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悪役令嬢は嫌われることにした ~嫌われても辺境で黒字を出す~  作者: 桐谷ルナ


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第8話 透明な敵

 教会の寄進額が減少したという噂は、三日で事実になった。


 掲示板の前に人だかりができる。


 塩在庫、微増。

 医療支出、横ばい。

 寄進額、減少。


 数字は嘘をつかない。

 だが数字は、怒りを生む。


「教会を弱らせてどうする」

「神父様の施しが減ったら困るのは私たちだ」


 私は広場に立ち、ざわめきを受け止める。


「寄進は自由です」


 短い言葉。


「強制ではありません」


「でも教会がなければ診療は!」


 ルカが前に出る。目は赤い。


「あなたは神を追い詰めている!」


「追い詰めているのは数字だ」


 私は掲示板を指す。


「寄進は減った。だが塩は増えた。医療は維持している」


「でも不安が増えた!」


「不安は前からあった」


 沈黙が落ちる。


 不安は、見えなかっただけだ。


 マルケスが群衆の後方から現れる。穏やかな笑み。


「ご領主様。民は安心を求めています」


「安心は約束できません」


「ならば希望を」


「希望は計算できません」


 視線が交わる。


 マルケスは一歩近づく。


「あなたは透明化を武器にしている。しかし透明は冷たい。人は温もりを求める」


「温もりで冬は越せない」


「ですが心は凍る」


 その言葉は、群衆に響いた。


 私は一瞬だけ迷う。


 確かに私は冷たい。


 だが温もりを与えれば、誰かが死ぬ。


 私は答える。


「凍る心は戻る。死者は戻らない」


 ルカが拳を握る。


「あなたは人を信じていない!」


「信じている」


 私は静かに言う。


「だから公開する」


 掲示板に新たな項目を貼り出す。


 教会との共同医療費。

 商人との再契約内容。

 私の俸給削減。


 ざわめきが変わる。


「自分の給料も削ったのか」


「当然だ」


 マルケスの目がわずかに細まる。


「あなたは敵を増やしますよ」


「透明な敵なら、数えられる」


 沈黙。


 その夜、城館に匿名の脅迫文が届く。


『悪役は去れ』


 私は火にくべる。


 セドリックが言う。


「支持率はさらに下がります」


「計算済み」


「恐怖は増えます」


「制御可能?」


「まだ」


 彼は窓の外を見る。


「臨界点は越えました。今は下降局面です」


「底は」


「読めません」


 私は笑う。


「読めないのは珍しい」


「人心は数式ではありません」


「だから公開する」


 翌朝、教会内で不穏な動きがあった。


 一部の神官がマルケスの方針に疑問を呈しているという。


 寄進減少が続けば、内部に亀裂が入る。


 私はセドリックを見る。


「内部交渉は可能?」


「可能です。ただし時間が必要」


「時間はない」


「作るしかない」


 私は決断する。


「教会監査の第二段階を開始する」


「強行ですか」


「共同委員会を設置する」


 セドリックが目を細める。


「巻き込む」


「敵を孤立させない」


 数日後、城館と教会の合同委員会が発足する。


 帳簿が並ぶ。


 数字が暴かれる。


 民衆は見る。


 マルケスは微笑みを崩さない。


 だが彼の背後で、神官たちの視線が揺れる。


 夜、私は執政室でひとり帳簿を閉じる。


 冬の風が窓を叩く。


 エミルの名はまだ掲示されている。


 私は目を閉じる。


 温もりは与えられない。


 だが凍らせない努力はできる。


 セドリックが静かに言う。


「あなたは正しくない」


「知っている」


「ですが、あなたは逃げない」


「逃げれば、また同じになる」


 私は立ち上がる。


 透明な敵は、形がない。


 だからこそ、恐ろしい。


 だが恐れない。


 悪役であることを、武器にする。


 冬はまだ、始まったばかりだ。


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