第4話「コンちゃんも死ぬの?」
店長さんが帰ってきてよかった~
でもでも、また新しい問題発覚です。
村がダムに沈んだらお店ができないんです。
そこで店長さんは移動販売の車を準備するんですが…
それをコンちゃんが吹き飛ばしてしまうんですっっ!
「いらっしゃいませ~」
ドアが開いてカウベルがカラカラと鳴ります。
山の中のパン屋さん。
平日なのに、大繁盛。
それはわたしの「せくしー」……じゃなくて、単にダム工事の現場の人が買いに来てくれるんです。
「今日も買いに来たぜ、コンちゃんよ~」
作業着のおじさんやお兄さん達は、店のテーブルでぼんやりとしているコンちゃんにそんな挨拶。
コンちゃんは……いつも店内飲食スペースでくつろいでいます。
なんでも神さまなんだから、働いていられるか……なんだって。
「うむ、店のパンを買う事を許す、汗くさいから、早く済ませよ」
「わはは、コンちゃん『ツンデレメイド』板についてるな」
現場の人達はコンちゃんの口撃にもにこにこ顔で、パンを買うと行ってしまいます。
ダンプが轟音を立てて行っちゃうのは迫力満点!
「うむ、ポンよ、ちょっと……」
コンちゃんがテレビを指差しながら呼んでますよ。
なにかな?
「ポン、これを見い、これを」
「コンちゃんなんです?」
テレビの中では、女の人がお店を紹介しています。
「今回の突撃名店試食レポートは……ジャンボいなりで有名な……」
大きないなり寿司がアップで映ってます。
コンちゃん……うっとり見とれてますよ。
恋する乙女の瞳になってます。
「ポン……この大きないなり寿司を買ってくるのじゃ!」
「美味しそうですね……」
良い考えが思いつきました!
このお店も、テレビに出たら、きっともっとたくさんお客さんが来ます!
「ポンちゃんお疲れ、どう、全部売れた?」
店長さんがパン工房から出て来ました。
わたし小走りで向かっちゃいます。
「店長さん、また工事現場の人が全部買ってくれました」
「この辺で食べ物屋ここくらいだしね」
「全部売れると嬉しいですね」
「だね」
店長さんが頭を撫でてくれます。
褒められると、嬉しいな。
ここで勢い抱きついちゃえ……って思ったら、店長さんさっさと行っちゃいます。
モウ、乙女心を解ってないんだから!
店長さんはコンちゃんの席まで行くと、ゲンコツ投下です。
なんだか重い音がして、コンちゃんの頭から★3つ。
「うっ! おぬし、何を叩く!」
「コンちゃんお客さんになんて口きくかな~」
「あんな薄汚れた格好で店に入ってくる方がおかしいのじゃ」
「店員さんが席陣取って働きもしないでお茶してる方がおかしいっ!」
あわわ、店長さんとコンちゃんにらみあってます。
先に目を逸らすのはコンちゃん。
「ふん、わらわは山の神なのだぞ、おるだけでご利益てんこ盛じゃ」
「山の神かなんか知らないけどさ……」
「なんじゃ?」
「あれ、見える? 黄色い車、移動販売するの」
「?」
「ここがダムに沈むと、店なくなっちゃうだろ」
「ああ、うむ、そうじゃな」
「そしたら、あの車で公園なんかでパン売るの……そうしたら、もうコンちゃんみたいな働かないのはいなくていいな~」
うわ、なんだか今日の店長さん、感じ悪いですよ。
にやにやしてコンちゃんを見下ろしています。
コンちゃん、ムッとして見上げてる。
ああ、コンちゃんの肩がぷるぷる震えてます。
すごく嫌な予感が、予感が!
「なんじゃ、おぬし、わらわが要らぬとでも?」
「うん」
「ほう」
「働かない店員は出て行け~」
「いやじゃ」
「!」
「わらわはここにおるだけで、お稲荷さまパワーを与えておるのじゃ」
「ウソつけ」
店長さん怒った顔で、手が出ます。
別に叩いたりとかじゃないよ。
店長さんが手を出すと、それは「しっぽ」を掴むんです。
「ほらほら~」
「!!」
途端にコンちゃん真っ赤っ赤。
コンちゃんが腕を払うと、店長さんはひょいと避け。
「くくく……しっぽが弱点かわいい~」
「ぬう……おぬし『セクハラ』というのを知らんのか!」
「コンちゃん人間じゃねー!」
「!!」
また、コンちゃんの腕が払われます。
店内に一瞬、風が吹きました。
そして、窓の外で黄色い車が吹き飛んでいきます。
「!!」
「ふふ、車は飛んでいったぞ、どうする、移動販売できぬなぁ」
「コ、コンちゃん、なんて事を、もう怒った、出てけ!」
「くく……恩返しに『いてやってる』のに、なんという言い草!」
コンちゃん、今度は店長さんの方に手を差し出して、何か握るような仕草。
途端に苦しみ出す店長さん。
「人間風情が、しっぽを揉んだ罰じゃ!」
コンちゃんの指が宙を揉み揉みすると、店長さん胸を押さえてうずくまり。
「どうだ、苦しいか、わらわをバカにするからじゃ」
「ぐぐぐ……」
あわわ、店長さん死んじゃいそうです、なんとかしなきゃ!
