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悪役令嬢は嫌われることにした ~嫌われても辺境で黒字を出す~  作者: 桐谷ルナ


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第22話 拘束

 それは、朝の報告よりも早く届いた。


 王都からの急使。

 馬は泡を吹き、封蝋は割れている。


 私は手紙を受け取る。


 短い文面。


『セドリック・ハルヴァイン、国家不安定化の疑いにより拘束』


 文字は整っている。


 だが意図は荒い。


 ハロルドが青ざめる。


「罪状は……?」


「辺境連合との共謀。

 価格操作への関与。

 王権軽視」


 私は手紙を畳む。


 静かに。


「王太子の命ですか」


「いいえ」


 使者が震えながら答える。


「非常評議会決定。レナード・ヴァイル主導」


 やはり。


 私は窓の外を見る。


 レヴァンは静かだ。


 冬は深い。


 だが王都は違う。


 権力が動いた。


「拷問は」


「まだ」


 まだ。


 時間はある。


 だが猶予は短い。


「辺境連合へ通達」


「軍を動かしますか?」


「動かさない」


 ハロルドが驚く。


「ですが!」


「軍を動かせば、内戦になる」


 沈黙。


 私は立ち上がる。


「王都へ行く」


 ——


 王城は、空気が変わっていた。


 衛兵の配置。

 評議会の警備。

 近衛隊の動き。


 レナードは笑っていない。


「ご足労だな」


「解放を求めます」


「司法手続きだ」


「政治です」


 視線がぶつかる。


「彼はあなたの右腕だ」


「優秀な官僚です」


「切るか?」


 沈黙。


 一瞬だけ。


 その一瞬が、長い。


「辺境連合を解体しなさい」


 レナードが言う。


「制度改革の追加条項を撤回。

 供出率五割を受諾。

 それで彼は帰す」


 条件は明確。


 国家か。

 個人か。


「拒否すれば?」


「国家反逆の主犯として公開裁判」


 処刑もあり得る。


 私は目を閉じる。


 ほんの一瞬。


 セドリックの声が蘇る。


『あなたは正しくない』

『ですが、あなたは逃げない』


 レナードが続ける。


「あなたは冷酷だろう?

 合理的に選べ」


 合理。


 国家を守るなら、個人は切る。


 正しい。


 だが。


 私は目を開く。


「拒否します」


 室内が凍る。


「国家は個人を切り捨てる構造では持続しません」


「甘い」


「違います」


 私は静かに言う。


「私は彼を犠牲にしない。

 だが制度も捨てない」


 レナードの目が細まる。


「両立は不可能だ」


「証明します」


 彼は冷笑する。


「三日だ。

 三日以内に決断しなければ裁判にかける」


 期限。


 私は背を向ける。


 王城の廊下を歩く。


 足音がやけに響く。


 セドリックは地下牢。


 私は計算する。


 軍は動かせない。

 連合は揺れている。

 王太子は弱い。


 だが。


 制度はまだ生きている。


 塔に戻ると、ハロルドが問う。


「どうしますか」


 私は即答しない。


 初めて、沈黙が落ちる。


 国家を守るために、

 個人を切るか。


 それとも。


 セドリックの言葉が蘇る。


『あなたは恐れている』


 ええ。


 恐れている。


 力が制度を壊すことを。


 だが今は違う。


 恐れているのは、


 私が彼を切ることだ。


 三日。


 時間は短い。


 嫌われる覚悟はあった。


 だがこれは別だ。


 冬の空は重い。


 国家は、崩れる一歩手前だ。


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