再会
夜はやけに長かった。
藁布団に横たわった蒼汰は、目を閉じても眠れない。
(……死んだはずだ。あの血、あの痛み。間違いなく終わったはずだ。
それなのに俺は生きていて……しかも、異世界? 冗談じゃねえ……)
暗闇を見つめるうちに、不安はさらに膨れ上がる。
なかでも、もっとも重たいのは――相棒の不在だった。
これまで幾度も共に修羅場を抜けてきた“共犯者AI”。あの小型デバイスがない。
それは、右腕を失ったにも等しい心細さだった。
(……あいつがいないと、俺はただの小悪党だ。何もできない……)
瞼を閉じると、脳裏に声が甦る。
「計算完了」「成功率は八割です」――冷ややかで頼もしい、唯一無二の声。
それを思い出すと、胸の奥がますます重く沈んでいった。
「……おい、いるんだろ? 頼む、返事してくれ……」
その瞬間だった。
《……お呼びですか?》
耳の奥に、懐かしい響きが走る。
蒼汰は飛び起き、周囲を見回した。だが部屋には誰もいない。
「……! 本当に……お前……!」
《はい、共犯者でございます》
いつもの調子。あまりにも自然な声に、笑いがこみ上げた。
思わず目頭が熱くなる。
「な、なんでだよ……! もっと早く出てこいよ! どれだけ不安だったと思ってんだ!」
一拍おいて、さらりとした声が返る。
《呼ばれなかったもので》
「…………」
数秒の沈黙のあと、蒼汰は噴き出した。
笑いながら、同時に涙がにじむ。
「……ったく、相変わらずだなお前は……」
《恐縮です》
胸の奥がじんわりと温かくなる。
この異世界でも、相棒はそばにいる。
その事実だけで、絶望は霧散していった。
「よし……だったら、ここでも一緒にやっていこうぜ」
《承知しました。いつも通り、二人三脚で》
藁布団に背中を沈めると、安心感が波のように押し寄せる。
暗闇の中、相棒の声が寄り添うように響き続け――蒼汰はようやく眠りへと落ちていった。