第9話「もっと強い神様はどこ?」
今回は山のてっぺんの神さま登場。
おばあちゃんから話を聞いて…
コンちゃんの危機を救うべく…
わたしは山のてっぺんを目指します。
出てきた神さまは黒い髪の女の人でしたよ。
「コンちゃんに相談したら、そんな感じで」
パン屋さんの朝は早いです。
店長さんは仕込みをしながら、
「コンちゃんに相談するかなぁ」
「だ、だって……」
「ポンちゃんは俺が助けたタヌキで恩返しに来てるんだよね?」
「はい」
「店を手伝ってくれるだけで充分だよ」
「そ、そうなんですか?」
なんだかアレコレ作戦を考えていたのが無駄だったみたい。
「なら、わたしは一生懸命お手伝いします」
「よろしくたのむよ~」
でも……
でも……
でもでも!
店長さんは黙々とパンを作ってます。
わたしは恩返しだけじゃ満足できませんよ。
そう、やっぱりお嫁さんになるのが夢です。
そしたら死ぬまで一生お世話したりされたり。
かわいい赤ちゃんだってたくさん産んじゃいます。
それでこそ、雑誌で勉強したことが役に立つ時!
「おはよー」
いきなりコンちゃん登場。
いつものスケスケ寝巻きで目をこすりながら、
「ごはんまだ?」
店長さん早速嫌そうな顔。
でも、コンちゃん店長さんに抱きついて、
「もう、遠慮せんで触ってよいのに」
「こ、コンちゃん……」
「胸の柔らかさは、生地の柔らかさじゃろう」
コンちゃんすごくスキンシップ上手です。
でも、わたしのどら焼き級ではあの手は使えません。
店長さんとコンちゃんがケンカを始めたので逃げてきました。
まだ薄暗い村の朝。
祠を掃除して、今日もパンが売れるのをお願いします。
でも、祠の主がスケスケ寝巻きなのを思い出すと、ご利益疑っちゃいます。
いつも掃除している祠は石で出来ています。
こけ生していて、すごく年代モノっぽい。
「……」
中をあんまり見た事なかったけど、白いキツネの人形がありました。
コンちゃんも美人さんだけど、白いキツネの人形もすごく綺麗です。
焼き物みたいで、すべすべ。
でも、ずっと置きっぱなしだったみたいで、ちょっと汚れてます。
雑巾で拭いちゃえ……って思ったけど、それはさすがに。
ハンカチで綺麗にしましょう。
磨いたらピカピカになりましたよ。
「毎朝感心だねぇ」
あ、豆腐屋さんのおばあちゃんです。
「今日は中も掃除です」
「綺麗にすると、お稲荷さまも喜ぶよ」
「ねぇ、おばあちゃん」
「なんだい?」
「このお稲荷さまは、本当にご利益あるんでしょうか?」
「うん、なんで?」
「だって……わたしは頑張ってお仕事してるつもりだけど、村はダムに沈んじゃうって」
「ああ、工事は中断だからね、再開したら沈むだろうね」
おばあちゃん、壊れたダムを見て、
「なんでもダンプが飛んだり爆発してあんなになったんだって……」
コンちゃんの仕業なんだけど……
確かにコンちゃん「あーゆー能力」はあるみたいなんだけど……
商売の方はどうなんでしょう……
いつもお店でぼんやりしてるだけだし……
わたし、正直言うと信じられません。
この間の鶴の恩返しを根に持っている訳じゃないけど。
「ふふ、あんたが掃除してくれるから、きっとそのうち、ご利益あるよ」
「そうかなぁ……」
「パン屋だってあんたや髪の長いのが来てから、ずいぶん繁盛してるじゃないか……おかげで豆腐屋も儲けさせてもらってるよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「だから、毎日掃除して、しっかり働きな」
じゃ、おばあちゃんの言うのを信じる事にします。
でもでも!
「おばあちゃん……あの……」
「?」
「このコンちゃ……お稲荷さまと、切られたご神木、どっちが強いの?」
「ご神木かのう……でも切られてしまったしの」
「そうなんだ……」
「あと、山の頂上に祠があるのも、霊験あらたからしい」
「ふえ、山のてっぺんですか」
「うん、あれはずいぶん昔から祀られてるらしいからの」
「何の神さまなんです?」
「さあ……山の神さまって聞いてるよ」
「山!」
「山の神だから、ご神木もお稲荷さまも、全部その中だしね」
「それは強そうですね!」
おばあちゃん行っちゃいました。
山のてっぺんを見ると、何本か高い木が見えます。
祠の神さまは……コンちゃんはまだスケスケ寝巻き。
ご神木は……切られてただいま成長中。
山の神さまにお願いしたら、村がダムに沈まないですむかな?
