第1話「変身はっぱで恩返し」
わたしはタヌキのポンちゃん。
店長さんにパンを恵んでもらって、命が助かりました。
伝説のアイテム「変身はっぱ」で変身して恩返しです。
えへへ、ちゃんと恩返しの勉強もしてきたんですよ。
狸汁以外の方法で恩返ししちゃいま~す!
わたしはタヌキのポンちゃん。
お、おなかが空きました。
もう、一週間くらい何も食べていません。
ここはとある山の中。
最近はダムをつくるとか道路をつくるとか……人間がたくさんです。
樹がなくなったりして、食べるモノがなくなって、本当におなかが鳴きっぱなし。
美味しい匂いにつられて、匂いの方へ方へと歩いてきたけど、もう限界。
足がとまって、うずくまって、もう、まぶたも重いですです。
かすむ目の先には、黒い影が見えます。
カラス……カラスです!
ああ、もうわたしを食べるつもりで待ち構えているオーラがひしひしと伝わってきました。
ああ、タヌキに生まれて、楽しかったな。
ああ、でも、おなかいっぱい食べたかった。
「死んでるのかな?」
!!
人の声です、でも、もう逃げられません。
わたしは、狸汁になっちゃうんでしょうか?
「ほら、食べなよ、残り物だけど」
すると、鼻先になにか美味しそうな匂いが!
この匂いを辿っていたの、思い出しました。
「じゃあ、ね」
そう言って人間は行っちゃいました。
人間の置いていったのは「アンパン」「メロンパン」。
カラスがやってくる前に、しっかりちゃんと、食べちゃいました。
これは、もう恩返しするしかないです。
でもでも、タヌキのわたしじゃ、狸汁になるくらいしか、出来ません。
ふふふ……でも、わたしには必殺の「変身はっぱ」がありますっ!
タヌキが頭にのせて変身するアレですよ。
死んだお母さんから貰った伝説アイテム。
早速変身!
イメージを膨らませます!
そしてジャンプ。
宙返り決め!
爆発。
わたしの体が七色に光りながら、変身していきます。
髪はショートで、服はとりあえずワンピ。
「ほ、本当に変身できた!」
体を確かめてみると、しっかり人間の体みたいです。
顔は見れないけど、触ってみた感じはばっちり。
「この体なら、ちゃんと恩返しできます!」
「村のパン屋」の看板が見えます。
煙突からは煙がゆらゆらと出ていて、店の中ではさっきの人が右に左にと働いてます。
恩返し……あの人が店長さんで、わたしがアルバイト。
二人はいつしか、結ばれる運命。
そうに決まってます、じゃなきゃ、パンを恵んでなんかくれるはずないです。
もう、あのアンパンとメロンパンは、運命のきっかけ。
わたし、思い切ってパン屋さんのドアを開けます。
「わたしはポンちゃん、恩返しに来ましたっ!」
「……」
「あ、あの……」
「いらっしゃい、何にしますか?」
「で、ですから恩返しに来ました」
「……」
「わたしは、さっきパンを恵んでもらったタヌキです」
「ふうん……さっきのタヌキ?」
「そうです、さっきのパンのおかげでカラスに食われないですみました、もう店長さんに恩返しして一生尽くします」
「そりゃ、さっき道端のタヌキにパンはやったけどさ……」
「でしょ!」
「でも、どー見ても中坊くらいにしか……」
店長さんは、なんだか信じられないといった顔です。
「信じられないな……バカにしてるの?」
「どうしたら……信じてもらえるんでしょう……メロンパンとアンパンの恩返し」
「見てたの?」
「もらいましたから」
「ふうん……さっきそれっぽい人はいなかったんだけど」
「信じてもらえましたか!」
途端に店長さんの表情が硬くなりました。
どうしたらいいんでしょう?
「適当な事言って潜り込もうってヤツかもしれない……なんて思われるとか、考えなかったの?」
「わたしにそんな事言われても……恩返しの事しか考えてなかったし」
「それにタヌキが恩返しなんて、昔話じゃあるまいし」
「そんなぁ……どうしたら、信じてもらえるんです?」
もうどうしていいか、泣きたい気分です。
シュンとしてると、考えているみたいだった店長さんは、
「うん、でも、お客さんがいっぱい来たら、信じてあげられるかな」
「え!」
「ほら、売上良ければ、福の神だからね」
「じゃあ、恩返ししていいんですか!」
店長さんはわたしの頬を撫でたりしながら、
「制服着てカウンターに立っててくれたらいいよ」
「わ、わたしはタヌキだから、大丈夫でしょうか?」
「パン焼きは終って売るだけだから、一緒にいるよ」
「そ、そうですか」
「じゃあ……ポンちゃんだっけ、パンを袋に詰めるだけでいいから」
「そ、それならできそうです~」
「じゃ、仕事頑張ってな……もしも客がさっぱり来なかったら……」
「う……来なかったら?」
「タヌキだから、狸汁になってもらうしか」
「わ、わたし頑張ります!」
命がけ……なのに店長さんは笑ってます。
本当に本気で真剣なのにモウ!
