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人狼シグはわからない  作者: たっこ
第三章:シグ
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由良と野良

 ある日、(さな)()が食べ物を取りに村へ行くと、知らない人たちがいた。

 肌の黒い人たちだった。


 剣で斬りかかってきたので、刀で斬り殺した。

 師父様は、『武器を向けられたら、斬ってよい』と真見に教えてくれたから。


 すると、金髪の人が出てきた。

 この人は剣を持っていないから、斬らなかった。


 金髪の人は、いろいろな知らない言葉を使って、真見に話しかけてきた。

 何を言っているか、わからなかった。

 食べ物を食べながら聞いた。


 その人が、急に、わかる言葉を話した。

 死んだ母が使っていた言葉だった。


『こんにちは。私の言葉がわかりますか?』


 わかったから、『わかる』と答えた。

 声を出したのは、久しぶりだった。

 喉がざらざらと掠れた。


 名前を聞かれた。

 師父様に言われたとおり、『時雨(しぐれ)()()(えい)(りゅう)(かい)(でん)時雨(しぐれ)()(さな)()(ゆき)(はる)』と答えた。


 『シグと呼んでもいいですか?』と聞かれた。

 『うん』と答えた。

 こうして、『(さな)()』は『シグ』になった。


 金髪の人は、ユランサスと名乗った。

 『ユラと呼んでください』と言った。

 ()()というんだな、とシグは覚えた。


 由良は、強い人を探しているといった。

 戦うのが上手な人に、手伝ってほしいことがあるそうだ。

 戦うのを手伝うと、ご飯を食べさせてくれると言った。

 シグは由良を手伝うことにした。

 いつも、お腹が空いていたから。


 サルム平野という場所に、たくさんの人たちと一緒に向かった。

 由良に頼まれて、肌の白い人たちをたくさん斬り殺した。


 由良はシグをたくさん褒めた。

 ご飯をたくさんもらった。

 きれいな小屋も建ててくれた。


 由良は、シグの母に似ていた。

 母と同じ言葉を話す。

 優しかったときの母のように、シグをたくさん褒めてくれる。


 シグは、由良が大好きになった。





 ある時、髪が短くて真っ黒な男の人が来た。

 強そうだった。

 シグは、黙って刀に手を添え、その人の動きを観察した。


 黒い人は、シグを見ながら、由良に何かを言った。


『その傭兵、言葉がわからなければ困るだろう。

 文官を一人つけてはどうだ?』


 音は聞こえたが、何を言っているかわからない。

 由良は、その人に笑って答えた。


『必要ありませんよ、将軍。

 この子は、私が見ますから。

 シグに用がある時は、必ず私を通してください』


『お前は多忙だろう、ユランサス。

 いつも見ていることは不可能だ。

 それに、常識も学ばせなければ、その子どもが孤立して……』


『いいんですよ。この子は、私の天使なんです。

 世のくだらない常識で汚すだなんて、とんでもない』


 黒い人は、由良に追い払われた。

 シグは、刀から手を離した。

 由良は、にっこり優しく笑って、シグにもわかる言葉で、言った。


『私が、あなたを守ってあげます。

 だから、シグ。あなたは私のお願いを聞いてくださいね。

 私の言うことさえ聞いていれば、何もかも上手くいきますからね』


 シグは『わかった』と答えた。

 師父様に『はい、師父様』と言っていたように。

 由良は笑って、シグにたくさんお菓子をくれた。





 由良が、シグに女の人を紹介した。

 ノーラ、というらしかった。

 『ノラさんですよ』と由良が言うので、()()というんだな、とシグは覚えた。

 野良も、母と同じ言葉を話した。


 野良は、由良とは似ていなかった。

 野良は、シグを何度も叱った。


 ご飯を食べたら、叱られた。


『まさか、スプーンを知らないの?』


 道を歩いたら、叱られた。


『危ないから、もっと早く避けて!』


 お風呂に行ったら、叱られた。


『お願いだから、一人で行ってきて!』


 またご飯を食べて、また叱られた。


『いいこと? これは、フォークというのよ』


 とにかく、何をしても叱られた。

 野良も、シグの母に似ていた。

 だけど、叩かれはしなかった。

 部屋に閉じ込められもしなかった。


 野良は、シグに言葉を教えようとした。

 何度も、何度も、教えてきた。

 シグは言葉が苦手だったが、野良が毎日教えるので、がんばって少しずつ覚えた。


 単語の意味と綴りと発音を全部で五十個覚えた日、野良は『すごいわ!』と声を高くして、シグの手を握り、頭を撫でた。


『上手よ、シグ。

 あなたは、賢い。

 あなたはとってもがんばってるわ』


 野良は、師父様にも似ていた。

 でも、野良は殴ったり蹴ったりしなかった。

 痛くないから、難しかった。

 だけど、『えらいわ』と、撫でてくれた。

 えらくなくても、夜、寝る前は『おやすみ、シグ』と撫でてくれた。

 撫でられるのは、好きだった。





 野良のおかげで、周りの人たちの話す言葉が、少しずつわかってきた。

 酔っぱらいの人たちが色々話しかけてくることに、シグも返事をするようにした。

 すると、喧嘩になってしまった。

 相手を何人か斬り殺した。

 由良に呼ばれて叱られた。


 夜の見回りの仕事が増えた。

 仕事には、野良もついてきた。

 シグは言葉がまだ苦手なので、野良がいないと連絡ができない。


 仕事中、知らない人がたくさん集まって、みんなで何かをしていた。

 大きな袋を運んだり、重そうな箱を運んだり。

 遠くから野良のことを指差して、ひそひそ話している人もいた。

 『あの方がレバーリャの王妃様か?』と、シグの耳なら聞き取れた。

 どういう意味だろう。

 まだ習っていないから、わからない。


 仕事を始める前に、兵士の人からは「見回り中に怪しい奴がいたら、捕まえて報せろ」と言われていた。

 シグは、野良に尋ねた。


『野良。この人は、怪しい奴?』


『……いいえ。この人は、ショエルさん。

 知り合いだから、怪しくないわ』


 野良の声は、少し震えていた。

 寒いのかな、と、シグは思った。

 でも、怪しくないなら、関係ない。


 だから、ショエルたちが何か運んだり、話し合ったりしていたけれど、シグはショエルを捕まえなかったし、誰にもそれを報せなかった。


■次話:『はじめて』

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