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悪役令嬢は嫌われることにした ~嫌われても辺境で黒字を出す~  作者: 桐谷ルナ


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第17話 交易の刃

 辺境会議から三日後。


 河港領の水門が、静かに閉じられた。


 封鎖ではない。


 “検査強化”という名目での滞留。


 王都行きの穀物船は港に留め置かれ、書類確認と品質検査が繰り返される。


 市場経由の流通は許可。


 だが直送は止まる。


 王都の穀物価格は、さらに跳ねた。


「三日で一・五倍です」


 セドリックが報告する。


「予想より早い」


「民衆の不安が加速しています」


 私は頷く。


「王都は?」


「供出強化の再通達を準備中」


 想定内。


 私は机の上に広げた価格推移表を見る。


 上昇曲線は、まるで炎のようだ。


「商人の動きは」


「ヴァルターは協力的です。王都市場での売り渋りを開始」


「利益は出ている?」


「ええ」


 商人は感情では動かない。


 だが利益で動く。


 ——


 王都では小規模な衝突が起き始めた。


 市場前での口論。

 配給所への抗議。

 王城前での陳情。


 王太子エドガーは公衆の前に立つ。


「備蓄は十分だ。混乱に乗じる者の言葉に惑わされるな」


 だが価格は嘘をつかない。


 その夜、王城から急使が到着する。


「王太子殿下より緊急召集」


 私は頷く。


「出る」


 セドリックが言う。


「危険です」


「今は戦場が王都」


 ——


 王城の謁見室。


 エドガーは疲れていた。


「あなたが糸を引いているのか」


 直球だ。


「辺境は共同で再交渉を求めています」


「価格は暴騰している」


「供出率三割が原因です」


「あなたは民を苦しめている」


 彼の声は震えている。


 怒りではない。


 焦りだ。


「苦しみは既にあった」


 私は静かに言う。


「あなたは人気政策を選び、備蓄を削った」


「私は民の負担を減らした!」


「短期の負担を」


 沈黙。


 彼は拳を握る。


「ではどうしろと言う」


「一割供出。代わりに徴税制度の再設計」


「制度を盾にしている」


「制度で守る」


 エドガーは机を叩く。


「私は愛される王でありたい」


「私は嫌われても構わない」


「それが正しいのか」


「継続できるかどうかです」


 視線がぶつかる。


 長い沈黙の末、彼は低く言う。


「暴動が起きれば責任を取れるのか」


「あなたが?」


「あなたがだ」


 私は迷わない。


「取ります」


「どうやって」


「価格安定策を出す」


「今から?」


「今だから」


 私は書類を差し出す。


 ・備蓄義務の法制化

 ・中央徴税の透明化

 ・人気政策の財源制限

 ・市場安定基金の創設


「これが条件です」


 エドガーはそれを見つめる。


 そこにあるのは、批判ではない。


 構造の修正。


「あなたは王都を追い詰めた」


「国家を守りたいだけです」


 彼は目を閉じる。


「……時間をくれ」


 私は頷く。


「冬は待ちません」


 ——


 城館へ戻ると、セドリックが問う。


「手応えは」


「揺れている」


「王太子は強くない」


「優しい」


「優しさは統治に向かない」


「時と場合による」


 私は窓の外を見る。


 吹雪が始まる。


「交易の刃は鋭い」


 セドリックが言う。


「あなたはそれを振るった」


「必要だった」


「傷は残ります」


「国家に?」


「あなたに」


 私は小さく笑う。


「もう傷だらけよ」


 価格は高いまま。


 王都は揺れ。


 辺境は団結し。


 制度改革は、王城の机の上にある。


 冬は深い。


 だが今、国家は初めて自分の構造を見つめている。


 嫌われる刃は、確かに届いた。


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