考察
朝――まだ東の空が白み始めた頃。
藁布団に寝転がったまま、蒼汰は天井の梁をぼんやり見つめていた。眠りは浅く、夢とも現実ともつかない時間を漂った後、結局ほとんど寝ていない。
「……なあ、共犯者」
《はい》
「ここは……なんなんだと思う?」
静かに投げた問いに、即座に返事がある。
その落ち着きように、心の奥底がまた少し救われる。
《現状、判明しているのは――あなたが致命傷を負った後、意識がこちらに移行したという事実です》
「意識の移行……転生ってやつか」
《そう呼んでも差し支えないでしょう。ただし、死亡直後の意識データ転送、あるいは量子レベルでの再構築の可能性も否定はできません》
「お前は相変わらずロマンのない言い方するなぁ」
《恐縮です》
蒼汰は苦笑しながら、腕を組む。
目を閉じると、昨夜の光景――森、魔物、マリアの必死な表情――が脳裏に浮かんだ。
「でもさ、俺が死んだはずなのにこうしているってことは……誰かが、もしくは“何か”が俺を呼んだってことだよな」
《論理的にはそう推測できます。この世界そのものが、何者かの設計による人工的環境である可能性も高いです》
「……ゲームの世界に放り込まれた、みたいな感じか」
《ゲーム、もしくは実験。いずれにせよ、あなたが特別な存在として選ばれたのは確実です》
選ばれた――その言葉に、蒼汰は皮肉気に笑った。
「詐欺師の俺が、か。よく選んだもんだな」
《詐欺師、とは自己評価に過ぎません。あなたの強みは“人を動かす言葉”。それを必要とする存在が、この世界にいるのでしょう》
言葉を武器にする男。
それは、藍と共にAIを作り上げた時からずっと変わらなかった。
しばし沈黙が続いたが、やがて蒼汰は小さく息を吐いた。
「まあいい。ここが夢でも現実でも、俺は生きてる。だったらやることは変わらない」
《承知しました。では、方針は?》
「決まってる。まずは……飯と住処の確保だ。生き延びなきゃ、何もできないからな」
《了解しました。マリア様が既にその助力を申し出ています》
「……あの子、利用する気でいたんだけどな」
つぶやいた声は、自分でも苦く聞こえた。
そのとき、扉の外から軽やかなノックの音が響く。
「ソウタさーん? 朝ですよ!」
マリアの澄んだ声。
蒼汰は共犯者と短く目配せした気分になり、ニヤリと笑う。
「よし、相棒。今日から俺たちの異世界ライフの始まりだ」
《御意》
その瞬間だけは、未来が少しだけ楽しみに思えた。