていた。
この人込みで香織は押されて、倒れそうになった時、
一人の男性が手をとってくれた。
『大丈夫ですか?』
倒れかけた香織を咄嗟に30代前半くらいで健康的に
陽に焼けた男性が手を差し延べてくれた。
『すいません、ありがとうございます。』香織は礼を言うと、
『参加者多いですね』とその男性は笑みをこぼし、
『お互い頑張りましょうね、では。』と軽く会釈をし、
奥さんと思われる女性のほうへ歩いていった。
『大丈夫?』と後ろから相島洋介が駆け寄ってきた。
『うん、大丈夫です。』と香織がこたえると、
相島洋介は先程の男性の後ろ姿を目で追っていた。
『こっちこっち。』
妻の奈緒子が岸谷を手招きしている。
既に参加者登録のテーブルに着こうとしている。
手招きしている奈緒子は横にいるパープルの
ワンピースを着た、若い女性に気付いてなく、
ぶつかってしまった。
『すいません。』
パープルのワンピースを着た女性は一目で見てわかる
10代の女性、高校生くらいだろう。
奈緒子は『恵まれているなぁ』と素直に感じた。
奈緒子自身の10代の頃と比べると、手足は長く細い。
自分の高校時代と照らし合わせてもスタイルの良さは明らかだ。
ぶつかった女性はキョトンとした顔で、奈緒子の顔を見ている。
『ごめんなさいね。』
奈緒子は改めてお詫びすると、
『あっ、いえ、こちらこそ』と返事し、そそくさと彼女と
一緒に参加する仲間のところへ戻っていった。
先に参加申込していた、一緒にチームを組むお隣りの
永田夫妻が奈緒子と遅れて来た岸谷に席を譲る。
『まさか一緒に参加してくれるとは思いもしなかったわ。』
お隣りの永田由子が岸谷と奈緒子に声をかけ、
『何か巻き込んじゃってごめんね。』と
由子の旦那の永田一幸が岸谷に声をかける。
永田一幸は岸谷の2歳上の38歳、由子は一幸の
1歳上の姉さん女房だ。竹を割ったようなはっきりとした
性格をしている。
『もし優勝したら、100万は山分けよ。』と由子が笑いながら
岸谷に声をかける。『えぇ、もちろん』と返事をする。
由子の後ろで、いかにも『ごめんね。』と申し訳なさそうな顔をしている
一幸の姿が瞳に写った。