第2話「コンちゃん登場」
「おぬしの信仰心に対して、願いを一つ……」
霧の中から現れたのは、銀色の髪の女の人です!
「うわ、なに、タヌキが何でいるのじゃ!」
「キツネさんですね」
もう一人の恩返しさん、コンちゃん登場!
お手伝い二日目は朝からお出かけです。
「あ、昨日店長さんからパンを貰ったところです」
「うん……本当にタヌキなんだ……」
「て、店長さん、見ないでください」
「?」
店長さん、昨日しっぽを触ってから、わたしのお尻見てばっかりです。
「しっぽだけ化けられないのは、出来そこない?」
ぐさ……店長さん言いにくい事、ずけずけ言います。
気にしてるんだから、見るのは我慢するけど、言わないでほしいなぁ。
「そこだから」
「え?」
「その祠」
「ほこら?」
店長さんに言われて、祠を見ます。
小さい石の祠です。
「お稲荷さまだから、毎日お参りしてるの」
そう言いながら、店長さんはわたしにパンを渡して、自分では立てかけてあった箒で掃除を始めました。
すると……急に霧が出てきました……なんだか嫌な予感です。
「毎日まいにち、感心よのう」
「!!」
「おぬしの信仰心に対して、願いを一つ……」
霧の中から現れたのは、銀色の髪の女の人です!
長いふわふわの髪をなびかせながら現れた女の人は、わたしを見ていきなり、
「うわ、なに、タヌキが何でいるのじゃ!」
嫌そうな顔で言います。
わたしも、ちょっと近付いて、匂いでわかりました。
「キツネさんですね」
「キツネさんだと……タヌキのお前に言われとうない」
「?」
「わらわはこの祠の主!」
「ほこらのあるじ……キツネさんはお稲荷さま?」
「そうだ、わかっておるようじゃな」
「ふへー」
「お前のように、変身はっぱで変身してる訳ではない、神さまなのだよ、神さま」
「ふへー」
「ぼーっと見てないで、ひれ伏せ」
「ひれ伏す?」
さっきから、キツネさんはちょっと怒ってるみたい。
「あ、あの……」
「なんじゃ?」
「キツネさんは……」
「お稲荷さまじゃ!」
「お稲荷さまは、名前は? わたしはポンちゃん」
「ポ、ポンちゃん……」
キツネさんは白い着物に銀色の長い髪で、やっぱり山に捨ててあった雑誌に出てくる女の子みたいな格好です。
もしかしたら、キツネさんも店長さんが好きとか!
「わらわは神だから名前なぞない」
それまで黙ってわたし達を見守っていた店長さんが、
「キツネなんだから、コンちゃんでいいんじゃねーの?」
「コンちゃん!」
わたしがポンちゃんだから、なんだかお揃いで姉妹みたい。
コンちゃんの方がずっと大人に見えるから、お姉さんかな。
「じゃ、名前も付けたし、帰るとするか」
店長さん、涼しい顔して行っちゃいます。
わたしが後を追っていると、コンちゃんも来て、
「こら、おぬし、願いを一つ叶えてやると言うのに……」
「お稲荷さまの名前はコンちゃん……もうそれでいいよ」
店長さん、にっこり笑って答えます。
コンちゃんきょとんとして、
「おぬし、こう、世界征服とか、野望みたいなの、ないかの?」
「もう名前付けれたから、いいよ」
「酒池肉林とか、ないかの?」
「まだ、叶えてくれるのか?」
「うむ……しかたあるまい」
「しかたない……なら別にいいよ、じゃあ」
「待たぬか、それではわらわの面目が立たぬ」
食い下がるコンちゃん……参考になります。
でもでも、店長さん、どことなく面倒くさそう。
怒ってるんじゃないのかな?
コンちゃん嫌われないといいけど……
わたしも嫌われないように、気をつけないとね。
店長さんは考えてから、
「じゃあ、現金で一千万出して」
「出来ぬ、金で真の幸せなどありえん」
「お店を綺麗にして、新築」
「そーゆーのは、神の能力でなくても出来る」
「じゃ、世界征服」
「おぬしの本心ではあるめい」
「コンちゃん何も出来ないなぁ、じゃあ、ね」
「コラ!」
わたしも「お金」「新築」「世界征服」見てみたかったから、ちょっと残念。
「ほら、食う寝る遊ぶと言うではないか」
「じゃ、ごはん作って」
「わらわはお供えを作ってもらう側じゃ」
「ゲーム機出して」
「わらわはアナログで知らん」
コンちゃんが、店長さんの腕に腕を絡めます。
「ほら、わらわをよく見よ、ドキドキせぬか」
「だめーっ!」
大好きな店長さんを渡すなんてできない!
