第5話「街には危険がいっぱいです」
コンちゃん語ります。
「わらわは歴史が違うのだよ、歴史が」
「わらわは平家の落ち武者に封印されたのじゃ」
「それだけ永くこの地に封じられているのだ……今更移す事などかなわぬ」
コンちゃんダムが出来たら本当に死んじゃうの?
「店長さん、ここがダムになったら、コンちゃん死んじゃいます!」
「は?」
「今日はもう終わりました」の札が下がっているドア。
お店にはわたしと店長さんと、コンちゃんはテーブルで眠ってます。
「朝、話したら、コンちゃんは死んじゃうって言ってました」
「はは、まさかまさか」
「うう……店長さんコンちゃんが死んでも平気なんですか?」
「いや、コンちゃん死なないよ」
「ふえ?」
「祠は移動できるんだよ、神主さんとか来て、お祓いして、別のところにね」
「じゃあ、コンちゃん死なないで済むんですね!」
「いっつもケンカしてるのに、どうして心配するかなぁ」
店長さんはにこにこしながら、頭をなでてくれます。
「どうせコンちゃんまた俺らをだまして……」
「ウソなど言っておらぬ」
「!!」
いつの間にかコンちゃん起きてます。
眠そうに目をこすりながら、
「祠がダムに沈めば、わらわは死ぬ」
「またまた」
「本当じゃ……おぬし、さっき移せると言ったな」
「そうだよ、神社なんかも移動してるし」
「わらわは歴史が違うのだよ、歴史が」
「は?」
「わらわは平家の落ち武者に封印されたのじゃ」
「へいけ……」
「それだけ永くこの地に封じられているのだ……今更移す事などかなわぬ」
コンちゃん、言うと行っちゃいました。
でも、トイレです。
「ねぇねぇ、店長さん、やっぱりコンちゃん死んじゃいますよ!」
「ああ、なんか本当みたいだね」
「なんとかならないの?」
「ダム工事をやめるなんて出来ないし」
「やっぱりコンちゃん死んじゃうんです?」
「うう……そうなるのかなぁ」
「店長さんはいいんです?」
「っても……なぁ」
夜……コンちゃんはもう寝ちゃいました。
「店長さん……」
「ポンちゃん……まだ起きてるの」
「店長さん、コンちゃん助からないんですか?」
「しかたないんじゃ……ないのかな」
「店長さんは平気なんですか」
「嫌だけどさ……話を聞いてるとなんとも……」
「薄情ものっ!」
「ポンちゃん言うね」
「だって!」
「ポンちゃんは俺の事、好きなんだよね」
「え……ええ……はい、結婚して」
どさくさにまぎれて言っちゃえ。
「コンちゃんがいなくなったら、好都合じゃないの?」
「!!」
「ねぇ?」
「でも、そんなの、嫌です」
「ふーん」
「コンちゃん死んじゃうの、なんか嫌です」
「でも、コンちゃんとポンちゃん比べたらコンちゃんだよね……」
「店長さんっ!」
「はいはい、怒らないで怒らないで」
「もうっ!」
「でも、ダムができるのはどうしようもないんじゃないかな」
「うう……そうなんですか」
「ポンちゃんも、もしかしたら死ぬの?」
「わ、わたしは変身はっぱで変身してるから、関係ないです」
「じゃあ、ポンちゃんは一緒に街で暮らせるかな」
「そ、それってプロポーズ?」
「違う」
「うえ……」
店長さん、即答です、ぐっすん。
「コンちゃんと違って働き者だからね」
「えへへ、恩返しですから」
ふと……思っちゃいました。
「店長さん、街って、どんなところです?」
「え?」
「村が無くなったら、その街で暮らすんですよね、一緒に」
「うん……だね……街を知らないの?」
「だ、だってわたし、ずっと山暮らし……タヌキだったし」
「だって……人間の事詳しいよね」
「それは、捨ててある雑誌で勉強してるんです」
それは不法投棄というヤツらしいです。
わたし、そこでいろいろ勉強しました。
だから、大人の恋だってばっちりです。
