表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

第8話「店長さんにアタック」

 わたしは店長さんに恩返しできてるんでしょうか?

 いつもお店で働いているけど、売上は大変みたいだし…

 テレビの取材も、なんだか失敗はわたしのせいとかなんとか…

 そんな迷える子羊タヌキだけどにコンちゃんが助けの手を!

 コンちゃんの出したのは「鶴の恩返し」…なんだけど…


「ねぇ、コンちゃん」

「なんじゃ、ポン」

 朝のパン屋さん。

 もうお店の方の準備は終ってて、あとは開店を待つばかり。

 わたしはコンちゃんの祠の掃除をやって、ご神木に水やり。

 コンちゃんは今、歯を磨いている最中です。

 朝のコンちゃんはスケスケな寝巻きなんだけど……

 髪はボサボサでセクシー半減です。

 歯を磨いている最中は、なんだかお腹を掻いたりしてますよ。

「コンちゃんその寝巻き、恥ずかしくない?」

「なんじゃ、これか?」

「うん……スケスケ」

「これがいいんじゃ、わかってないのう、ポンは」

「だ、だって……」

「これを見たら男どもはイチコロなのじゃ」

「でもでも店長さんには通用しませんよ」

「ふん、あーやって気のない素振りで実はちらちらとわらわを見ておるのじゃ」

「あ! それはあるかも!」

 わたしの手のジョウロから水がなくなります。

 コンちゃんの方を改めて見ると……正直目のやり場に困っちゃいます。

「店長さん怒ってるんじゃないです?」

「なんでじゃ?」

「だって、その格好はちょっと……どこ見ていいのか」

「ふむ、ポンはどこを見ていいのかわからんか……どこに目がいくかの?」

「そ、それは……その」

「ここか? 胸か? のう?」

「うう……胸とかお尻とか……」

「ポンもエッチじゃのう」

「こ、コンちゃんが聞いたのに!」

 コンちゃん腕でもって胸を強調するポーズ。

「店長は怒っている振りをして、わらわにぞっこんなのじゃ」

「そ、そんな~」

「ポンが結婚する前にわらわがゲット!」

「うう……」

 じっとコンちゃんを見ます。

 スタイルばっちりです。

 わたしが山で勉強した雑誌にも載ってたのに負けないプロポーション。

 コンちゃんにはかないませんよ!

「うう……」

「なんじゃ、ポン、いつもみたいに『コンちゃんなんかおばあちゃん』とか言わんのか?」

「うう……だってコンちゃんのスタイルが良いのは本当なんだもん」

「ああ、つまらん、ポンが怒るのが面白いのに」

「むー!」

 わたし、自分の胸を触ってみます。

 この間「どら焼き」って言われました。

 ずばりな表現です。

 でも、どら焼きよりはやわらかいと思うんだけど……

「なぁ、ポンよ」

 コンちゃんが口をよそぎながら言います。

「おぬしは店長に命を救われた……んじゃよな?」

「うん、お腹空いているところを助けてもらったから」

「それで、恩返しでここにおるわけなんじゃよな?」

「うん」

「で、ポンは恩返ししておるのか? 恩返し出来ておるのか?」

「!!」

「ポンは恩返しとは、どんな事と思っておるのじゃ?」

「そ、それは……」

 わたし、考えちゃいました。

 言われると、すぐに出てきません。

「そ、それは……」

「どうじゃ、ポン、おぬしの恩返しを言うてみい!」

「え、えっと……」

 わたしが山に捨ててある本で勉強した事……

 そう、男の人は女の子に胸をときめかせるんです……

 だから、女の子の姿になって恩返しに来たんです……

「わたしは捨ててある本で勉強したんですっ!」

「おお、で、どーするんじゃ!」

「そ、それは女の子なんでやっぱりセクシー!」

「は……」

「だ、だからセクシーで……セクシーで……」

 コンちゃんを見ると、開いた口が塞がらないみたいです。

「な、なんです! コンちゃんが聞いてきたから言ったのに!」

「い、いや、ポン、おぬしの口からセクシーなんて言い出すとは思わなんだ」

「え?」

「いや、ポンはもっと清純なのかと思ったが、おぬしもう処女ではないのか?」

「きゃー!」

「まだ……よのう?」

「わたしの初めては店長さんに捧げるんですっ!」

「ふむ……では、とっととセクシーで恩返しすればよいではないか」

「えっ!」

「わらわみたいに、スケスケで迫るのじゃ、持っておらぬなら貸すが?」

「そ、その格好をするのは……こっぱずかしい……」

「おぬし、何をするのか知っておろう、はずかしがるところか」

「そ、そんな~」

 わ、わたし捨ててある雑誌で勉強してるけど、やったことないもん。

「コンちゃんわたしにも出来る作戦ないですか?」

「むー、しょうがないのう、この狸娘は頭でっかちで困るわい」

 コンちゃん考えてから、一度お店に引っ込みました。

 すぐに一冊の絵本を手に戻ってきます。

 お子さま用の絵本。

「これ、読んだことあるかの?」

「ふえ?」

 見れば「鶴の恩返し」。

「これはお店の本棚にある絵本ですよね……読んだことないです」

「ポン、おぬし余計な知識ばっかりで、こーゆー基本がなってないのう」

「き、基本っ!」

「そうじゃ、この通りにするんじゃ!」

 パラパラめくって読んでみます。

 子供向けで字が少ないからあっという間におしまい。

「コンちゃん……わたしはタヌキで鶴じゃないから……飛んで行けません」

「バカかおぬし、恩返しのところが大事なのじゃ」

「え……毛で織物なんかしたら風邪ひいちゃいます」

「痛い……じゃないのか?」

「そ、それは痛いけど……」

 わたし、やっぱりわかりません、鶴じゃないから!