じゃ、とりあえず手を合わせてお祈りしましょう。
「村がダムに……」
何かが割れる音がしました。
そう、お稲荷さまの人形を持ってるんでしたよ。
すっかり忘れて、落として……
……割れちゃってます!
「コンちゃんっ!」
真っ白なお稲荷さまは、お腹のところで真っ二つ!
わたし、背中が汗アセです!
壊れた二つを合わせてみても……直ったりしません。
わーん、どうしよう!
と、とりあえず……持って帰りましょう。
そして接着剤で着けちゃうんです。
きっとそれで直ってくれる筈!
「ううう……」
お店に戻ってみたら、コンちゃんがうなされてます。
「ああ、コンちゃんっ!」
「うう……」
「どうしたんですか!」
「なんだか、お腹が痛い……」
店長さんを見ると、
「うん、なんだか急にお腹が痛いってさ」
うわ、きっとさっきお稲荷さまの人形壊しちゃったからです。
コンちゃん額から汗だらだらでつらそう。
「コンちゃん……」
わたし、言いたいけど、とても言えないよ。
でも……人形をなんとかしないと、コンちゃん死にそう。
「店長さん、どうしたら……」
「うん……病院って思ったけど……」
「病院!」
「だってコンちゃんキツネだし、しっぽもあるから、病院なんて連れていけないよ」
「そ、そうですか……」
「ポンちゃん、なんとかならない?」
え!
まさかわたしがコンちゃん壊したの、もうばれてるの?
「ななななんでわたしに聞くんですっ!」
「だ、だって同じ動物仲間」
ああ、なんだ、別にばれたわけじゃないんだ、よかった。
でも、原因はわたしなのは確かだし、なんとかしなきゃ。
「うーん」
「ポンちゃん、何かないの?」
「店長さんに言われると……」
「ポンちゃんはお腹が痛い時とかどうしてたの?」
「お腹が空く事はあっても痛くなるなんて……」
思い出しました。
お母さんから習った事がありますよ。
薬草を使えばいいんです。
でも……薬草じゃ治らないよね、きっと人形を直さないとダメ。
「店長さん、わたし薬草を採ってきます!」
「さすがポンちゃん!」
「それまで、コンちゃんをお願いします」
「わ、わかった!」
わたし、すぐにお店を飛び出します。
こっそり瞬間接着剤も持ってきます。
これでひっつけて直ればいいんだけど……無理だろうなぁ。
でも、わたし、ちゃんと考えてるもん。
さっきおばあちゃん言ってました。
山のてっぺんには、すごい山の神さまがいるんです。
きっとお願いしたら、聞いてくれる筈ですよ。
そう思ったら、すぐにお店にバック。
「ぽ、ポンちゃんどうしたの!」
「店長さん、お金とパンを少し分けてください」
店長さんがお財布をくれます。
そしてコンちゃんサイズのメロンパンをゲット。
「い、いいけど……お金……薬買うの?」
「いいから!」
「メロンパン……なんに使うの?」
「いいから!」
お金はお賽銭でパンはお供えです。
でも、今そんな事、とても言えない。
お稲荷さまの人形の事を言ったら、コンちゃんショックで死んじゃうかもしれません。
今はきっと、黙っている方がいいんです。
わ、わたしのせいにされるのも嫌だし。
ともかく走ります。
山のてっぺんはすぐそこ!
山のてっぺんはすぐそこ……
なんて思ったら……
すごく遠かったです……
近くに見えてもずっとのぼりなんだもん!
でも、おばあちゃんが言ってたところまで道はあるみたいです。
「と、遠い……わたしタヌキの時に来た事なかったし」
水筒とか持ってきてなかったから、喉がからから。
山のてっぺんは小さな公園になってました。
木が切られて見晴らしがよくなってます。
でも、峠を通る車は通り過ぎるだけで、止まって休憩とかしません。
お店がないからかな?
「山の神さまの祠があるって言ってたけど……どこ?」
ぐるりを見回すけど、見当たりません。
でも、よーく見ると立て札発見。
森の中に入ると鳥居もありました。
祠って思ってたら、小さな家くらいの社です。
鈴をカラカラ鳴らして、お賽銭を入れて、お供えセット。
二礼二拍そして二礼です!
