第23話 選択
三日目の朝は、静かだった。
静かすぎた。
王城前には衛兵が増え、評議会棟は封鎖に近い警備体制。
セドリックは地下牢。
公開裁判の準備が進んでいる。
私は王太子の私室へ通された。
エドガーは、疲れきった顔をしている。
「時間がない」
彼は言う。
「非常評議会は、裁判を強行する」
「あなたの許可なしに?」
「私の署名を形式的に使う」
実質的な権限剥奪。
「止められますか」
「止めれば支持を失う」
「止めなければ」
「軍が割れる」
沈黙。
彼は低く言う。
「あなたならどうする」
私は迷わない。
「拒否します」
「支持が落ちる」
「落ちるでしょう」
「王位が危うくなる」
「可能性はある」
彼は苛立ちを滲ませる。
「あなたは失うものが少ない」
「違います」
私は静かに言う。
「私は国を失います」
沈黙。
「セドリックを切れば、楽になる」
「ええ」
「あなたは切らない」
「切れます」
彼が顔を上げる。
「だが切りません」
「なぜだ」
私は答える。
「国家が個人を簡単に切る構造なら、いずれ王も切られます」
彼の呼吸が止まる。
「制度は継続のためにある。恐怖のためではない」
「だが今は危機だ」
「危機だからです」
私は一歩近づく。
「あなたが王なら、署名してください」
「何に」
「公開裁判の停止命令に」
室内が凍る。
「それは評議会と軍を敵に回す」
「ええ」
「あなたは私を孤立させる」
「違います」
私は低く言う。
「あなたは初めて、王になります」
長い沈黙。
エドガーの手が震える。
「私は愛されたい」
「愛され続けることは不可能です」
彼は目を閉じる。
「私は、間違っているか」
「いいえ」
「ではなぜ」
「あなたは人気を守ろうとする。
私は継続を守る」
沈黙。
彼は机の上の書類を見つめる。
非常評議会承認書。
公開裁判命令。
ゆっくりとペンを取る。
そして――
横線を引く。
無効。
次の紙に署名。
『公開裁判停止。非常評議会権限一時凍結』
重い音が室内に響く。
決断。
エドガーは青ざめている。
「これで、私は敵を作った」
「ええ」
「あなたもだ」
「慣れています」
扉の外で、足音が走る。
評議会が動く。
軍がざわめく。
国家が揺れる。
私は静かに言う。
「ありがとうございます」
彼は苦く笑う。
「感謝される王になりたかった」
「継続する王になれます」
その瞬間、近衛隊長ダリウスが飛び込む。
「殿下、評議会が抗議を」
「命令を通す」
エドガーの声は震えていない。
初めて。
王の声だった。
私は背を向ける。
セドリックの裁判は止まった。
だが戦いは終わっていない。
国家は、分水嶺に立っている。
嫌われる覚悟は、私だけのものではなくなった。




