勝負の席順
『席順は決まりましたでしょうか?次にもう一度だけルールを確認し、
5分以内に右から1次予選通過順で着席下さい。
座られていないチームは棄権とさせていただきます。』
司会者がそう言うと、既に何組かは、椅子に座りはじめた。
『席に座りましょう。』
奈緒子と由子が言うと岸谷と一幸は追うように1番端の列に座る。
『解らないと思ったら相談するわね』と
由子は一幸の背中越しに声をかける。
一幸は『あぁ』としか返事をしない。
奈緒子も由子に『教えてね。』と言うと
その後は2人の間ではいつものおしゃべりが始まった。
岸谷は1番後ろに座り、周りを見渡すと3分の2は
既に席に座っており、岸谷達の反対側では高校生と
思われるグループが真剣に話し合っている。
『こんなに簡単に座ってよかったのだろうか?』
岸谷は一抹の不安を感じていた。
またその近くでは大きな声で体格のいい男性が、
リーダーと思われる人に担がれて、
先頭の席に座らされている。
その後ろには、確か会場入口で転びそうになっていた
女性の姿を見つけた。
『彼女のグループも1次通過したんだ』と岸谷が見ていると、
彼女も岸谷の視線に気付いたようで、軽く会釈をしてきた。
岸谷もそれに応えるように会釈を返す。
『もうそろそろ座ったほうがよくない?』香織は千夏に声をかける。
『順番も決まった事だからね。』
千夏は席に座ろうとして思い出したかのように、
『香織さん、相談した時に拒否しないで下さいね』と笑顔で言う。
『私も解らない問題なら答えられないじゃん。』
香織は千夏を見て返事をし、
『相島さん、よろしくね。』と言うと相島の背中を叩く。
相島は先程の香織と千夏の会話を聞いていたので、
俺も解らない問題なら答えられないからな』と返事をする。
『大友は自力で頑張ってね。』
千夏が大友を肘で突く。
大友は仕方ないなというような顔をしてたが、
『相島さん、頼りにしてます。』と
言って相島の背中を押して、席に座らせた。
香織も席に座ろうと移動した時、
1番端の最後尾に座る男性と目が合った。
『確かあの男性、入口で転びそうになった時に助けてくれた人だ。
あの人達が1位通過なんだ。』
香織は思わず感心し、軽く男性に会釈すると
彼は既に椅子に腰掛けたまま、頭を下げた。
優子が席に座ろうと移動しようとした時に浩平が優子を呼び止める。
『どうしたの?』
遥も浩平の態度が気になり声をかける。
浩平は1次予選で冷汗をかいた事でかなり慎重になっている。
慎重というべきか冷静になっているほうが近い。
『なぁ、解答がわからない時に相談してもいいんだよな。』
浩平は3人に聞き返す。
『お前聞いてなかったのか?』健吾は言う。
『今思ったんだけど、もし相談して間違えた時は-1点だよな、
でも相談せずに間違えたならば、0点だ』と3人に聞き返す。
『そうよ』と優子が返事をする。
『-1点と0点はどっちが得なんだ?』浩平が言うと、
『あっ、確かに。』今度は遥がこたえる。
『どういう事だ?』健吾は聞き返す。
『-1点が損するんじゃないか?ただ間違えただけで
0ならわかるけど、マイナスになるんだぜ。』と浩平は健吾に言う。
『あっ、そうか!』
健吾は浩平の言った事を理解したようだ。
『でも正解なら0.5点なんだよね、正解すればプラスなんだし・・・』
今度は優子が浩平の顔を見て言う。
『どっちが得なんだ?』
4人は悩んだものの結論は出ず、時間だけが過ぎていく。
『相談する回数を決めたら?』遥が3人に向かって言う。
3人は頷き、1回限りという4人の中のルールを決め24列目の椅子に座った。
やはり何か落とし穴のようなものが仕掛けられていると浩平は感じた。
そして『慎重になってよかった。』と実感した。
既に浩平達を除いては全て席に着いている。
慌てて座り2次予選スタートの合図を待つ。
『準備は宜しいでしょうか?これから2次予選を開始致します。』
司会者の声でより一層緊張感が高まる。
『これから問題用紙をお配りします。』
いよいよ始まる3/25の生き残りをかけた勝負の幕開け。
『解答は問題用紙の中に解答欄がありますので、そちらにご記入下さい。
解答時間は1問につき3分です、解答後は速やかに後ろに座られている方に
問題用紙を廻して下さい、従わない場合は棄権と見なします。』
係員が一斉に先頭のテーブルの横に立ち、問題用紙が丁寧に1部ずつ並べられていく。