「コンちゃんっ!」
「なんじゃ、ポン!」
「いなり寿司がありますよ!」
「な、なんじゃと!」
コンちゃんの目、少女漫画みたい。
とりあえずは、店長さん「呪」から解放されたみたい。
「はやくはやく!」
「……」
「い・な・り・ず・しっ!」
「ごめん、ウソ」
コンちゃんの髪がヘビみたいにうねうねします。
わたし、一目散に逃げちゃいました。
夜……コンちゃんがスケスケな寝巻きで登場です。
「うむ、山の夜は寒い故、おぬしを暖めてやる」
コンちゃんお風呂上りでいい匂いもします。
わたしだって、負けてられません。
「店長さんは、わたしと一緒に寝るんです!」
「ふん、ポンみたいなお子さまより、わらわの方がいいに決まっておる」
コンちゃん店長さんの左腕にしがみつき!
わたしだって右腕にしがみついちゃいます!
「わたしが一緒に寝るんですっ!」
「ポン、邪魔するでない」
「コンちゃんさっき店長さん殺そうとしてたのに!」
「あれはじゃれていただけじゃ」
「神さまなんだから、神さまらしくすればいいんです!」
「うむ……では、わらわは今はキツネの襟巻きという事でよい」
「!!」
「おぬしにまとわり着いて、暖めてやろうぞ」
コンちゃん、今度は店長さんの首に腕を回してます!
わたしはコンちゃんのセクシーにはかなわないよ。
あんなに胸が、大きかったらいいのにな。
でもでも、店長さんは、わたしの良さ、わかってくれる……はず。
「コンちゃんポンちゃん……」
うわ、店長さんなんだか怒ってます。
わたし、一抜け。
コンちゃんはまだしがみついてます。
「なんじゃ、また心臓マッサージして欲しいのか?」
怒った店長さんと、子供みたいな笑顔のコンちゃんがにらみ合い。
今度は店長さんが先に折れました。
「じゃ、コンちゃん、おいで」
「うむ、ここからはアダルトな世界じゃ、ポンは余所に……」
コンちゃんが店長さんに抱きしめられます。
いいなぁ、わたしも、一抜けしなきゃよかったかな。
でもでも、見てるとコンちゃん、なんだか動かなくなりましたよ。
ぐったりとしています。
店長さん、そんな動かなくなったコンちゃんを布団に寝かせて、
「まったく、悪ふざけばっかりなんだから」
「店長さん、なにをしたんです?」
「うん? こう、ぎゅっと抱きしめたんだよ、思い切り、気を失うほどに」
「……」
「ポンちゃんも、してほしい?」
「そんなの嫌です」
朝はコンちゃんの祠のお参りから始まります。
「あら、おはようさん」
「おはよう、おばあちゃん」
声をかけてきたのは、お隣の豆腐屋さんのおばあちゃん。
お隣といってもちょっと離れているんだけど。
「あんたが毎日、お稲荷さんを掃除してるかね?」
「えへへ、そうです」
「だから、あの店は繁盛してるんだねぇ」
「です!」
「でも、この祠もダムに沈んじゃうねぇ」
「!!」
「このお稲荷さまは、何でもかなり昔からあるらしいから、ご利益もすごいんだろうけど、ダムに沈んだらどうなるんだろうねぇ」
お店に帰るとコンちゃんがむすっとしてます。
「ただいま~」
「遅い、腹が減ったぞ」
「コンちゃんコンちゃん」
「なんじゃ、ポン?」
「コンちゃんは、あのお稲荷さまなんだよね?」
「うむ、そうじゃ」
「祠がダムに沈んだら、コンちゃんはどうなっちゃうの?」
「それは、死んでしまうんじゃないのかの?」
「!!」
コンちゃん平気な顔で言います!
「か、神さまなのに、死んじゃうの!」
「まぁ、死ぬときは死ぬかな」
ダムが出来たら、コンちゃん死んじゃいます!
店長さんが…
「じゃあ、ポンちゃんは一緒に街で暮らせるかな」
「そ、それってプロポーズ?」
ついにわたしも結婚かも!
次回をお楽しみに~