綺麗な制服を着せてもらいましたよ。
メイドさんなんだって……うれしいな。
お客さんはたくさん来ました。
もう、わたしの知らないくらいたくさんです。
お店は綺麗で、パンも沢山あったのに、お昼前には売り切れちゃいました。
「店長さん、完売です!」
「おお、ポンちゃんのおかげだ」
「やりました!」
「午後はお菓子とか、そんなのを出すから頼むよ」
「はーい!」
わたしは、なんだかパン屋さんすごく楽しくなりました。
恩返しで、店長さんに喜んでもらえればよかったんだけど……
お客さんがにこにこしながらパンを持っていくの、嬉しいし……
「ポンちゃんは女だから、客受けいいみたいだしね」
「そうですか~」
なんだかんだで、夕方になるまでに、クッキーなんかも全部売れちゃいました。
「ポンちゃんのおかげだよ」
そう言いながら、頭をなでなでしてくれます。
嬉しくなって、思わず店長さんに抱きついちゃいました。
そして、夜が来ました。
「じゃあ、ポンちゃんお疲れさま……帰っていいよ」
「店長さん、わたしはタヌキだから……ここに置いてください」
そう、山に捨ててある雑誌で勉強してるんです。
こーゆー時は、女の子・ポンちゃんはもう、捧げるしか!
でも、狸汁なんかじゃなくて、もう、エッチ~
そう、山に捨ててある雑誌で、しっかり勉強してきたんです。
「店長さんっ!」
「……」
でもでも、店長さんすごい嫌そうな顔。
わたしは、お店のガラスに映った自分の姿、ちょっと見ます。
イメージした通り、雑誌の女の子みたい。
店長さんは、もしかしたら髪の長い娘の方が、よかったのかなぁ。
「わわわわたしは恩返ししないと、ダメなんです、だから!」
「だから?」
「もう、ポンちゃんを捧げます!」
そう、こーゆー時、雑誌じゃ脱ぐんです、もう、わたし恥ずかしいけど、目をつぶって脱ぎました!
ゆっくり、震えながら、まぶたを開きます。
店長さん、びっくりした顔、してます。
じっと見つめられて、もう、顔がさっきから熱々。
そんな店長さんが近寄ってきました。
「え!」
ゆっくり、抱きしめてくれます。
店長さんの手が、背中を撫でて……
ゆっくりと、下りてきます……
わわわわたしは初めてだから、ちょっとこわいかな!
店長さんの手が、しっかりと握ってくるの、感じます。
「ポンちゃん……本当にタヌキだったんだね」
「え?」
店長さんの手を感じます……感じるけど、お尻じゃないよ。
雑誌だと、お尻を触ってたような……
もふもふと触られるのを感じながら、店長さんの顔を見ました。
「俺、信じるよ、うん」
「て、店長さん!」
「しっぽ、出てるよ!」
わたし、店長さんを押しのけて、しっぽを握りしめて店の隅で小さくなっちゃいました。
なんだか、ちょっと違った恥ずかしさです~!
村の夜は静かです。
お月さまが、パン屋さんを照らしています。
わたしは店長さんのベットでお休み。
店長さんは、
「女の子床に寝かせるのもね」
だって……喜んでいいのかな。
一緒にお休みでも、よかったのに……
でも、さっきしっぽを言われたから……しっぽはなぜか隠せないし……恥ずかしいから、一人がいいかな。
もうちょっとしたら、一緒のお布団で眠れるといいかも。
わたしはもう、どきどきしながら、寝ちゃって、もう一人の恩返しさんに気付きませんでした。
朝までは……
「おぬしの信仰心に対して、願いを一つ……」
霧の中から現れたのは、銀色の髪の女の人です!
「うわ、なに、タヌキが何でいるのじゃ!」
「キツネさんですね」
もう一人の恩返しさん、コンちゃん登場!