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イタリアンレストラン、と言うより何だか隠れ家的なお店だったけれど、そこを出てタクシー会社に電話を掛ける。
「は?お前――」
「お願いします。はい、失礼します」
タクシーを一台お店の前まで頼み、我妻さんを振り返った。
「はい?」
「送って行くつもりだった」
「あ、もうタクシー呼んだので大丈夫です。ありがとうございます」
「何かさぁ、」
「はい」
「お前、予想外過ぎる。後部座席に座るし飯の誘いも断るし、挙げ句の果てにはタクシー呼ぶって……何なの、マジで」
「何なのって言われても……」
近くにタクシーが居たのか、数分もせずに店の前に停車した。ドアが自動で空いて、後部座席にすっと乗り込む。
待たずしてタクシーに乗れた小さなラッキーに少しにやけそうになりながら、後ろに立つ我妻さんに挨拶をしようと振り返る。
「じゃあ、お疲れさ」
「お前みたいな女、会った事ねぇかも」
「え?」
「嵌まった」
――触れた、場所は。
前屈みになった我妻さんが、顔を傾けて近付いた。
「おやすみ、佐藤」
閉められたドアの向こうで。
我妻さんは微笑んでいた。




