第6話「ダム壊れちゃった」
電光石火、コンちゃんのお尻をタッチ。
にやりとする監督さん。
ぱちくりとするコンちゃん。
「いつもは座ってて、触ることもできねーからな」
この後どーなるか、わかりますよね?
今日の仕事も終わり。
「今日はもう終わりました」の札をドアに下げます。
「なぁ、ポンよ」
テーブルの方から声。
コンちゃんはティーカップを片手に、目で「こっちに来い」って言ってます。
「コンちゃん……」
「どうした、ポンよ、元気のない」
「コンちゃん……」
「心臓マッサージでもしてやろうか」
「……」
怒ってる視線送っちゃいます。
「な、なにもそんな目で見ないでもよいではないか」
「コンちゃん仕事しないし、ふざけてばっかりです」
「わらわがこうしていると、ポンの仕事っぷりが良く見えるじゃろう」
「コンちゃん……コンちゃんダムが出来たら死んじゃうんですよ」
「運命じゃ」
「わたし、嫌です」
「おぬしもお人好しじゃな、わらわが死ねば、店長はおぬしのモノだ」
「そんなの、コンちゃんがいてもいなくてもわたしのモノだもん」
「くく……ポン、言うな、おぬしも」
「コンちゃんとちがって、わたし、若さがあるもん」
「胸はないな」
「若さ」
「ほれほれ」
コンちゃん胸を強調ポーズです。
くく……くやしいっ!
「わらわも、あの男に充分な容姿で……」
「コンちゃんなんか平家時代のおばあちゃんがにじみ出て……」
途端にコンちゃんの髪がうねうねヘビみたいに動き出します。
「なんじゃ、もう一度言うてみ」
「だ、だって、コンちゃんが先に胸って!」
「言うただけじゃ」
「もう!」
「今朝は祠で手を合わせてくれたな」
「!!」
「ポンの気持ちはよくわかった」
「コンちゃん……」
「でもな、ダムができれば村も沈む」
「……」
「運命なんじゃ」
「コンちゃん……」
涙がこみ上げてきます。
コンちゃんが、背中をトントンしてくれました。
そして新しい一日。
祠をお掃除して、お店を準備して、今日も頑張ります。
おばあちゃんも言ってたから、ともかく売るんです。
「おお、ポン、何を力んでいるんじゃ」
「わたし、パンをたくさん売るんです」
「ほう」
「そして、このお店を大きくするんです」
「ふむ」
「お城みたいに大きくして、そしたらダムに沈みません」
「ぷ!」
「あ、コンちゃん笑いましたね!」
「い、いや、ポンらしいと思って」
「今のわたしに出来るのは、そんな事です」
「まぁ、頑張るがよい」
「ふふ、わたしの頑張りに、コンちゃんもびっくりします」
「そうだ……昨日そんな事を話したな」
「ふえ?」
「わらわが何もせぬ……ポンは言うたな」
「うえ……」
「ふざけてばっかりとか……言うたな」
「そ、それは、その、成り行きで……」
「よーし、わらわも働くとしよう、ポンと勝負じゃ」
「え!」
「どっちが余計に売れるか勝負じゃ」
「え、えっと……どうやって……」
「ポンとわらわのどっちの前に並ぶかでわかるじゃろう」
そ、そんな反則です。
セクシーじゃコンちゃんの勝ちですよ!
ああっ、コンちゃん笑ってます。
「ふふ、若さとやらで、売ってみるがいい」
こ、こっちの気持ち、筒抜けです。
「ふふ、その服で不足なら、バニーさんや水着姿にしてやろうか?」
「ええっ!」
「ふふ、わらわの神の能力を持ってすれば、たやすいぞ」
コンちゃんが腕を振ると、わたしのメイド服が水着になります。
「わわっ!」
「くく……ポンの体型では、酷かの」
またコンちゃんが腕を振ります。
今度はわたし、バニーさんです……タヌキなのに。
「コ、コンちゃんっ!」
「なに、まだ不満か、かわいいのに……そうか、胸か!」
コンちゃんが腕を振ると、胸が増量……詰め物が入ります。
「さて、これでハンデもなしじゃ、勝負勝負!」
すると、轟音がして、ダンプが店の前に並びます。
いつもは夕方に来る工事現場の人が、ぞろぞろやってきました。
ドアが開いて、カウベルがカラカラ鳴ります。
「今日は朝から来たぜ~」
現場の人たちは、ぞろぞろ入ってきます。
パンを選んで回る人たち。
『ココココンちゃんっ!』
わたし、コンちゃんに目で言います。
『この服、なんとかしてくださいっ!』
『なんじゃ、不満か?』
『ちょ、ちょっと恥ずかしい……』
『なかなかセクシーじゃぞ、若さは良いのう』
『わわわわたしはいつもの服の方がいいですっ!』
『てれずともよい』
『ももも元に戻して~』
『今は客もおる、後にせい』
『むー!』
いきなり脚にさわさわと……コンちゃんが触ってます!
『あー、若さとは、良いのう』
『コンちゃんなに触ってるんですっ!』
『ポンのひけらかしてた若さにあてられておるのじゃ』
『もう!』
そんな事をやってるうちに、一人目が並びます。
コンちゃんの前です。
みんな、わたしを一度は見ます。
でも、なんでかコンちゃんの前に並んじゃう。
な、なんで?
