表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は嫌われることにした ~嫌われても辺境で黒字を出す~  作者: 桐谷ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/25

第14話 協定の代償

 冬は、静かに牙を立て始めた。


 夜明け前の城下は白く凍り、井戸の水面に薄氷が張る。配給の列は以前より整然としているが、顔色は良くない。咳の音は減ったが、食欲のない子供の目が増えた。


 私は執政室で最終案をまとめる。


「教会との正式協定、締結します」


 ハロルドが顔を上げる。


「条件は?」


「医療の常時人員確保。寄進の透明化。代わりに——」


 私は一瞬だけ言葉を区切る。


「教会の慈善事業への領地補助を固定化する」


 赤字に触れる提案だ。


 セドリックが即座に言う。


「負担が増えます」


「安定が増える」


「教会は得をします」


「民が得る」


 彼は沈黙する。


「あなたは教会を崩さないと決めた」


「ええ」


「ならば共存ですか」


「監視下の共存」


 その日の午後、城館の大広間にて協定調印が行われる。


 マルケスは穏やかな笑みで現れる。


「ご領主様、賢明な判断です」


「必要な判断です」


 文書が読み上げられる。


 医療人員の固定。

 寄進の報告義務。

 領地補助の確定。


 民衆は静かに見守る。


 調印。


 拍手はない。


 だが混乱もない。


 マルケスが小声で言う。


「あなたは敵を作らない」


「作っています」


「ですが倒さない」


「今は」


 彼は微笑む。


「あなたは冷酷だが、愚かではない」


「評価は不要です」


 協定は成立した。


 教会は立ち続ける。


 だが帳簿は公開される。


 夜、セドリックが言う。


「あなたは譲りました」


「守った」


「何を」


「秩序」


 彼は頷く。


「私はまだあなたを赦さない」


「必要ない」


「ですが」


 視線が揺れる。


「あなたは、父よりも現実的だ」


 その言葉は、評価でも侮辱でもない。


 記録だ。


 ——


 数日後。


 商人ギルドが正式復帰を宣言。


 塩と穀物の流通が安定する。


 軍の未払いも解消。


 城下に小さな灯が戻る。


 だが支持は急上昇しない。


 民衆は様子を見る。


 私は塔に立つ。


 冬は本格化し、吹雪が近い。


 黒字は小さい。

 赤字は管理可能。

 医療は安定。

 教会は監視下。


 均衡は完成に近い。


 セドリックが隣に立つ。


「第一段階は終わりました」


「ええ」


「ですがこれは始まりです」


「知っている」


 彼は低く言う。


「あなたは正しくない」


「知っている」


「ですが、あなたは必要だ」


 私は目を閉じる。


 王都では、私は排除された。


 ここでは、私は嫌われている。


 それでも灯は消えていない。


「悪役でいい」


 それは諦めではない。


 選択だ。


 冬の風が城壁を打つ。


 遠くで鐘が鳴る。


 第1部は、静かに終わろうとしていた。


 だが地平線の向こうには、さらに深い影がある。


 穀物価格の異常上昇。

 王都からの徴税強化の報。


 私は目を開ける。


 次は——


 国家だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