第13話 嫌われる覚悟
南区の流行病は、辛うじて抑え込まれた。
死者は増えなかった。
だが代償はあった。
医療費の増加。
備蓄の取り崩し。
黒字は、ほぼ消えた。
月次報告を前に、ハロルドが沈んだ声で言う。
「赤字、再発です」
「予想内」
私は帳簿を閉じる。
支持は回復していない。
教会は灯を掲げ続けている。
商人は様子見。
均衡は、限界に近い。
そのとき、広場で騒ぎが起きたとの報告。
「減税を求める署名が集まっています」
私は頷く。
「代表を呼びなさい」
——
城館の応接室に、農民、商人、神学生、老兵が並ぶ。
ガルドもいる。
「黒字が出たのに減税しない」
「医療も止まりかけた」
「教会と敵対し、民を疲弊させた」
声は理にかなっている。
私は全てを聞き終えてから、立ち上がる。
「減税はしません」
即答。
怒号。
「なぜだ!」
「黒字は消えた」
帳簿を開く。
「流行病対応で赤字に戻った。今減税すれば、春に崩れる」
「だが民は限界だ!」
「限界は越えていない」
冷たい言葉。
ルカが叫ぶ。
「あなたは心がない!」
私は静かに答える。
「心で税は払えない」
沈黙。
私は続ける。
「私は好かれるために統治しない」
空気が凍る。
「私は嫌われる」
視線が刺さる。
「それでも冬を越す」
老兵ガルドが低く言う。
「……覚悟はあるのか」
「ある」
「民に憎まれてもか」
「ええ」
長い沈黙。
代表たちは去る。
支持は、さらに下がる。
——
夜。
セドリックが執政室に入る。
「今日の宣言は危険です」
「承知している」
「あなたは自ら孤立を選んだ」
「必要だ」
彼は机に手を置く。
「なぜそこまで冷たくなれる」
私は視線を上げる。
「冷たいのではない」
「では」
「恐れないだけ」
沈黙。
「私は以前、好かれようとした」
増税承認のとき、王都で。
支持を失わないよう、均衡を取ろうとした。
「結果、ここを壊した」
セドリックは静かに聞く。
「だから今は、嫌われる」
彼は言う。
「あなたは正しくない」
「知っている」
「ですが、あなたは揺れていない」
「揺れたら、また署名を誤る」
彼は長く息を吐く。
「私はあなたを赦さない」
「必要ない」
「ですが」
わずかに視線が柔らぐ。
「あなたは、逃げない」
私は小さく笑う。
「それだけが取り柄」
——
翌朝。
広場に新たな掲示。
備蓄計画。
医療強化案。
軍再整備。
民衆は静かに読む。
歓声はない。
罵声も減った。
代わりにあるのは、重い沈黙。
それは拒絶ではない。
判断だ。
冬の風が強く吹く。
城館の塔から見下ろすと、教会の灯は揺れ、配給の列も整然としている。
均衡は保たれている。
支持は低い。
だが崩れていない。
私は呟く。
「これでいい」
好かれなくていい。
正しくなくていい。
必要であれば。
レヴァン領の冬は、深まる。
だが灯は消えていない。
悪役のままで。