空いている方の腕をつかまえて、店長さんにしがみつきです。
「店長さんは、わたしのものです、もう、昨日の夜は一緒だったんだから!」
「別々に寝てて一緒とは言わぬ!」
「みみみ見てたんですか!」
「言ってみただけじゃ、結局ウソか」
「コ、コンちゃんひどい……わたしを騙したーっ!」
泣きながら……でもでも店長さんに抱きついちゃえ。
と……店長さんの手がわたしの頭に乗せられて、押し戻します。
見たら、ちょっと顔が怒ってる。
嫌われるのいやだから、ちょっと我慢がまん。
コンちゃんも雰囲気察したみたいで、小さくなってます。
「じゃあ、二人には店の手伝い、やってもらうかな」
「わたし、頑張ります!」
「うむ、その程度でよければ、わらわもやってやろう」
「やってやろう?」
「うむ……やると……しよう」
「ひらひらしていて、なんだか……」
「コンちゃんかわいい~」
今日も制服でお店のお手伝い。
コンちゃんの制服は、なんだかすごく似合ってます。
山に捨ててある雑誌でも見た事ある、かわいい女の子そっくり。
そして嬉しくなったのは、コンちゃんもしっぽを隠せないの。
「コンちゃん、しっぽ出てるよ」
店長さん、すぐに女の子のお尻を見ます。エッチさんです。
それに、しっぽの事、じっと見られるの、いやなんですよ。
コンちゃんは言われて真っ赤になると……なんだかまた、かわいさパワーアップ。
わたしも、しっぽの事を言われるのを思い出して赤くなったら、
「ポンちゃん風邪?」
店長さんは、乙女心、全然わかってないです。鈍いんだから……でも好き。
お店はコンちゃんのかわいさもあってか、大繁盛。
お隣の豆腐屋さんのおじちゃんやおばちゃんもやってきて、今日は売上が良かったって言ってました。
なんでも、このパン屋さんがお客さんを連れて来るんだって。
コンちゃんはお稲荷さまだから、その「能力」かもしれないなぁ。
でも一番嬉しいのは、店長さんが笑顔な事。
今日のお仕事、大成功で、よかったです。
虫の声を聞きながら、夕飯の雰囲気は微妙です。
「夜が来たな……今宵はわらわが夜伽をしてやろう」
「……」
「遠慮せずともよい、ポンのように小娘ではないからのう」
コンちゃんは腕を寄せて、胸を強調するポーズ。
わたしだって、雑誌で勉強したんだから。
でも、わたしの胸はコンちゃんには負けるよ~
「店長さん、好きっ!」
もう、こうなったら、嫌われてもいいから猛アタックです。
すり寄って、店長のさんの腕をしっかりつかまえちゃえ。
「ポン……おぬし」
「コンちゃん……」
にらんでくるコンちゃんに、わたしだって負けません。
「二人とも……」
「!!」
「俺は人間だから、一人としか結婚できないんだ」
「けけけ結婚っ!」
「ポンちゃんはタヌキで、コンちゃんはキツネ……本当に本当なら、結婚してもいいよ」
「え?」
「ポンちゃんはタヌキって証明して、コンちゃんはキツネって証明するの……その化けているってのをね」
言われてわたしはしっぽを見せます。
コンちゃんも見せたけど、店長さんは首を横に振って、
「今はコスプレってあるんだよ」
コスプレは知ってます、雑誌で見ました、猫耳とか兎耳もあります。
「だから……もしも人を化かすようなタヌキやキツネなら、珍しいから結婚するよ」
コンちゃんの表情が、ちょっと困ってます。
わたしも聞いちゃいました。
「店長さん……どうしたらいいんですか?」
「化けタヌキの技といえば馬糞のおはぎのいたずらとか」
「え!」
そんなわけで、わたしとコンちゃんは馬糞のおはぎで店長さんをいたずらしないといけなくなりました。
「命をかける……ふむ……たとえば?」
「タヌキは狸汁……キツネは……思い浮かばないです」
「ああ、そう、昔流行ったんじゃが、襟巻きがある」
次回はコンちゃんとわたしで店長さんの命令遂行です。
わたし、成功させて店長さんと結婚…できるのかな?