「ポンちゃん雑誌で読んだ事ないの?」
「!!」
思い出してみます。
雑誌だと、街というところには、人がいっぱいいるんです。
「そう、わたしはちゃんと勉強してますよ」
でも、思い出してみても、捨ててあった本にはこわい話ばっかりだったように思います。
特に覚えているのは、七つの傷を持つ男の伝説。
「て、店長さんっ!」
「な、なに?」
「街には人がいっぱいですよね?」
「だね」
「モヒカン頭の悪者が跋扈してるんですよ」
「そ、それは何を見たのかな?」
「な、七つの傷を持つ男はいますか?」
わたし真剣。
店長さんはうつむいて、丸めた背中震えてます。
「ねぇ、店長さん、七つの傷の男は?」
「ああ、い、いるよ、パチンコ屋さんに」
「店長さん、街に行くのやめましょう、パチンコ屋さんは危険です」
「ポ、ポンちゃん……」
「店長さん、街は危険でいっぱいです、わたしここがいいです」
「もう……何を勉強してきたのやら……」
「ねぇ、行くのやめましょう!」
店長さん真剣に聞いてないです。
思い切りゆすっちゃえ。
「ねぇねぇ!」
「まぁまぁ」
「店長さんっ!」
「うん……」
あ、店長さん、考える顔になってくれました。
「ねぇねぇ」
「そうだね……俺もここで生まれたし、家を出るのは、本当は嫌かな」
「じゃあ、行くのはやめですね?」
「っても、ダムを作るのをやめるって訳にいかないし」
「どうにか……ならないんですか?」
「そうねぇ……」
「店長さん……」
もう、店長さんゆすっても、何も言ってくれません。
やっぱり、街に行かないとだめなのかなぁ。
朝のお勤め、祠にお参りです。
「あら、またあんたかい」
「おばあちゃん……」
「毎日感心だねぇ、お稲荷さまも喜んでいるよ」
多分、寝てますよ。
おばあちゃん、祠に手を合わせてます。
「ねぇねぇ、おばあちゃん」
「なんだい?」
「わたし、ここにずっと住んでいたいな」
「ふうん、住めば?」
「だってダムが」
「ああ……」
おばあちゃん、考えてます。
「ダム作ってるからね、出来たら村は沈むね」
「でしょ」
「しかたないよ」
「わたし、嫌だな」
「そう言ってもねぇ」
「なんとかなりませんか?」
「でもな……この村には何にもないよ、山の中だし」
「街はこわいんですよ」
「それはそうかも知れないねぇ」
「わたし、ここがいいな」
「ふむ……こういう時は神頼み」
おばあちゃん、祠に手をあわせてムニュムニュ言います。
「あんたも拝むんだよ」
言われたから拝みます。
でも、肝心の神さまは、たぶんまだ寝てますよ。
スケスケの寝巻きで。
「あの、おばあちゃん」
「なんだい?」
「あのあの、わたし、神さまを信じない訳じゃないけど」
でも、この祠の神さまは、ちょっと不安です。
まだ寝てる訳ですし。
「わたしでなにか、出来ないかな?」
おばあちゃん、急に笑顔になります。
わたしの手をつかまえて、ギュっと握ると、
「あんた良い娘だね、私でももう村を諦めてるっていうのに」
「だ、だって~」
「あんたはパン屋の娘だから、しっかり仕事しな」
「それで、いいんですか?」
「今のあんたには、それしか出来ないだろ」
「ふえ……それでいいなら、頑張ります、どんどん売ります」
「そう、それでいいんだ、精一杯生きる、今はそれしかないよ」
「ふええ」
おばあちゃん、握った手を揺すります。
「神さまは、ちゃんと見ててくれるからね」
「……」
その神さまは、多分まだ夢の途中ですよ。
次回はついにわたしもバージョンアップ。
「ふふ、その服で不足なら、バニーさんや水着姿にしてやろうか?」
コンちゃんの余計な能力でわたしは…わたしは!
今度はわたし、バニーさんです……タヌキなのに。
コンちゃん余計な能力だけはすごいんです。