「むう、ポンは本当に世話がやけるのう……」

「だ、だって~」

「よし、わらわが手本を示してやる」


 夜、夕飯が終ってお風呂も終りました。

 テレビを見て、あとは寝るだけです。

『コンちゃんお手本は?』

『うむ、今からやるから、よく見ておけ』

 わたしとコンちゃんは一緒のソファーで、店長さんは向かいのソファー。

 コンちゃんが立ち上がって、

「うむ、もう寝るとするかのう」

「コンちゃんおやすみ」

「店長も一緒に寝るかの?」

「うんにゃ」

「てれずともよい」

 コンちゃん言いながら、一人お布団の部屋に向かいます。

 ふすまを開けて、隣の部屋へ、

「店長、そんなに女の誘いを断るとは……」

「女っても、お稲荷さんだし……」

「ふん、恥をかかせおって……クスン」

 あれれ、コンちゃん泣いてますよ。

 目をこすりながら、

「謝っても、ゆるしてあげないんだから!」

 なんだか言葉遣いもいつもと違います。

 ふすまが閉まって、わたしと店長さんだけ。

「店長さん、コンちゃん泣いてましたよ」

「なんだかウソ泣きっぽかったけどな~」

「見にいかなくていいです? へそ曲げてるかも!」

「……」

 店長さん、なんだか浮かない顔で立ち上がると、ふすまを開けます。

「コンちゃんなにを……」

 ふすまの向こうには、裸のコンちゃん!

「店長……わらわは裸を見られたからには……もう」

「……」

「責任取って!」

 コンちゃん瞳をウルウルさせて、店長さんに抱きつきます。

 う、うまい、こーやって店長さんのハートをつかむのか!

 ふすまを閉めていて、開けるといきなりで、逃げられないのがミソみたいです。

「好き……」

 コンちゃん瞳を閉じて、店長さんの背中に腕を回してます。

 ああ、いいな~、わたしもあんなに抱き合いたい。

 店長さんも、コンちゃんの背中に腕を回しました。

 こ、恋人みたいですよ。

「ぐえ……」

 でも、なんだかカップルの台詞には合っていない声がしました。

 見ればコンちゃんぐったりしてます。

 店長さんそんなコンちゃんにパジャマを着せて、お姫さま抱っこして、布団に寝かせちゃいました。

「て、店長さんどうしたんです?」

「コンちゃんいつもふざけてばっかで……こう、ぎゅっと抱きしめて気絶させたの」

「この間もやってましたね」

「ポンちゃんもやってほしい?」

 わたしブンブン横に首を振ります。


 でもでも、なんとなく作戦はわかりました。

 ふすまを開けさせるのがいいみたいです。

 開けたら「言いがかり」をつけて、既成事実完成。

 わたしも作戦実行するしか!

「店長さんおやすみなさい」

「ポンちゃんおやすみ」

「店長さん、わたしが部屋に入ったら、ふすまを開けてはいけません」

「……」

「ではでは、おやすみなさい」

 ふふふ、「鶴の恩返し」だってそうです。

「開けたらダメ」って言われると、開けたくなるんですよ!

 ふすまを閉めて、あとは店長さんを待つばかり。

『ポン、うまく持ち込んだの!』

『コンちゃん起きてたんです?』

『うむ、なんだか寝かされたところで目が覚めた……どうなったかさっぱりわからん』

『そうですか』

『しかしさっきの台詞だけで店長が来るかの?』

『ダメって言われたら、やりたくなるものなんです!』

『おお、ポンもなかなかやるのう』

 あ、店長さんの足音が近付いて来ます。

 早く脱がないと……でも、はずかしいから下着は着てよう。

「ポンちゃん!」

 ふすまが開きます。

 店長さん、隣の部屋の明かりを背にシルエット。

「ててて店長さん開けちゃいましたね!」

「……」

「わわわわたしは正体を見破られたからには……」

「鶴の恩返しだと、出て行かないといけないんだよね」

 シルエットだった店長さんの顔が見えてきました。

 笑ってるけど、ひきつってて、怒ってます。

「え……わたしコンちゃんから既成事実って」

 と、とりあえずコンちゃんのせいにしちゃえ。

「わらわはそんな事言ってな~い!」

 コンちゃん起き上がって大否定。

 店長さんの肩が震えてます。

 にっこり笑顔の額に「怒りマーク」。

 そんな「怒りマーク」がピクピクしながら大きくなります。


 村の夜は暗いです。

 お店の前なんか駐車場で、本当に真っ暗。

 わたし、コンちゃんと一緒にお店のドアの前。

「ポン、おぬしのせいで追い出されたではないか!」

「こ、コンちゃんの言う通りやっただけだもん!」

「おぬしなんか好かん!」

「わ、わたしだって!」

 でもでも、離れられません。

 だって山の夜は寒いんです。

「ねー、コンちゃん、なにか別の作戦はないんですか?」

「むー」

 コンちゃん考える顔をしてから、

「大きなつづらと小さなつづらの話なんかどうかの?」


 祠の神さまはコンちゃん…

 村のご神木さんは、今は枝になっちゃってます…

 わたし、おばあちゃんに他に神さまいないか聞きました。

 なんでも山のてっぺんに、別の神さまがいるらしいです。

 そんな神さまに手を合わせたら、わたし、とんでもない事をやらかしちゃいます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