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人狼シグはわからない  作者: たっこ
第五章:灰は灰に
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卑劣漢ゼロゴ

※残酷な描写あり

「村長殿。

 神の軍勢が通る。

 ご協力願えるな?」


 その指揮官は、言葉の丁寧さとは裏腹に、すでに抜剣していた。

 ぎらりと光る刃におびえ、村長は大地にちぢこまる。


「あ、あの、わたくしどもは、とても貧しく……。

 自分たちの日々の食い扶持も、ままならず……。

 ヒイッ!」


 (らく)()が、どすん、と地を蹴った。

 (あん)(じょう)の指揮官は、冷たく告げた。


「三度は言わぬ。

 物資を積め。家畜を差し出せ」


「ひっ、ひいっ、あの、ですから、何も……。

 ギャアッ!」


 哀れな村長は、刃を呑んで、沈黙した。

 指揮官は、配下の兵たちに「かかれ」と命じた。

 黒い鎧の兵たちが、村の家々へ向かった。


 ゼロゴは、腹の贅肉をぷるぷる震わせながら、馬にしがみついて、それを見ていた。


 この太った男の名は、ゼロゴ・エカロマン・デ・セドルナという。

 聖炎軍に上陸用の港を提供した、セドルナ王国の国王だ。

 そして、南部諸国の盟主でもある。


(なんという残虐な連中だ!

 これまで、イスオドスでは、さんざん聖人ぶって、我らを虚仮(こけ)にしてきたくせに!

 野蛮な邪教徒そのものではないかっ!)


 ゼロゴは、流血におびえながら、薄目で徴発の様子をうかがった。


 マンスドゥス人の使い走りどもが、家々から運び出す物資は、どれも大した量ではない。村長の言うとおり、他所に渡す余裕など無かったのだろう。

 だとしても、あるだけ渡して、足りないぶんは靴でも舐めれば助かったろうに、とゼロゴなら思うが。


(今回ばかりは、異人どもはやけに急いでいる。

 ……何か、裏があるのだな?)


 ゼロゴは、無意識に、指をわきわきと動かした。

 算盤(そろばん)を弾く動きだ。

 考えるときの、ゼロゴの癖だ。


 セドルナ王国は、戦いによって栄えた国ではない。

 浮き沈みする船を操り、荒れる海流を読み切って、海運によって栄えた国だ。

 そのセドルナの王ゼロゴもまた、勇猛果敢な将軍ではない。

 彼は、計算高い商人だった。


(戦をすれば、とにかく勝つ。

 それだけが、この異人どもを使う利点だった。

 しかし、焦っているのだとすれば……。

 ひょっとすると、沈む船かもしれん。

 それは困る! 私の儲けが出ないではないか!)


 ゼロゴが求めている『儲け』。

 それは、インバレラ帝国の帝位であった。


 このインバレラ帝国は、ひどく窮屈な市場だ。

 北部の三国、ペルン、カスラージュ、レノワは、長年、帝位を独占している。厄介な古参商会だ。

 ゼロゴのような新参の南部諸国が、光耀教にどれだけ金を積もうと、栄光の椅子は回ってこない。

 だからこそ、異国マンスドゥスから、軍隊を呼び寄せたのだ。


 ところが、この聖炎軍とかいう『傭兵』は、じつに扱い難い連中だった。


 サルム平野で大勝した。これは良い。

 レバーリャを滅ぼした。これも結構。

 イスオドスを従えた。これも上出来。


 しかし、ゼロゴたち南部諸国が、さっそくイスオドスから利益をむしろうとすると、しゃしゃり出て邪魔をしてきたのだ。

 ゼロゴの懐に入るはずだった金を市民にばらまき、人気取りのために使ってしまった。


 何が、『神の名のもとに、人の労苦は報われなくてはいけません』、だ!

 ゼロゴの神は、炎などではない。

 金色の丸い光だ。

 ずっしり重くて、財布や金庫に貯め込めるような。


 おかげで、ゼロゴたち南部諸国は、イスオドスの市民たちから、まるで悪党のように嫌われた。

 風評被害であると言えよう。


(それでも、光耀教の老いぼれどもを蹴散らすまでの辛抱だと思い、もう何ヶ月も耐えてきたのだぞっ!

 それなのに、もしも『勝てない』なんてことがあれば、私が今まで投資したぶんはどうなる!)


 指の動きは、いよいよ激しい。

 ゼロゴは、顔を真っ赤にしていた。

 隣の部下は、それを見て一歩距離を取った。


「……進発!」


 はっと我に返った。

 略奪、いや、徴発が済んだようだ。


 軍隊は、長い列を作り、再び北へ動き出した。

 黒い鎧のマンスドゥス人は、きびきびと。

 色とりどりの南部諸国は、のろのろと。


(……まったく、強行軍は堪える。

 少しは、こちらを気遣わぬか)


 ゼロゴは、ふう、とため息をついた。腹の贅肉が、たぷん、と揺れた。


 しかし、直後にびくっとすくみあがった。


 赤い両目が、ゼロゴを見ていた。

 聖炎教の導師、ユランサス。

 射るような鋭い眼差しで。


 ゼロゴは、あわてて部下たちに言った。


「ほ、ほれ、お前たち、しゃきっとせぬか!

 遅れておるぞ!

 ちゃきちゃき歩け!」


 セドルナの兵たちの歩調が、わずかに早まる。

 ユランサスの視線が、ふいと逸れた。

 ゼロゴは、腹を揺らして息をついた。


(……そうだ。勝てる、勝てないの問題ではない。

 こんな連中とは、付き合いきれん)


 ゼロゴは、ばれないように気をつけて、その聖職者の背をにらんだ。


(ユランサス、あの金髪の悪魔め。

 クレグで、ついに本性を表しよった。

 あのような狂信者、私の手に負える代物ではない)


 ゼロゴの頭が、冷たく冴えた。


(やつは、信用状の無い商人と同じ。

 これ以上投資を続けても、私に儲けは入らない。

 かくなる上は……)


 空中で指を動かすゼロゴの横顔を、部下はちらりと一瞥し、すぐに視線を逸らした。


 そこへ、蹄の音が近づいた。

 ゼロゴは顔を上げて、そちらを見た。そして、ああ、と納得した。


 トロラモ、パナドラル、ススロ。

 南部諸国の将たちだ。

 つまり、ゼロゴの『共同出資者』だ。


(同じ南部の国々とあって、似たようなことを考えていたか)


 トロラモ王国の将軍が、不安げな顔で切り出した。


「ゼロゴ陛下。じつは、おりいってご相談が……」


「奇遇だな。

 私も、(けい)らと話したかったところだ」


 ゼロゴは、笑顔で彼らを迎えた。

 そして、マンスドゥス人たちに聞かれないように声をひそめ、彼らに相談を持ちかけた。


■次話:『カスラージュ決戦』

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