確か最後は一礼でよかったはずだけど、一回おまけ。
「コンちゃんの人形を直してくださいっ!」
「いらっしゃ~い」
「!!」
「コンちゃんの人形ってなんですか?」
社の中から着物の人が出てきました。
長い黒髪の女の人です。
そういえば……コンちゃんも最初登場したときはこんな着物でした。
最近はメイド服(制服)かスケスケ寝巻きが多いけど、最初はこんな感じ。
「あわわ……」
「何年ぶりかのお客さんですから、お願いかなえますよ」
「え、えーっと、これです」
真っ二つの人形を出します。
女の人はそれを手にして、
「割ってしまったんですね、これなら私の能力でポンと」
女の人は二つになったコンちゃん人形をすっと近付けます。
一瞬人形が光って、なんと直ってしまいました。
女の人はそれを社の奥の鏡の前に置きます。
「あとはここの神器の鏡のそばに置いておけば、完全に直ります」
「あ、ありがとう!」
「どういたしまして」
「わたし、お掃除していて壊しちゃったら、コンちゃんも具合が悪くなっちゃって、どうしていいかって!」
「これ……お稲荷さまですね?」
「はい、コンちゃんっていいます」
「タヌキさん、お友達思いですね」
「一応わたしがお店では先輩ですから」
わたし、なんだか人形が直ったら安心しました。
女の人、お供えのメロンパンを一つくれます。
そしてお茶も出てきました。
「一緒に食べましょう、その方がおいしいし」
「ここまで来るのに走ったから、喉もカラカラです」
「熱いから気をつけて」
熱々のお茶を飲んで、メロンパンを食べたらすっかり落ち着きました。
山のてっぺんの眺めは最高です。
村やダムがすごく小さい。
峠の反対側は街が見えます。
あそこには七つの傷の男がいて危険なの。
「で、タヌキさんのお願いを叶えたから、私からもお願いがあります」
「え? わたしにお願いするんですか?」
「私は山の神さまです……でも、退屈で退屈で……」
「はぁ……」
「私をあなたの家に連れていってくれませんか?」
「え……なんで!」
「だから、退屈だから」
「えーっと」
わたし、神さまを見ます。
黒い長い髪はすごく綺麗です。
お顔もなんだかコンちゃんとは違った魅力。
そして胸が大きいです。
着物の間からちらちら谷間が見えるだけで大きさわかっちゃいます。
この人を連れていったら、コンちゃんだけで気が気じゃないのに、店長さんの気持ち持っていかれそうです。
「あ、私、そんな人の恋人盗ったりしませんよ」
「え……気持ちがわかるんですか?」
「神ですから」
「やっぱりダメです、家は狭いんです」
「ウソはいけませんよ」
「……」
「お供えのメロンパン食べましたね」
「え……だって神さま食べていいって」
「お茶も飲みましたね」
「そ、そんな!」
「神の能力を使ったんだから、安くないんです」
な、なんだか脅迫・言いがかりじみてます。
「私を連れていってくれないなら、結界を張ってあなたにここにいてもらいます」
け、結界ってなんでしょう。
神さまムニュムニュ言い出すと、周囲に光の膜みたいなのが出来ます。
「さあ、連れていってくれないと、結界から出れませんよ」
この光ってるのが結界だそうです。
出れないのかな?
手で押してみると、スカスカです。
「?」
おっかなびっくりで、どんどん進んでみます。
光の膜は何事もなかったかのように通過。
「え……なんで結界を通り抜けられるの?」
煙みたいなものなのかな?
そこにあるのはわかるけど、なんでもない。
出れるなら、さっさと帰っちゃいましょう。
「じゃ、神さま、さようなら、ありがとう」
「ちょ、ちょっと待って!」
「嫌です、夕飯までに帰らないと怒られるもん」
「むー、言うこと聞かない人には『神の呪縛』」
神さまから何か伸びてきます。
光の縄みたいな……わたしの体に巻きつくけど、これもスカスカ。
「じゃ、さようなら」
「むー、じゃ、今度はゴッドアロー」
日本の神さまと思うけど、なんだかカタカナな必殺技。
神さま光る弓を引いて、光る矢を発射。
でも下手くそで全然当たりません。
「あ!」
一発当たった……と思ったら何事もなく通過。
「あの、神さま……」
「なんで! ゴッドアロー当たったのに!」
「神さまの技は、全部はったり? 綺麗だけど!」
わたしなんだかおかしくなっちゃいました。
コンちゃんの人形もあてになるのかなぁ……
「むー、じゃ、今度はライトソード」
どうせ当たらないから、黙って立ってます。
光る刀がわたしを袈裟斬り……って通り抜けちゃいます。
「はい、残念でした」
「うう……そんな……神の能力が通用しません……クスン」
わたし、帰ろうと思ったけど、神さまうずくまって泣いてます。
なんだかかわいそう。
どうせこんなに弱い神さまだから、連れて帰っても大丈夫かな。
「じゃ、店長さんを惑わせないなら、連れていってもいいですよ」
「え! 本当!」
「あと、お店じゃわたしが先輩なんだから!」
「はい、先輩!」
新しい後輩の誕生です。
神の能力は弱いから大丈夫だいじょうぶ。
でも、わたし、すでに神さまに弱みを握られていたんです。
山の神さま、結局お店までついてきちゃいました。
店長さん見た瞬間嫌そう。
わたしも怒られるって思ってたんだ。
そんな神さまがいろいろ語りますよ。
どんな神さまか、次回をおたのしみに~