「おぬしら、なんでこっちに並ばん、さばけんじゃろうが」
「い、いや、さすがにバニーさんは、ちょっと……」
うう……この格好はマイナスみたいです。
がっかり……せっかく恥ずかしい格好したのに。
この勝負、もうコンちゃんの勝ち確定ですよ。
せめてお手伝いに、パンを袋詰めにしちゃいます。
「今日はツンデレメイドじゃないな」
現場監督さんが、コンちゃんに言います。
「まぁ、気分転換にな」
「相変わらず口のききかたは……」
監督さん、にこにこしながら、こそっと手を動かしました。
電光石火、コンちゃんのお尻をタッチ。
にやりとする監督さん。
ぱちくりとするコンちゃん。
「いつもは座ってて、触ることもできねーからな」
わたし……袋に詰める手が止まっちゃいました。
隣でレジを打っているコンちゃんが、ぷるぷる震えています。
こ、この空気は、地震や噴火の前触れそっくり!
「おーぬーしーらー!」
「!!」
監督さんも、空気を察したみたいです。
でも、もう遅いよ。
コンちゃんの髪、いつにも増してうねってるもん。
「よくも、わらわのしっぽに触れたな!」
「し、しっぽ!」
「神の祟りを受けよっ!」
コンちゃんの手が、固く握りしめちゃって、横に振られます。
お店の中にそよぐ風。
でも、店の外に並んでいるダンプはまるでホームランみたい。
「人間風情が、おそれを知らぬな」
コンちゃんがまた手を振ると、お店がカタカタと揺れはじめます。
地震ですよ、これもコンちゃんパワー?
監督さんも、現場の人たちも、一斉に逃げ出しました。
「逃がすものかっ!」
ああ、コンちゃん必殺の心臓マッサージ。
この心臓マッサージは「蘇生」じゃなくて「必殺」です。
途端に駐車場でうずくまる人たち。
「コンちゃんコンちゃん、死んじゃうよ」
「かまわんっ!」
「ててて店長さんが、たぶん迷惑!」
「ぬう……」
とりあえず、心臓マッサージは中断。
でもでも、うずくまってる人たちはピクピクして動けないみたいです。
「あー、もう、気が収まらんっ!」
「ちょ、コンちゃんなにをっ!」
「ふんっ!」
コンちゃんがパンチ!
窓の外に見えていたダムが爆発!
「あ、あわわ……」
「あー、すっきりした、よくもしっぽを触りよって、あれに触れてよいのは店長くらいなものじゃ」
店がうるさいのに、店長さんパン工房から出てきました。
「うるさいよ、二人とも、お客さん来てたみたい……」
そこまで言って、店長さん固まっちゃいます。
窓の外の景色が……ダムが、山が壊れてます。
わ、わたしだって、びっくりです。
店長さん真っ青になって、
「こここコンちゃん、なにやってんの?」
「あのむさくるしい連中が、わらわのしっぽに触ったから懲らしめたのじゃ」
コンちゃん頬を膨らませて、指をさっと振ります。
まだ残っていたダムが、ヒーロー番組みたいに爆発。
山も轟音を響かせ、揺れ揺れです。
「やめやめやめっ!」
「おぬしも邪魔するかっ!」
コンちゃんが宙を揉むと、店長さん悶え苦しみます。
こ、こんな時は、
「こ、コンちゃんっ!」
「なんじゃっ!」
「いなり寿司がありますよ!」
「きゃーっ!」
コンちゃん恋する少女の瞳です。
すごいご長寿なんだけど。
「はやくはやく!」
「……」
「い・な・り・ず・しっ!」
「ごめん、ウソ」
わたし、一目散に逃げちゃいました。
ウソも方便って言葉があるんですよ。
ダムも壊れて、祟りもあるから、工事は中断です。
村はまた、のんびりした時間が過ぎています。
わたしは七つの傷の伝説が嫌だったから、いいかな。
それにコンちゃんも生きているし、店長さんも一緒だもん。
「この店にはウソつきがおる」
コンちゃんはこの間から、へそを曲げてます。
でも、働かないのは一緒だよ。
店長さん怒って、
「この女狐がっ!」
「おう、おぬし、逆らうか!」
テーブルでお茶を飲んでいたコンちゃん、店長さんにらんで心臓マッサージです。
店長さん、目をつむって手鏡シールド。
「ほら、呪いの反射!」
鏡に……コンちゃん目が点になって、胸を押さえて苦しみだします。
「ぐぐぐ……し、死む!」
コンちゃん心臓マッサージやめればいいのに、変なの。
そんなお店のカウベルが、カラカラ鳴ります。
綺麗なお姉さんと、男の人が何人か。
現場の人たちとは違うけど、サングラスでちょっとこわい感じです。
まぶしい光に包まれる店内。
「いいいいらっしゃいませ~」
わたし、またこわい思いするかと……どきどきだよ。
「今回の突撃名店試食レポートはっ!」
お店にやってきたのは、テレビ局なんだって。
村がちょっとでも、にぎやかになってくれたらいいな。
わたしは、ちょっとは役に立ったんでしょうか?
ねぇねぇ!
店長さんはお店の売上が上がらないのに困っているご様子。
この間テレビの取材も来たけど、まだまだみたい。
そんな時に、テレビで温泉のことが話題になりました。
この村にも温泉があると、人が来るんだって。
わたし、工事現場の人に温泉ないか聞いて来よ~っと。