第24話 露呈
王太子の署名は、王城を揺らした。
公開裁判停止。
非常評議会権限凍結。
廊下で怒号が飛び交う。
「越権だ!」
「軍を呼べ!」
だが近衛隊は動かない。
ダリウス・フォルンが、無言で王太子の前に立っていた。
「近衛は王命に従う」
短い宣言。
軍は割れなかった。
その数刻後、王城文書庫から一人の女が現れる。
ミラ・エルデン。
無表情のまま、封印された帳簿を抱えている。
「証拠です」
彼女は静かに言った。
王城評議室にて、帳簿が開かれる。
軍需契約。
穀物備蓄資金。
王都再開発費。
資金の流れは、ある一点に集中していた。
ローヴェン公爵。
そしてその下に、補佐官レナード・ヴァイルの署名。
沈黙が落ちる。
「捏造だ」
レナードが言う。
「文書は本物です」
ミラの声は揺れない。
「三年前からの横流し。軍需契約の過剰発注。備蓄不足の一因」
室内が凍る。
王太子がゆっくりと立ち上がる。
「説明を」
レナードの表情が初めて崩れる。
「国家のためだ」
「国家か、利権か」
「強い国家には資金が必要だ!」
「恐怖で縛る国家か」
沈黙。
王太子の声は低い。
「補佐官レナード・ヴァイル。
即時解任。
身柄拘束」
衛兵が動く。
レナードは抵抗しない。
ただ私を見る。
「あなたは甘い」
「違います」
私は静かに返す。
「あなたは短期を選び、私は継続を選んだ」
彼は笑った。
「国家は理想では守れない」
「ええ」
「だが支配でも守れない」
衛兵に連れられていく背中は、敗北者のそれではない。
理念の違い。
それだけだ。
ローヴェン公爵は謹慎。
軍需契約は再調査。
王城の空気は重いが、崩壊はしない。
ダリウスが低く言う。
「内戦は回避された」
「ええ」
「あなたの賭けだ」
「王太子の決断です」
その夜、地下牢の扉が開く。
セドリックが出てくる。
顔は疲れているが、傷は浅い。
拷問はされていない。
私は彼を見つめる。
「解放です」
「聞きました」
彼は静かに言う。
「あなたは私を切れた」
「ええ」
「切らなかった」
「ええ」
沈黙。
「なぜです」
「国家が個人を簡単に切る構造は、継続しない」
彼は小さく息を吐く。
「あなたは正しくない」
「知っている」
「ですが」
彼は初めて微笑む。
「あなたは、一貫している」
それは赦しではない。
理解だった。
王城の外、冬の風が吹く。
国家は揺れた。
だが割れなかった。
残るのは、制度。
そして、選択の記録。
物語は、静かに終わりへ向かう。
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