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新たな世界3

 全力で走った末に、蒼汰とマリアは木柵で囲まれた集落へとたどり着いた。

 背後からは、なおも獣の咆哮が迫ってくる。


「ひっ、ひぃ……! 開けて! 早く!」


 マリアが木柵の門を叩く。中から慌てたように声が響いた。


「誰だ!? 魔物か!?」

「わ、わたしです! マリアです! それと、旅の方が!」


 ごうっ、と風を裂く音。振り返れば、黒毛の獣が間近に迫っていた。

 蒼汰は思わず絶望を覚える。だが――


 ギィッ、と柵の門が開いた。

 その瞬間、村の中から飛び出した男たちが槍を構え、一斉に突き出す。


「今だ、押し返せ!」

「おおおおっ!」


 鋭い悲鳴を上げ、獣が足を止めた。槍先を避けるように後退し、やがて森の奥へと消えていく。


 膝から崩れ落ちるマリア。その肩で荒い息をつきながら、蒼汰も地面に手をついた。


(……生き延びた、のか……)


 ふと、村人たちの視線が集まっているのに気づく。

 訝しむ目、警戒する目。槍を握ったまま、一歩も距離を詰めてこない。


「おい、マリア。そいつは誰だ?」

「見慣れない格好だな。魔物に追われてたんだろう?」

「まさか、魔物を引き連れてきたんじゃ……?」


 ざわめきが広がる。

 蒼汰は即座に理解した――このままでは追い出される。最悪、殺されかねない。


(なら……使うしかねえ。俺の武器を)


 彼は弱々しい笑みを浮かべ、わざと肩を揺らしながら立ち上がった。


「……助けてくれて、本当にありがとうございます。命の恩人だ」


 まず感謝から入る。声を張らず、しかしよく通る声で。

 村人たちの眉が、ほんのわずかに緩む。


「俺は……旅の途中で賊に襲われ、荷も武器も失った。ただ、どうしても届けねばならない言葉がある。

 この身はボロボロだが……生き延びたのは、きっと神の思し召しだと思っています」


 大げさに言葉を紡ぎながら、手を胸に当てる。

 自分がただの流れ者ではなく、“使命を背負った者”であるかのように印象づける。


「どうか、一晩だけでいい。この村に置いてもらえませんか」


 沈黙が落ちる。

 村人たちは顔を見合わせ――そして、マリアが勢いよく頭を下げた。


「わたしが保証します! この方は悪い人じゃありません!」


 その一言で空気が変わった。

 やがて槍を持った壮年の男が、ため息をつくように言った。


「……分かった。だが覚えておけ。怪しい真似をすれば、すぐに叩き出すからな」


 そうして蒼汰は、村の中へと迎え入れられた。


(……ふう。やれやれ。やっぱり、人間は言葉で動く。異世界でも変わらねえな)


 胸中でほくそ笑む。

 死にかけ、恐怖に怯えたはずなのに、今は妙な昂ぶりを覚えていた。

 ――やはり自分は詐欺師だ、と。

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